第4話 夢の妖精モード

 

 その日、静かな後宮に、




 やり直しを要求する~…




 という王妃の雄叫びが響いたとか何とか。しかもあっさりキャンセルできたものだから、




 プリクラか~…




 というツッコミも鳴り響いたのだが、皆首を傾げていた。だよね。魔界だしね。


 一夜開けて、私はキングサイズの天蓋付きベッドで自堕落な二度寝を満喫していた。寝汚いのは元からであるが、セルフ整形手術で心身共に疲れていたのもある。

 身体を作り替えるのだから当然体力を消費するし、自分の身体がぐにぐに波打って変形していく気持ち悪さは筆舌に尽くしがたいものがある。幸いやり直しは一度で済んだが、昨夜私はベッドに倒れ込んで泥のように眠った。


「王妃様、お目覚めください。王妃様」


 アンの弱りきったような声が聞こえる。

 彼女は部屋付きの侍女だ。ホムンクルスではなく魔族である。専属の侍女は5人いるが、いちばん年若い彼女がいちばん走り回ることも多く、手ずから私を世話することも多かった。

 小さな山羊(牝)の角がある他は、普通の愛らしい娘さんである。


「あと10分…というか別に起きなくてもいいよね…」


 むしろなぜ起きる必要があるんだい?

 どうせ私は今日も一日暇なのだ。


「ですが…ですが、陛下が共に朝食をと仰せで」

「それを早く言ってー!」

 

 飛び起きた私に、アンが目を丸くしている。

 今の私にとって旦那様―――魔王は保護者でありパトロンであり創造主であり、私の生殺与奪の権を握っていると言っていい。機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。

 …なんてことを考えるまでもなく、私は彼を気に入っている。少なくとも、いつでも会いたいと思うくらいには。


「お湯を持って参りました。お顔とお口をお手入れください」

「うん」

「お召し物はこちらでいかがですか」

「GJ!」

「陛下からのお届け物、首飾りでございます」

「ありがとう!!」


 純白のワンピースはiライン。昨日までの私なら二の腕を晒すことに躊躇いがあっただろうが、今の私はひと味違うのである。


 低めだった身長はそのままに、首、腕、脚はあくまでスラリと細く。

 手足も大きさは変えずに手指を細く、足の形を整える。

 黒髪は微風にも揺れる猫っ毛に。

 目、鼻、口は元あるものを2ランクくらいグレードアップしてバランスを調整。


 仕上げにシミもシワもないベビースキン。


 ―――完璧だ。満足だ。


「どうかな!?」

「素敵です、王妃様!」


 華奢な白いワンピース(憧れの)でくるりと回ってみせる私に、満面の笑みで応えるアンは…本当に…良い子だなぁ…(感涙)。

 旦那様からの贈り物だという、銀の針金細工にサファイアをあしらったネックレスを付ければ、戦闘準備は完了である。

 

「よし、行ってくるね」

「いってらっしゃいませ」


 そこは「ご武運を」と言ってほしい、と無茶なツッコミを内心で入れつつ、案内役の後宮侍女に引き継がれる。


「こちらが「朝の間」にございます」


 朝食用の部屋ってことだろうか。金持ちは違うなー。

 少々緊張している私の前で、細かく彫刻が施された重そうな扉は開かれ、


「Oh…」


 そこに広がる光景に、私は絶句することとなった。



 

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