第172話 僕のこれから

ポールとリョウさんがフランスに戻って来てからは、

あわたたしく時が過ぎて行った。


ポールとリョウさんは、

僕の近くにとアパートを定めていたけど、

僕と同じアパートの棟にちょうど3ベッドルームの空きが出たので

広さも部屋数も丁度良く、

今の所はそれで十分とそこに決めた。


僕達は2階で、彼らは5階だったので、

エレベータで行き来できる距離には

僕も少し安心した。


引っ越しが無事終わる頃には、

世の中はジングルベルの曲が流れ、

クリスマスライトが街を明るく飾っていた。


クリスマスとお正月には

両親が毎年フランスへやって来ていた。


その年もいつもと同じように両親がやって来た。

ポールが日本に行っていた間、

僕の両親はポールの事は知らぬ存ぜぬで通した。


でも、フランスにやって来た時に聞いた両親の話によると、

ポールが日本にやって来ていたのは知っていたらしい。

そして籍を入れ、リョウさんが妊娠したことも知っていた。

どうやら二人で両親の所を尋ねたようだ。

だからリョウさんにも僕の両親が

芸能人で、音楽家だと言う事は知られたみたいだけど、

ポールの意向でスランスに帰って僕をびっくりさせるために

両親には口止めをしていたようだ。


妊娠の事はそうであってよかったかもしれないけど、

せめて一言、無事でいるくらいは教えて欲しかった。


今更ブウブウ言っても仕方ないけど、

すべてはうまくいったので、それはそれで良かった。


両親がフランスに居る間は

お父さんのいつもの陽ちゃん騒ぎで

慌ただしい日が過ぎて行ったけど、

それが終わると、直ぐに春が来た。


リョウさんの妊娠期も何事も無く無事に過ぎ、

リョウさんは見事、出産予定日というか、

帝王切開の予定が定められていた37週まで

持ちこたえることが出来た。


そして昨日、3月18日にリョウさんは帝王切開により、

無事に女の子を産んだ。

二人は彼女をジュリアと名付けた。


「陽ちゃん、見て~

ジュリアちゃん可愛い!

凄く可愛い~

陽ちゃんのちっちゃい頃を思い出すよ~」


「かなちゃん、ジュリアちゃん可愛いね~

僕も妹が欲しい!」


「え? 陽ちゃん妹欲しいの?

それは今はちょっと無理かな~」


「え~ どうして?

赤ちゃんはコウノトリさんが運んで

来てくれるんでしょう?

かなちゃん大人だからお願い出来るでしょう?

コウノトリさんにお願いしてよ~」


「え~ そんな情報何処から……」


僕と陽一のそんな会話を、

ポールは笑いを必死に堪えて横で聞いていた。


僕は会話を変えないといけない、と思い、


「ねえ、ジュリアちゃん抱いても良い?」


とリョウさんに尋ねた。


リョウさんは勿論と僕に、ジュリアちゃんを抱かせてくれた。


「うわ~ 軽~い!

可愛い~

色白~い!

鼻高~い!

ちっちゃ~い!


ちょっと怖いけど、

ポールにそっくりだね?」


と言うと、ポールは横で


「それどういう意味?」


とか言っていたけど、


「そうなんだよね。

もっと遺伝的に優勢な僕に似るかなって思ったけど、

ポールにそっくりだよね」


そう言ってリョウさんは笑った。


「ジュリアちゃん、ハーフって言うか、

そのまま白人だよね。

ほらポール、

日本人みたいじゃ無くっても、

自分の子は可愛いでしょう?」


僕がそう尋ねると、


「もう可愛くて、可愛くて、

目に入れても痛くないって、

こういう事をいうんだね~」


そう言ってポールは目を細めた。

やっぱりあんなことを言っていても、

自分の子は特別なようだ。


「でもほんと、

髪も全くないね。

白人ベビー特有だよね。

普通濃い色は優性遺伝なのにね。

混血のDNAって不思議だよね~

ポールは日本人の血も1/4は入ってるにのね!

ジュリアちゃんきっと奇麗になるよ~

大きくなってからが楽しみだよね。


ポールパパ、将来ジュリアちゃんから、

男の子引っぺがすのに大変になりそうだね」


と僕が行ったら、


「だよね~ 他の男にはやりたくないけど、

大きくなったら陽ちゃんのお嫁さんにしようよ!」


とポールが言った。

だから僕も僕達の経験を生かして、


「ダメだよ、ポール。

子供達にはちゃんと自分で好きな人を選んで、

ちゃんと、好きな人と結婚させないと!」


と言うと、リョウさんも、


「そうだ、そうだ」


と僕に賛成してくれた。

ポールはシュンとしていたけど、

ジュリアちゃんの耳元で、


「陽ちゃんを好きにな~れ~

陽ちゃんを好きにな~れ~」


とささやいていた。

他の男はダメでも、陽一だったら良いみたいだ。


それを横で聞いていた陽一も、


「ねえ、かなちゃん、

ジュリアちゃんって大きくなったら

僕のお嫁さんになるの?」


と尋ねるので、僕は苦笑いしながら、


「それは二人が大きくなってみないと

わからないね~」


と言うしかなかった。


3歳になった頃から、

ソーシャルスキルを学ばせるために、

陽一は保育園に行き始めた。


保育園に行き始めると、陽一は知恵を付け始めた。

今まで家庭で学ばなかったことを、

保育園で学ぶようになった。


言葉もぐんと増えた。


また、お友達からも、

色々と良い事も、悪い事も学ぶようになった。


そしてその頃から陽一は僕の事を

かなちゃんと呼ぶようになった。


恐らくポールとリョウさんが

要君と僕の名前を呼ぶことと、

僕達が陽一を陽ちゃんと呼ぶことから

掛け合わせたんだと思う。


そのように、陽一は応用することも学び始めた。


でもそれと同時に、僕がずっと避けていた事、

でも、何時かは話さなくてはいけない

自分の父親についても興味を示すようになった。


初めて、


「どうして僕にはパパが居ないの?」


と聞かれた時は、

心臓が飛び出す思いだった。


こんなに早く父親について訪ねて来るとは思って無かったので、

僕は何の返事も用意していなかった。

どういう風に説明すればいいか分からなかった。


父親の話になると僕が何時も悲しい顔をするので、

陽一も感が良い子なのか、

僕の様子を感じ取って、

それ以上聞くことはしなかった。


そして未だに陽一に

父親の事を話してあげる事は出来ていない。


僕のデスクの上には相変わらず

佐々木先輩と矢野先輩の写真が飾ってあるけど、

陽一は彼らを見ても、

何も特に思うことは無く、

彼等は僕の日本での友達と思っているようだった。

だから僕が彼らを呼ぶ様に

陽一も佐々木先輩、矢野先輩と呼んで僕らの高校時代の話を

楽しそうに何時も聞いていた。


僕の方も大学3年目から、

色々なコンテストや絵画展に参加するようになっていた。

僕が参加していたのはもっぱら色彩画。


コンテストでは色々な賞があったけど、

賞を取るのは中々大変な事で、

時々、残念賞みたいな審査員が作ったような賞を取る事はあったけど、

名を売るような賞を取ることは出来ないでいた。


それでも、コンテストに出せば、

自分の実力が分かるし、

絵画展に出せば、

名を知られることが出来る。

横のつながりなども、少しずつ出来てきた。


絵画展では、絵に値段が付くものもある。

時には、絵画展の後、僕の絵を買いたいと言ってくれる人も

チラホラと出てきた。


だから、週末はフリマなどで、

自分で描いた絵を売ったりもしていた。


好調と言う訳では無かったけど、贅沢をしなければ、

何とか食べていける分は捌くことが出来ていた。


だから僕は、このまま大学を卒業して、

好きな絵を描き続けながら、

何の贅沢もせず、

でも、食いはぐれることも無く、

ずっとここで生活していくんだと思っていた。


4年目の大学が始まり、

丁度進路について教授に相談していた時、

僕に会いたいと日本からリクルートが来ていると言う話が出た。


教授から話を聞くと、

世界中を飛び回っている美術関係のリクルーターで、

以前、絵画展を訪れた時に、僕の絵を見たようだ。

丁度フランスに今来ているそうだったので、

取り敢えずはどのような仕事なのか

話を聞いてみないかと勧められた。


まあ、話を聞くだけだったらタダだよな、

そう思い、約束を繋げてもらった。


それよりも、僕の絵に目を付けてくれたことが

嬉しかった。


それで、来週の水曜日に大学で

会う事になった。



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