第161話 ポールの夢

結局僕は、赤ちゃんに陽一と名前を付けて、

大使館に提出した。


出産後2日目からはまだまだ引きつる傷や痛みと

戦いながら、動き回るようにした。


動いた方が早く回復すると言われたから

というか、無理やり動くよう指示された。


幸い切った傷口からは化膿などせず、

僕も少しずつ回復していった。


少しずつだったけど、自分でも段々と動けるようになった。


その間もポールは甲斐甲斐しく病室に通い詰め、

僕の頬をスリスリとしていた。


その度にお父さんと人悶着起こしては、

お父さんはお母さんに連れて行かれていた。


陽一も大分育ち、心配していた成長過程にも問題なく、

ミルクも良く飲むし、ゲップも上手で、

お通じも良く、

体温調節も自分で出来るようになり、

僕と同じ日の1週間後に一緒に退院した。


その日はポールも仕事を休み、

颯爽と僕のお迎えをしてくれた。


これからの新しい生活に胸をワクワクさせながらアパートに帰ると、

僕の部屋には花やら陽一のおもちゃ、新しいベビー服やらが

山のように積まれていた。


ベビーベッドは既に

ご近所さんのお古をもらって準備していたけど、

ポールから、その他にもベビー用家具などが色々と買い足され、

僕の部屋はポールのプレゼントにより、

カオス化していた。


足の踏み場は基、

新しい陽一のチェストタンスや、

おむつ変え台など、

割と広かったベッドルームが

ウサギ小屋のように狭くなっていた。


「ポール! 

色々とやってくれるのは有難いけど、

お願いだから僕達の為に無駄使いしないでよ!


僕、今あるクローゼットで十分だし、

陽一の洋服なんてそんな場所取らないから

チェストタンスなんてまだ必要無いよ?


それにおむつだってベッドの上にタオルを敷いて十分だし、

それに何これ?


陽一のベビー服?


全部聞いた事あるようなブランドなんですけど?

これ一着、一体いくらするの?

本当に古着で十分だよ~ 

これ、多分2か月くらいしか着れないよ?」


そうポールを窘めていると、


「本当迷惑だよね。

こんな色々とごちゃごちゃに……


ほら、要君、足の踏み場もないよ。

陽ちゃん抱えて何かにつまずきでもしたらどうするの!


それより要君、こっち来てよ~


僕も一杯プレゼント買ったんだよ~」


とお父さんも負けずと、

色々と買ってリビングに山積みにしていた。


僕は呆れかえって開いた口が塞がらなかった。


「まあまあ、要の気持ちはわかるよ。


でもここは男たちにも好きなようにさせておこうよ。

二人とも、要が無事出産して、

陽ちゃんが可愛いから、嬉しくて

何かしなくてはいけない気持ちなんだよ。


ここは黙って見守ろうね?」


とお母さんは後ろから僕の肩をポンポンと叩いて、

至って冷静である。


「ねえ、もしかしてお父さんって、

僕が生まれた時もこんな感じだったの?」


そう尋ねると、

お母さんはハハハと苦笑いして

目配せをした。


僕も観念して、

彼等の気が収まるまでさせておくことにした。


でもちょっと陽一の将来が心配になって来た。


「甘やかされないと良いけど」


そればかりが頭をよぎった。


お父さんとポールがお互いをにらみ合っている時、

陽一が


「フェ~」


と一言泣いた? それとも言葉を発した?


途端、二人共変わり身の早さで、

シュタっと陽一の所に行き、


「陽ちゃ~ん、

何? 何? ミルク? 

それともおむつ~?」


と本当にジジバカ?と叔父バカ?丸出しで

デレデレとしていた。


そんなお父さんも、

何時までもここには留まっておられず、

ましてや陽一を日本に連れて帰る事も出来ず、

1週間後、何時ものごとく、

オイオイと大泣きしながら、

日本へと帰って行った。


帰る時に何度も、何度も考えを変えて

日本へ帰って来るように言われたけど、

僕の考えは頑として変わらなかった。


「は~ やっとお邪魔虫が帰ったね!」


そう豪語するポールを横目に、


「あのさ~ ポール、

ポールだっていい年してるし、

ちゃんと仕事して稼いでるんだから、

自分でお嫁さん貰って、

自分の赤ちゃん産んでもらったら~?」


そう言うと、


「ヤダよ!

確かに僕はモテるよ?

奇麗な女の子も一杯寄って来るよ?

でもだれも僕を見て無いんだよ。


彼らが見てるはモデルのポール。

連れて歩いて見栄えが良い、

皆が羨ましそうに振り返るポールが良いんだよ。


僕がジャージ来てても、

お腹ポリポリ掻いても、

隣でプ~しても

ずっと変わらずに笑って

隣に座っていてくれるのは要君だけだもん!


それに女の子達なんて、

僕がトイレにも行かないと思ってるんだよ?


そんなことあるわけないじゃん!

僕人間だよ?」


とポールは真剣に返してきた。


「そうか、ポールにはポールの悩みがあるんだね……」


「その点要君は申し分ないよね。

まだ若いのにしっかりしてるし、

色んなことあったのに陽ちゃん一人で育てるって

凄くいじらしいし、


要君、女の子じゃないけど、

日本ってそう言う慎ましくて頑張る女の子多いよね?


尽くしてくれる子も多いって聞いた。

優しいし、礼儀正しいし……


僕は日本人男性が羨ましいよ。

そう言う女の子、

当たり前の様に奥さんにして!


僕、お祖父ちゃんが羨ましいよ!

そんな日本人の女の子奥さんにもらえて!」


「え~ だったら日本人のお嫁さん貰えばいいじゃない!」


「要君、日本人のお嫁さん貰なんて、

皆が考える程、そんな簡単じゃ無いの!


国際結婚だよ?


いくら僕が日本語話せるって言っても、

深い意味までは分から無いし、

文化も違うんだよ?


それに探すのが難しいよ!

出会いなんて皆無だし…… 出会い系サイトは嫌だし……

貰うんだったらやっぱり恋愛結婚が良いし!」


「え~ 恋愛結婚……?

そっか、出会い無いと、それは難しいね。

モデル仲間に日本人とか……?」


「モデル仲間はヤダ!

それに日本人のお嫁さん貰っても

陽ちゃんの様な可愛い子供が生まれるとは限らないでしょう?!」


「え~ 自分の子は皆可愛いと思うけど……

それにハーフって可愛い子多いでしょう?」


「嫌だ!

日本人の子供が良い!

日本人の子供は凄く可愛い!」


「それこそ、え~!だよ?

ポールの容姿で

日本人みたいな子供が生まれるわけ無いでしょう?

現にポールのお母さんだって思いっきりハーフ顔だし……」


「だから陽ちゃんのパパになりたいの!

DNAでは繋がってるから問題ないでしょう!」


ダ~メだこりゃ。


ポールってこれで無いとダメ!と言う割には、

注文が多い。


これだったら見つけられる環境に居ても無理なんでは?


でも、なんだかんだ言っても、

結局ポールは陽一が良いんですね。


ハァ~ でも知らなかったな~

ポールが日本人と結婚したかったなんて……


そして僕はハッとして、


「ポール、陽一はダメだよ。

パパになりたいまでだったら、

何とか意見は聞いてあげるけど、

陽一は嫁にはあげないから、

嫁にしたいだけは言わないでね。


それに意見は聞くけど、パパになるのもダメです」


ポールの思考回路から、

陽一の将来が危ないかもしれないと思った僕は、

若いうちに危険な芽は積んでおこうと、

ポールにはそう釘を刺しておいた。







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