第152話 番外編 雨

ゴロゴロゴロと遠くから雷の音が聞こえる。

それに乗せて蝉の声が

ワーワー・ジージー・シャワシャワシャワと聞こえる。


僕は額の汗を拭いながら空を仰ぎ見た。

頭上の空は青く、雨が降りそうな気配は全然ない。


美しい入道雲と、眩しい太陽に目を細めて、

遠くに飛ぶ飛行機を見つけた。


「あれ? 要君、今帰り?」

と声を掛けてきた人が居た。


僕は声と話し方で、それが誰なのかすぐに分かった。


「あ、矢野先輩! 先輩も今帰りですか?」


クルリと振り返ってにっこりと微笑んだ。


「要君は今日もご機嫌だね!」


と言う先輩に


「だって、僕の大好きなお兄ちゃんに会えたんだもん!」


と甘えた様に腕を組んだ。


「ハハハ、要君は何時になっても甘えただな~」


と先輩はデレデレとしている。


「じゃ、そこまで一緒に帰ろう」


と学校の校門を潜った途端、

真っ青だった空がどんどん薄暗くなって行き、

雨がパラパラと降り始めた。


「走ろう! 急がないと濡れてしまうよ」


先輩の掛け声と共に走り出した。


公園にたどり着いた時にはもうすっかりと土砂降りで、

池の近くにあった東屋へ飛び込んだ。


「フ~、ひどい振りになって来たね」


と言う先輩に、


「夏の通り雨だから、直ぐに止みますよ!」


そう言って立ち話をしてるうちに雨は小降りへと変わって行った。


「じゃ、先輩、僕は直ぐなので、走って帰ります」


と家へ向けて走り出した。


「気を付けて、また明日ね」


そう先輩が叫んで手を振ると、


「じゃ、また明日!」


そう叫んで手を振り返して一目散に家へ向かって走って行った。


「ただいま~」


玄関には見知った靴が並べて置いてある。


「あれ? お父さんも、お母さんも居るんだ。

珍しいな、僕が帰って来ても出迎えて来ないなんて……」


そう思いながらリビングへ歩いて行くと、


「クスクスクス」


とお母さんの笑い声がした。


そ~っとリビングを覗いてみると、

ソファーに座ってテレビを見ている

お父さんの膝の上に足を投げ出し、

反対側のソファーに寝転がって本を読んでいるいるお母さんが居た。


お父さんはお母さんの足を撫でながら、

時には足先をクスぐったりしている。


「ちょっと~司君、くすぐったらダメだって言ったじゃないか~」


と言うお母さんに、


「だって、何時も優君を触ってたいんだもん!」


と言うお父さんが居た。


「クククッ」


と涙を堪えて笑ってるお母さんを静かに見つめて、


「愛してるよ優……」


とお父さんが静かに囁いた。


それに答えてお母さんが、


「僕も愛してる」


と言って、そっと起き上がり、お父さんに優しくキスをした。


僕はそれを見て、


「佐々木先輩に会いたいな~」


そう思いながらそっとバスルームへ濡れた制服を着替えに行った。

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