第133話 君は僕の光

矢野先輩から公園に出て来れるかラインが入って、

僕は直ぐに


“勿論です!

今すぐ行きます!”


と返信し、そのまま家を出た。


公園に着くと先輩は既に来ており、

僕が走って行くなり、


「要く~ん、

こっち、こっち!」


そう言って大手を振った。


「先輩、どうしたんですか?

謝恩会で何かあったんですか?」


僕はハアハアと、息咳切りながら、そう尋ねた。


「いや~ 凄く要君に会いたくなってね~」


ん? 変…… 先輩何か変!

僕の直感がそう言っていた。


「さっき会ったばかりじゃないですか~

謝恩会はどうだったんですか?

もう終わったんですか?

楽しめましたか?」


「うん、謝恩会は楽しかったよ」


「じゃあ、良かったですね!

後は合格発表を待つばかりですね~」


そう僕が言うと、先輩は僕をジーっと見つめてきた。


「先輩、どうしたんですか? 

何だか怖いですよ」


僕がそう言うと、先輩が急に笑い出した。


僕は先輩のそんな行動が少し不可解だった。

僕がキョトンとして先輩を見ていると、


「ねえ、」


と、先輩が言葉を切った。


「何ですか~?」


と答えると、先輩は急に真面目な顔して僕を見つめた。


「要君は……

どうしても裕也じゃないとダメなの?」


「…… えっ?」


僕は聞き間違ったのかと思った。

僕が困惑していると、


「ねえ、僕じゃ…… ダメなの?

僕じゃ要君の番にはなれないの?

やっぱり裕也じゃないとダメ?」


と、伝えられ、僕は、


“もしかして……本当に?!”


と少し身構えた。


僕は少し前から、先輩の今の好きな人は僕ではないかな?

という予感があった。


でも、なぜ今になって?


「先輩……」


僕は言葉を無くした。


「ねえ、どうしても僕じゃダメなの?」


分かってはいたけど、先輩に確認した。


「先輩……それって……」


「もう最後だから言っちゃうけど、

僕ね、要君の事が大好きだよ。」


ここまで来て、勘違いという事は無いと思うけど、

でも、もしかしたら、違う意味での好きかもしれない?


「僕だって先輩の事大好きですよ」


分かってはいたけど、そう言ってみた。


「うん、知ってるよ。

でもね、僕の好きって言うのは、

要君とは違う好きなんだ」


あ~ やっぱりその好きだったんだ……


「先……輩……」


僕は言葉に詰まった。


「ほら、体育祭の後に要君の所で話したの覚えてる?

少し言い合いになって、その後裕也と話をしたあの日……」


僕は、コクリと頷いて、


「はい。覚えています」


と返事をした。


「あの時、要君が今でも好きな人は同じなのか聞いた時に

自分にとって、一つのある疑問が浮かんだんだ。」


「疑問?」


「うん。 要君も知ってると思うけど、

僕あの時、好きな人いたじゃない?」


「はい、阿蘇でそう言う風に言いましたよね?」


「うん、そうだったよね。

でも、要君に今でも好きな人は同じか?

って聞かれたとき、あの時好きだった人は要君に対す気持ちとは違う事に

気付いたんだ。」


僕は、コクコクと頷きながら聞いていた。


「じゃあ、何が違うんだろう?

って思った時、好きだった人は凄く好きではあったんだけど、

憧れって言うか、執着心なんて無くて……

ただ好きってそれだけで……


でも、要君の事を考えたら、

要君に対しては絶対に失いたくない存在って言うのが分かったんだ……

僕の好きな人と、要君に対する気持ちは違うって言う事に気付いたんだよ。

でもそれが疑問だった。

それが、何を意味するのか分からなかった」


「それって……」


「うん、裕也と話をした時に、

裕也に言われたんだよ。

その気持ちは恋愛の意味での好きだって。


そう言われて、全てのパズルのピースが当てはまったよ。


そして、裕也に告げたんだよ。

僕は要君が好きだって……

愛する存在だって……

失いたくない存在だって

要君は僕の光なんだって!」


「じゃあ、佐々木先輩は知って……」


「うん、ごめんね。

多分、あの頃、裕也の態度がおかしくなったのは

その為だと思う。

裕也はずっと要君は僕の事が好きだと思っていたからね。

要君はその時はもう裕也に気持ちが向いていたでしょう?

裕也に話したせいでそうなったから、

ちょっと責任感じちゃったんだけど」


「……先輩、ごめんなさい……

まさか、先輩が僕の事を思ってくれる日が来るなんて、

あの時はちっとも思わなくて……

僕……無神経に先輩とのこと……」


「ハハハ、大丈夫だよ!

僕は要君の幸せを願うくらい要君に惹かれていた。

それが他の人に奪われることであっても。


好きだから、その人の幸せを願うって、

初めてその意味を理解したよ」


「先輩……」


僕の目からは涙が流れ始めた。


「ねえ、要君、どうして僕は何時も番の居る人を好きになるんだろう?

何故僕は、僕が好きになった人の唯一の存在になれないんだろう?


要君、僕は凄く苦しい。

苦しいんだよ!


何故、要君が僕を好きって言った時に気付けなかったんだろう?

どうして僕は何時も気付くのが遅いんだろう?

どうして僕だけの番を見つけることが出来ないんだろう?


もう、苦しくて、苦しくて。

要君が好きで、好きで、本当に心からスキで……


助けて! ねえ要君、僕を助けて!


どうしたら、この苦しさから僕は逃れることが出来るの?

もう何度も、何度も打ち明けようとした。

でも、君の裕也との幸せそうな顔を見ると、

どうしてもできなかった……


でも、もう苦しくて、苦しくて、

吐き出してしまわないと、気が狂いそうだったんだ」


そう言って先輩は泣き出した。


僕は先輩にすがって、

ただ、


「ごめんなさい、ごめんなさい」


と泣きじゃくるしかできなかった。


「ごめん、君と裕也の間に割って入ろうと

思っている訳では無いんだ。

君の事を困らせたいわけでもないんだ」


僕は先輩を見上げた。


「先輩、ありがとうございます。

そこまで僕を好きになってくれて……


先輩、今ではもう違った意味になってしまったけど

僕は今でも先輩の事が凄く、凄く大好きです。

凄く大切で、僕と先輩の思い出は凄い宝物です。

先輩が居なかったら、今の僕はあり得ません!

先輩は僕にとって本当に、心の奥から大切で、特別な人です!」


先輩は真っ赤な目をして、僕の事を見てニコリと微笑んだ。


「僕はもう、

祈る事しかできないけど、

何時でも先輩の幸せを祈っています」


先輩は瞳を閉じて、深呼吸した。


「僕は要君無しでは幸せになれない……


そうはいってみても、本当に裕也から君を奪うつもりも無いんだ。


本当に意気地なしだよね。

こんなに人を愛したのは初めてさ。


どうすればいいか分からなくて、自分でも凄くこの気持ちは

持て余している……」


「僕は先輩には先輩だけの人が見つかるなんて

絶対的な事は言えませんが、

でも、運命は自分で切り開いていくんですよ!


あの日、阿蘇で星を見ながら話した時、

僕は今の先輩と同じような気持ちでした。


先輩、人は強いんです。


だから、絶対あきらめないでください。


僕は、諦めなければ必ずそれに報いることがあると信じてます。


多分、時にはくじけたり、

もう無理だと思う事があると思います。

でも、絶対あきらめないでください!」


「そうだね、その通りだね。

まだ人生18年、まだまだこれからだよね」


「先輩、その意気ですよ!」


「うん、実はね、裕也との仲を邪魔したくないのは本当なんだけど、

もしかしたらって期待もあってさ、

所々でちょっと色んな方法使って匂わせたんだけど、

要君には全然だったね。ハハハ……」


「匂わせって……」


「うん、まあ花言葉を使って

気付いてくれるかな?とか、

ポエムにしたりとか……


まあ、全部花言葉に絡んでたんだけどね。

ほら、花言葉って良く恋愛に使われるじゃない?」


「あ~ だから……あの時……」


僕がポツリと言うと先輩は


“気付いた?”


というように微笑んだ。


「今日は僕の告白を聞いて、

真剣に受け止めてくれてありがとう!

要君にこの気持ちを聞いてもらえただけでも、

心が凄く軽くなったよ!」


「そんな……

でも先輩、僕、先輩の為だったら、頑張りますよ?

何でも言ってくだいよ!

絶対ですよ? 隠し事は無しですよ?」


「ハハ、ありがとう。

頼もしいね。

でも、こんな告白したのも、

要君が初めてだよ!


あ~あ、泣いたらすっきりした」


そう言って先輩は背伸びをした。


「遅くまで引き留めてごめんね。

送って行きたいけど、

ここは失恋した男の心を汲んで、

ちょっと一人にしてもらっても良いかな?」


「先輩、本当に大丈夫ですか?

こういうこと言うとまた無神経かもしれませんが、

今日は僕が送りましょうか?」


「ハハハ、大丈夫だよ!

人生一代の感傷に浸りたいんだよ……

僕が主人公のドラマのね!」


そう言って先輩はウインクをした。


「本当に大丈夫ですね?

また会えますよね?

これっきりになりませんよね?」


僕が心配そうに尋ねると、


「勿論さ! 僕達は何時でもここであえるよ!」


そう言って先輩は僕を抱きしめた。


先輩と離れがたかったけど、後ろ髪引かれるような思いで


「じゃあ、また!」


そう言って手を振った。


僕は何時までも、何時までも先輩が見えなくなるまで

先輩の方を振り返りながら公園を去った。


そして先輩も、僕が見えなくなるまで手を振っていた。


その時僕は、まだまだこんな風に、

何時でも会いたいときに矢野先輩とは会えると思っていた。


でも次の日、僕の予想は覆った。


あの日を最後に矢野先輩との連絡はプッツリと途絶えてしまった

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