第84話 お母さんと恋バナ

お寿司を食べ終えた後は、

明日も体育祭の方付けの為、登校と言う事で、

お開きにすることになった。


僕達は、先輩たちを玄関まで見送りに来た。


「今夜は本当にありがとうございました。

まさか、要の両親が超有名人だなんて、

微塵も思っていませんでした……

ちょっとボケを噛ましてしまってすみません。

でも、お知り合いになれて、

本当にうれしかったです」


先輩はそう言いながらも、

未だに両親の顔を信じられない様に

マジマジと眺めていた。


「お寿司、ごちそうさまでした!

もっとお邪魔していたかったけど、

明日は学校もありますし、

僕と裕也はこのあと

少し話すことがありますので、

これで失礼します」


矢野先輩がそう言ったので、

そうだ、この後先輩たちは……

そう思い、僕はドキンとした。


少し緊張しながらも、


「あの……

僕、そこまで送って……」


と言おうとした時、

矢野先輩が僕に手を翳して、


「いや、要君はここで良いよ。

もう、夜も遅いし、

また明日学校で会おう」


と言ったので、僕は

先輩達を公園まで送るのは諦めて、


「分りました。

お休みなさい。

気を付けて帰ってくだいね。

また明日学校で!」


と言って、二人を玄関先で見送った。

でも内心は凄く不安で、

ドキドキだった。


お父さんとお母さんも、


「また何時でもおいで」


そう言って二人を見送ってくれた。


先輩たちはもう一度丁寧にお辞儀をして、

僕達の前から去って行った。


ダイニングに戻り、

僕はお母さんの手伝いをしながら、


「ねえ、佐々木先輩の事、

どう思った?」


と聞いた。


お母さんは少し考えたようにして、


「そうだね~

凄い好青年だよね。

礼儀正しいし、

要の事、凄い好きそうだし……」


「ほんとに?

ホントにそう見えた?

先輩、僕の事好きなように見えた?」


僕がそう言うとお母さんは

不思議なようにして僕を見て、


「何? 何か疑う事でもあるの?」


と聞いてきた。


「先輩はね、凄く優しいんだ。

僕の事も凄く大切にしてくれるし……

問題は僕なんだ……

僕の心が時々追いついて行かなくて……」


お母さんは目を丸くして、


「ほ~! 一体何があったの?」


と尋ねた。


「あのね、これ、佐々木先輩も、

承知の事なんだけど、

実は僕、凄く矢野先輩の事が好きだったんだ」


お母さんは、うん、うんと頷きながら、

僕の話を聞いていた。


「僕、佐々木先輩と運命の番だって

分かってから、

磁石が引かれるように

佐々木先輩へ惹かれてるんだ。

でも、フッとした時、矢野先輩への

心が出てしまって、

凄く混乱して……

佐々木先輩への思いは、

運命の番ゆえなのか、

それとも、先輩を一人の人として、

惹かれているのか……」


僕が困惑したようにそう言うと、


「あ~ それって多分、

運命の番を見つけた人だったら、

皆ぶつかる問題だと思うよ.

まあ、運命じゃなくても、

フェロモンの所為じゃ?とかね。」


お母さんがそう言ったので、

僕はびっくりしてしまった。


「お母さんもそうだったの?」


僕はとっさに聞いた。


「勿論。

人間だもん。

経験していない事は、

理解するのは難しいよ。

間違いを犯すこともあれば、

悩みもするし、

苦労もする。

でも、それでいいんじゃないの?

人は、悩んで、苦労して、学んで、選択して、

間違ったらまたやり直して……

そうして成長していくんでしょう?」


「でも……

お母さんとお父さんを見てると……」


今の両親を見てると、

何の苦労や悩みも無しに、

自然とくっついたように思われる。

実際に、両親の苦労話は

あまり聞いたことが無かった。


「あのさ、要は今いくつ?」


え~ お母さん、僕の歳位、

知ってるでしょう?


そう思いながらも、


「僕?

お母さん知ってるでしょう?」


と尋ねた。


「うん、でも、要に聞いてるんだよ」


との答えに、


「今はまだ15歳だけど、もうすぐ16歳になる」


と返事をした。


「そうだよね、16歳だよね。

16歳って事は、まだ人生の架け橋にも

届いてない状態だよね。

それで、答えを見つけようなんて、

無理な話じゃないの?

まだ何も経験してないし……

人生はね、

学んで、選択をして、

行って、結果が出るものだから、

要にとって、恋は今は学んでる時。

そしてやっと選択しようとしてるんだよね?

だったら、自分の思った道を選んで、

行ってみたらいいんだよ。

失敗したらした時!

次に間違えなければいいんだよ!

自分の感を信じてやってみてごらん。

それとも何か自分の選択が信じられない?」


お母さんが不意に聞いてきたので、 


「自分の事が信じられないとか、

先輩の気持ちを疑う事は無いんだけど……」


と自信なく答えると、


「けど……何?」


と、更にい母さんが尋ねてきた。

それで僕は、自分が最近思い悩んでいたことを

話してみようと思った。


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