第73話 運動部リレー

応援席に戻ると、


「矢野先輩やっぱり凄かったわよね~」


そう言いながら、

奥野さんがワクワクとして僕の所に寄って来た。


「ねえ、ねえ、

矢野先輩がこんなに走るの早いって

知らなかったんでしょう?

もう、かっこ良すぎるわよね。

これで恐らく、

もっと1年生のファンが増えたでしょうねぇ~」


そう言って奥野さんも興奮気味である。

僕はファンが増えると言う部分には

少し複雑な思いもあったけど、

先輩が認識されるのは、

同時に嬉しい事でもあった。


「次は青木君の居るバレー部ですよ」


僕がそう言うと、


「でもアイツ、応援側なのよね。

あ、でもほら、佐々木先輩がみれるから

それも楽しみだよね!

でもやっぱ陸上部に勝つのは難しいかな~」


「いや、バレー部も精鋭人が揃ってるからね~

運動部は凄い見ものだと思うよ!」


「でもさ、これで佐々木先輩にも

凄っいファンが付いちゃったら、

どうする?」


と奥野さんがからかった様に聞いてきた。


僕は先輩に好意を持った、

あからさまな敵意を持った人には

遭遇して来たけど、

可愛らしい、秘めた心を

持った人にはまだ遭遇していない。


もし、可愛らしい、

控えめな、優しい女の子が先輩に

愛の告白をしてきたら、

先輩はどう思うんだろう?


イヤ、イヤ、今までそう言う事が

無かったってはずはない。

これまでも、何度も、何度も

そう言うシーンがあったはずた。


そう考えて僕は、先輩への告白シーンに

遭遇するのは嫌だなと心から思った。


それに反して、矢野先輩の

そう言ったシーンは普通に思い描くことが出来た。

そして、先輩の反応まで想像出来で、

僕は少しクスッと笑ってしまった。


「なによ?

思い出し笑い?

赤城君ってムッツリ?」


また奥野さんが

からかった様に聞いてきたので、

僕はカ~ッと熱くなって、

彼女を凝視した。


その後彼女は大笑いして、


「ちょっと~

図星なの~?」


とまたまたからかってきたので、

僕はまいって片手をあげて降参!

と言う様なジェスチャーをしてしまった。


「ほら!

第1走者が出発するわよ!」


奥野さんの掛け声と共に、

グラウンドで


「ワ~ 先輩!

頑張れ!」


等の掛け声が流れ始めた。


僕は人ごみをかき分けて、

トラックが見えやすい位置に来た。

目の前はちょうど男性陣の選手が

走者を待つラインのとこで

向こう側では他の走者と爽やかに話す

佐々木先輩が居た。


先輩が僕に気付いたので、僕は


「がんばって」


と唇の動きで先輩に応援の言葉を投げかけた。


それに先輩も


「まけせとけ」


と僕に返した。


そして


「あ・い・し・て・る」


と続けて返して微笑んだので、

僕は左右をキョロキョロと見回した後、

真っ赤になって先輩を見上げた。

周りに居た人は


「きゃ~

佐々木先輩、私に微笑みかけた!」


とか、


「いや、あれは私によ!」


とか、


「え~! 見逃しちゃった!」


などと言い合っている人たちが居たけど、


その本心に気付いた奥野さんが、


「あら、まあ!」


と僕の方を見てニヤニヤとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る