第34話 僕と佐々木先輩

「赤城君、おはよう!昨日は先輩には会えたの?」そう声を掛けてきたのは奥野さんだった。

「あ、奥野さん、おはよう。うん、昨日はありがとう。あの後、先輩とはちゃんと話をする事が出来たよ。」

「じゃあ良かったね!でも…一体どうなったらあの優しい先輩と柔らかい赤城君が喧嘩できるの?ちょっと想像できないや。」

「いや、喧嘩って程では無いんです。ただ僕の意見が先輩とは違ったので、ちょっと僕が拗ねただけで…」

「そうよね、赤城君って先輩には弱いとこ見せるし、先輩は赤城君に対して凄い甘いよね。」

「え?そう言う風にみえますか?」

「もしかして、分かってなかったの~?もう、思いっきりバレバレだよ。分からないのは本人だけ?」


奥野さんと会話をしている途中に、勢いよくクラスのドアが開いて、青木君が元気よく入って来た。


「よ~。オハヨッス!要、顔赤いぞ?風邪か?」

「え?僕、顔赤いですか?」

「今ね、矢野先輩が赤城君に凄い甘いって話したのよ。」

「あ~だよな、先輩、誰にでも優しいところあるけど、おまえが絡むと周りが見えてないよな?」

青木君がそう言ったので僕は少し照れて、

「もう、青木君、からかわないで下さ~い。まあ、それは置いといて、今日こそはちゃんと宿題はやってきましたか?青木君、今日は当たりますよ。」

と教えてあげると、

「あちゃ~!そうだったな?」

と忘れている。

「僕のノート見ますか?」と勧めたけど、

「いや、良いわ~。なんか今日はかったるくってよ。昨日の練習がきつくって。佐々木先輩が何故かさ~、休憩の後張り切ってさ~

もうしごかれる、しごかれる。俺、家帰って速攻で寝たわ。」


ん?休憩の後?…

僕と話をした後かな?と少し考えていると、


「要!」と後ろから声がしたので振り返ってみると、佐々木先輩がドアの所に立って僕を呼んでいた。

「おい、おい、いつ先輩と知り合いになったんだよ?」ヒソヒソと聞いて来る青木君をよそに、

「あ、先輩おはようございます!僕になにか?」

と尋ねると、手をこまねいて、先輩の所へ来るように促されたので、先輩の所へ行くと、

急に腕を掴まれて、先輩は早足で歩き出した。

青木君と、奥野さんはそれを見てびっくりしながら、

「いってらしゃ~い」と僕に向かって手を振っていた。


「あの…先輩、一体どこへ…?」

「ちょっとそこまでついて来いよ。」

それで僕は渋々先輩の後を付いて行った。

先輩の後姿を見ながら、あ、またフワ~ンとあの香りだ…なぜ何時も先輩から…と思っていると、

「ここまでくれば大丈夫かな?」

先輩はそう言って階段の下の狭い脇の空間へと僕を引き込んだ。

「あの…何か用だったんでは?」

「いや、昨日浩二とどうなったんだろうと思って…人が多い教室では話しにくかったからな。」と、ずっと気になっていたようだ。

「あ、心配してくださったんですね、ありがとうございます。先輩と話をした後、矢野先輩ともちゃんと話をすることが出来ました!

本当にありがとうございました。」と僕は丁寧に佐々木先輩にお礼を言った。

「で?どういう風な感じになったんだ?」

「どういう感じと言うと?」

「お前の告白の返事だよ!」

「あ、残念ながら振られました!でも、ちゃんと話が出来てすっきりしましたよ。全部先輩のおかげです。

あの時先輩があそこに居なかったら、僕、今日は学校に来てなかったかも…」

と元気よく答えると、

「あ、いや、お前、精神的に大丈夫なのか?」

と、心配そうに聞いてきた。

僕は佐々木先輩が昨日、精神的に助けてくれた事が本気で嬉しかったので、

「それがですね、悲しかったのは悲しかったんですけど、矢野先輩がそれでも僕の事が大事って言ってくれたので、それだけで十分です。それに佐々木先輩も慰めてくれ、凄く助けになりました!」

と答えると、先輩はチッと舌を鳴らして、

「あいつ…思わせぶりな奴だな。」と言った。


「大丈夫ですよ、先輩。僕、それでも、矢野先輩の気持ちが凄く嬉しかったので。」

「お前、ほんとにそれで満足なのか?」と先輩が不満げに尋ねて来るので、

「どういう意味ですか?」と聞き返すと、

「もし、あいつにだれか特別な誰かが出来たら、それ、平気で見てられるのか?恐らく、目の当たりにすることになるぞ。それでも耐えれるのか?」

と当たり前の質問をしてきた。

僕は、「あ、そこまでは考えてませんでしたね…」と答えた後、続けて、

「でも、矢野先輩には幸せになって欲しいし…僕が我慢してそれで全てうまく収まれば…」と答えた。

そうしたら佐々木先輩が、

「お前、それって本当に浩二の事、好きなのか?」と尋ねるので、

「もちろん、好きですよ?」と断言すると、

「俺には恋愛の好きではなく、情の好きに聞こえるぞ。」と返したので少しびっくりした。

「え?情?」

「ああ。ほら、情がわくっていうだろ?親密になったりすると、情が湧くじゃないか。ま、それも愛情の一種って言えばそうだけどな。

時に人は、愛情とその情を違える時があるからな。人は長く付き合うと、愛情は消えても情は残るって言うし。

お前の感情は、話を聞いてると、その情に似てると思うぞ。俺は好きになった奴は奪ってでも自分のものにしたいからな。」

「ほぅ~。先輩って情熱家なんですね~」と意外な答えに少しびっくりした。

「からかうなよ。でも、俺は欲しいものは諦めない。もし、誰か相手が居ても、命がけで奪う。」

「じゃあ、僕も命がけで、頑張ってみます!先輩、アドバイスありがとう!」

「あ、いや、違うんだ要!」

「え?」

「これはお前へのアドバイスじゃない!お前、俺と付き合わないか?」と、先輩がとっさに聞いてきたので僕は凄く驚いてしまった。

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