第4話 帰郷3

飛行機への搭乗は、

まだ始まったばかりらしかった。

まだ沢山の人が列を作って

ゲートの所に並んでいた。


要はふう~っと一息ついて、

お土産に買ったマカロンの袋を椅子におろし、


「陽ちゃん、人がいっぱい並んでるから

僕たちは最後になってから行こうね。

それまでここに座っていようね」


と、並んでいる人の間から、

搭乗口をキョロキョロとして探す陽一に話し掛け、

マカロンの手提げ袋を置いた隣の椅子に腰かけた。


陽一は


「まだ? まだ?

あと何分?」


と待てないようである。


どんどん搭機する人のラインが短くなって、

「陽ちゃん、そろそろいこっか」

と、まだか、まだかと搭機を

ソワソワをして待っていた陽一に声を掛けた。


「うん! 

早く行こう! 

ほらかなちゃん、ちゃんと荷物もって! 

早く、早く!」


と元気な返事を返して、

二人は搭乗口まで行き、

係員にパスポートと航空券を提示し、

飛行機の中へと進んでいった。


陽一はきゃっきゃしながら走って進んでいく。


「あ~危ない!

ちゃんと前見て歩いて。

転んじゃうよ」


「だーいじょうぶ!

かなちゃん、早く早く」


そしてやっと飛行機の

ドアの処にたどり着いた。


陽一は、入り口で乗客を迎えていた

フライトアテンダントに、


「こんにちは、お姉さん。

今日はよろしくお願いします!」


と大きく一礼した。


フライトアテンダントが、


「あら~上手に挨拶できたわね! 

えらいえらい。

ようこそいらっしゃいました。

長い旅になるけど楽しんでね!」


と優しく陽一に話しかけてくれた。 


それから要も、


「こんにちは。

よろしくお願いします」


と声を掛けて中に進んでいった。


「陽ちゃん、ちょっと待って、行き過ぎだよ! 

戻っておいで!」


陽一は余りにものはしゃぎようで、

要から離れてどんどん進んでいった。


そこで要は手招きをして、


「陽ちゃん、こっち、こっち。

えーっと、僕たちの席は……

あ、あった、ここだ」


走って戻って来た陽一に、


「陽ちゃんは窓際に座って。

僕は通路側に座るから」


と言って、陽一を先に窓側のシートに座らせ、


「荷物をキャビネットの中に入れるから、

今のうちにキャリーケースから

陽ちゃんが出していて欲しいものってある?」


と聞いた。


陽一はちょっと考えて、

「僕の絵本と熊のぬいぐるみと……

あ、それから僕のお気に入りのブランケットも!」


と元気よく答えた。


「うん、良いよ、長いフライトになるから、

塗り絵とかで遊びたかったら、

塗り絵も出していていいよ」


「う~ん、僕、最初はお外を

ずっと見ていたいから、後でいいや」


そう言って、渡してもらったブランケットを膝に掛け、

シートベルトを締め、

絵本と熊のぬいぐるみをその上に置いた。


要は荷物をキャビネットに仕舞ってから、

ようやく椅子に座り一息ついた。


「陽ちゃん、絵本、

読みたくなるまで前のポケットに入れておこうか?」


そう言って、要は絵本を

前のシートのポケットにしまい込んだ。


「ねえ、かなちゃん、僕、飛行機に乗るの初めて。

すごく楽しみ。

このおっきな乗り物が空を飛ぶんだよね。

すごいな~ワクワクする~」


そう言って足をブラブラと跳ねてはしゃいでいる。


「そうだよね、凄いよね。

でも、ひと眠りしている間に日本に着いちゃうよ。」


「わーい、わーい。

すごい、すごい。

早く飛ばないかな」


そう言って、手を叩いて喜んでいる。


陽一は初めてのフライトに興奮気味である。

窓の外を見ながら、

カートで行き来する人たちに手を振っている。


「見て、見て、かなちゃん、荷物を飛行機に乗せてるよ。

僕のスーツケースどこかな~」


そうやってはしゃいでいるうちに機内放送が掛かる。


「只今、飛行機のドアが閉められました。

当機は間もなく離陸へ向けて滑走路へと進行して参ります。

皆様、シートベルトを再度確認して下さいます

ようお願い致します」


そう言って、フライトアテンダントの人たちが

キャビネットとシートベルトを一つ、一つ

最終確認していく。


そして旅の安全のビデオが始まった。


「かなちゃん、もうすぐだね。

もうすぐ日本だね。

もうすぐ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会えるね」


要は、陽一の方を見た後、窓の外に視線を移して、


「そうだね、もうすぐだね……」


と呟いた。


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