魂が抜けて漂流者になってしまった!
川村直樹
第1話 魂が抜けた
柿本勇人 16歳
男
高校生
趣味 ギター、音楽鑑賞
健康状態 優
「行ってきます!」
何時と同じ時間に家を出た。
高校生活にも、だいぶん慣れてきたし、バンド仲間も出来て楽しい。
駅までの道を自転車で走るのは、爽快だ。
駅に着くと、毎日、同じ顔を目にする。
同じ時間、同じ車両に乗る人の顔を覚えてしまうんだよな。
通勤ラッシュのさなか、電車の中でスーツを着るサラリーマンや香水の匂いを漂わせる女性にもみくちゃにされた。
「どうして、スーツを着た中年の頭から嫌な匂いがするのか?」
180センチを超える身長だと、中高年の男性より頭一つ分抜き出てしまう。
出来るだけ上に顔をそむけながら、素朴な疑問が頭に浮かんだ。
しかし、匂いが強すぎて鼻がムズムズする。
「はぁ、はぁ、・・・、はっくしゅん」
我慢できなかった、目をつむり大きなくしゃみが出てしまった。
しまったと、目を開けると辺りは真っ白。
「真っ白?」
何もない、明るい光だけの空間に身体が浮いているような感覚。
此処は、どこだ?
なんで浮いているんだよ?
学生服を着ている、身体に異常は無いようだ。
「おおおお、
何処からか、声が聞こえてきたが、姿は見えない。
「おーい、誰ですか?誰かいるんですか?」
「すまない、若者よ。私は、神だ」
「神?神様ですか?」
「そうじゃ、お前たちを創造した神じゃ」
姿は見えないが、声はする。
本当に神様なのだろうか?
「ここ、どこですか?帰りたいのですが、俺、死んじゃいましたか?」
「死んではおらん。お主の体から魂だけがここに飛んで来たのじゃよ」
「えっ、魂だけですか?俺の体は?」
「お主の身体は、電車の中、無事じゃ」
「じゃあ、戻してください。神様なら簡単な事でしょう」
「無理じゃ。神は、直接関与出来ん。お主の体から発せられる波長に上手く魂が引き寄せられれば、元の体に戻れるが、運じゃな」
「えー、運任せですか?でも、波長が出ているなら簡単に戻れそうですが」
「同じ波長を出す他人の体に、入る可能性の方が高い」
「他人ですか?そんなに沢山、同じ波長の人は居ないでしょう?」
神様は、何を訳の分からないことを言っているのだろうと思った。
自分の魂と体の波長が同じなら、間違って他人の体に入る分けが無いだろう。
「あまいぞ、若者!お主の住んでいる世界だけが、全てでは無いのだ。平行世界じゃよ。沢山の世界が、存在している。それに時間も過去未来に関係無く、横並びで存在しているのじゃ」
ええ、異世界が沢山あるの?
時間が関係ないって、どう言う事?
しかも、同じ波長も沢山あるなんて、インチキだよ。
「そんな、勘弁してくださいよ」
「仕方がない、諦めて身を委ねなさい」
話の途中で吸い込まれるような感覚に襲われる。
「何か、吸い込まれているようですが?どうなっているのですか?」
勇人は、神様にキレかけた。
「おお、波長がお主を呼んでおるぞ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
何だコレ、運だけで自分の体を探すのか?
見つからなければ、どうなるの?
他人の体に入る?
訳が分からないよ。
神様の存在は、確認できたけど、意外に無責任だな。
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