第二話 人魚の歌

壱――音葉池の夜

 ここは明治街、音葉池。

 良く知られているあの「都市」の姿とはまた少し違う雰囲気をまとう大自然の中にある池。明治街郊外の隠れスポットとして知る人ぞ知る場所である。

 そこでは毎晩美しく澄んだ歌声が聞こえる。歌い手の姿は見えない。そこに声だけがただ、しとやかに流れる。


 この日もそうだった。――と、その池にまばゆい光が差し込まれる。

 カメラのフラッシュだった。

 それに照らされたのはこの美しい歌声の持ち主だけではない。


 撮影者のにやけた笑みも照らしていた。


「ハロー、人魚チャン」


 鷲の瞳が確かにその妖の見開いた目をとらえた。


 それからというもの、美しい歌は流れていない。

(つづく)

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