小石転生〜転生したら生き物ですらなかったんだが!?〜

無有

第1章 小石転生

第1話 転生

 気が付くと俺は、草むらの中にいた。見上げる限り草だ。


『...ん?おかしいな。』


 違和感に気付きもう一度、周りを見渡した。


 なんで俺が草を見上げてるんだ?というか、さっきまで街の中を歩いてたよな...まさか!?不思議の国にでも迷い込んだか!?


 いや違う。これは夢だ。そうだ、そうに決まってる。自分が小さくなってるなんて、非現実的だ。きっと、いつの間にか頭をぶつけたか何かして俺は寝てるんだ。


 という事は、これは所謂、明晰夢ってやつなのか?すごいな、目の前の草がまるで本物みたいだ。

 

 ....よし、夢ならなにも怖くない。目が覚めるまでこの世界を楽しむとしよう。


 さあ、行こう!探検の第一歩だ!













 あれ?身体が動かないんだけど....



 ———————————————

 時は遡り



「はい...はい、分かりました。今から向かいます...はい、失礼します」


 プツッ


「はあぁ...なんで、せっかくの休日なのに会社に出勤しなきゃいけないんだよぉー」


 石狩真也いしかり しんや 26歳 趣味 読書(ただし、ライトノベルに限る)

 至って普通のサラリーマンだ。と言いたいところだが残念ながら俺の勤めてる会社は所謂ブラック企業だ。

 たった今も、休日なのに呼び出された。控えめに言って最悪だ。


「今日発売の小説があったのになぁ、はぁぁ、次の休みまでお預けかぁ」


 最近の癒しは大体読書だ。その読書まで奪われた俺はどうやって生きていけばいいんだろうか。


 そんな、くだらない事を考えながら歩いていたために気付かなかった。

 

 あっ、と思った瞬間にはもう遅かった。


 河原にある様な丸い小石を踏み、俺は転け、頭を打った。

 そして、そのまま意識を落としてしまったのだった。


———————————————






 あれからしばらくたったが、どうやら俺には手足が無いらしい。


 無い物は仕方ないので、歩いてではなくずるずる身体を引きずる様に移動している。

 

 手足が無いのにどうやって移動しているんだって?

 

 俺自身もどうやって移動しているかよくわからん。うんうん唸りながら、動けぇ...動けぇ...と念じていたら動いた。


 うん、移動はできる。できるんだが、どの方向に進めど進めど草ばかりで何も無い。虫すら見かけない。


『.....そろそろ飽きてきたな。』


 流石に、草しかない風景は面白くも何ともない。と、思い始めてきた頃にタイミングよく川のせせらぎが聞こえてきた。


 何というタイミング!さすが夢!


 早速、音が聞こえる方へ向かった。






っそ....』


 ダメだ、俺の移動速度が遅すぎる。このペースだと川に着くまでに何時間かかるかわかったもんじゃない。


『もっと速く動け俺!お前ならできる!さあ、動け、動くんだ!ぐぬぬぅ....』


 お?気持ち速くなったかもしれない。よし、もっとやろう。


『ぐぬぬぅ...ぬぅぅぅ...ふんぬぅぅぅ...』


 おお!やっぱり速くなってるぞ!これならいける!




 それから数時間たって、やっと川に着く事ができた。



 やっと着いたぁ〜。ホント疲れた。なんか途中でフラフラし始めてきたし、マジで疲労死するかと思った。


 ふぅ...


 よし、取とり敢あえず目的の事をしよう。


 何も考えずに川へ来たわけでは無い。自分の姿が見たくてここに来たのだ。


 今までこれは夢だ。と思ってあまり気にしないようにしてきたが、そろそろ限界だ。


 まず、身体が地面に触れている感触があることがおかしい。


 夢を見ているなら五感なんて無いはずだ。しかし、今、この瞬間にも地面の感触があるのだ。

 もう一つ言うと、何故目が覚めないんだ?体感でもう半日ほど経ってる。こんなに長い夢なんて無い。

 これは現実だ。と言われた方がしっくりくる。だから、もしもこれが現実なら、自分は一体どうなっているのだろうか。それを知りたかった。


 早速さっそく、川面かわもを覗き込んだ。


『....見えないな。』


 そりゃそうか、川なんだから波があって当然だよな。


 どこかに波の穏やかな場所はないかな....あった。


『よし、見るぞ!』


 そう覚悟を決めて川面かわもを覗き込んだ。








 そこに映っていたのは、握り拳大の丸い小石だった。


 その姿を見た瞬間、全てを思い出した。

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