鍵の話

七辻ヲ歩

「鍵の音」19:54

「おとうさん!」

 鍵の開く音がして、りいなは玄関口ののれんを擦り抜ける。母親が明かりをつけるのを仰ぎ、まもなく重い鉄扉のノブが震えて、にこりと優しい父親の目元が向こう側からちらりと覗く。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 他愛無い両親のやりとりを交互に見遣りながら、りいなは二人の後をついていく。

「りいな、ただいま」

「おかえりなさい! おとうさん!」

 りいなの隣に母親が座る。

「鍵の音を聴くと、何をしていても直ぐに玄関に走っていって……」

 見上げた母親の口元が震えている。

「嬉しかったんだよな」

 父親の手元に、線香が握られた。

「ただ、うまく止まれなかったんだよな」

「おとうさん」

 鎮魂の音。りいなは写真の中で笑っている。

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