第28話 やせ我慢をして淫れる


 あー、美味かったー。


 締めの雑炊なんて無限に食えそうな勢いだったぜ。


 ひとまず腹八分に抑えて、残った鶏肉と雑炊をタッパーに入れて貰ってきた。


 これで、明日の夕食もバッチリだ!


「それにしても……」


 タッパーを冷蔵庫にしまいながら呟く。


「料理上手な幼馴染か……」


 まるで、ラブコメ漫画にでも出てきそう。


 可愛いし、セクシーだし、家柄もセレブときたもんだ。


 ぶっちゃけ、嫁にできたら最高だよな……。


「いやいや……」


 だが、俺はその考えを努めてかきけした。


 あんな魅力的な女子が、俺の交際相手になんてなってくれるはずがない。


 ましてやお嫁さんだなんて……。


 変に夢を見てしまうと、破れた時によけいに悲しくなるぞ……俺。


 だったら最初から、そんな希望は抱かなければ良いのだ。


 高校生の今でもあの色気。


 女は大人になると化けるともいうし、はたして、どれほどの美女になるかわかったものではない。


 俺なんかでは、絶対に持て余すって。


 きっと俳優さんとか、プロスポーツ選手とか、そんじゃそこらの男とはわけが違う人達とくっつくことだろう……。


(うう……)


 だがやっぱり、胸がシュクシュクした。


 あんな奴だが、あれでも幼馴染。


 いずれ来るその時を思うと、正直言って、一抹の寂しさは禁じ得ない。


 だが、それほどの人物とくっつくというのなら、俺としてはむしろ鼻が高いと誇るべきだろう。


 だから……気にするな。


 気にするな……俺!


「よしっ……寝る前にフォームの確認だ!」


 俺は気を紛らわせるために、部屋で1人、デッドリフトのフォーム確認を始める。


「ふん……! ふん……!」


 エアバーベルを両手に握り、床から腰まで引き上げていく。


 遊子は幼馴染……。ただの幼馴染の腐れ縁……。


 けして恋愛対象ではない……。


 断じて無い……!


「ふん……! ふうんー!」


 ただひたすらに、繰り返した。



 * * *



(遊子視点)



――シャカシャカシャカ。


「はぁ……」


 夜中に1人、台所でプロテインを作る淫魔の気持ちがわかるだろうか?


 枕元に牛乳を置いておくと、サキュバスはそれを精と間違えて持っていく――。


 なんて、おバカな言い伝えがあるのだけれど、今の私がやっていることは、まさにそれではなかろうか。


 精を十分に吸えない空腹を、プロテインで満たそうとしているのだからな。


「んぐ……んぐ……」


 白くて甘くてクリーミーなその液体を、ハルキのそれだと思いながら飲み干す。


 それでいくらか空腹が紛れるような気もするし、なおのこと胸が乾くような気もする。


 淫魔が精を吸う方法は、大きく分けて3つだ。


 1つはとにかくムラムラさせること。


 2つ目は淫夢を見させること。


 そして3つ目が直食いだ。


 下に行くほど、吸える量が増えていく。


 今のところ、1つめのムラムラ法を用いて、辛うじて最低量を摂取できているが、これが長く続けば栄養失調になること間違いなしである。


 それに……私の理性が保たないかもしれない。


 空腹になればなるほど、淫魔の凶暴性は増すのだ。


 年端も行かない少年を食ってしまったという話も聞くほどである。


「ヤバいぞ……これは……」


 遠からず、私は誘惑に負けてハルキを食べてしまうかもしれない。 


 そう思いつつ、キッチンで1人震えていると……。


――ピンポーン。


 誰かが訪ねてきた。


 すぐにインターホンで相手を確認すると……。


『ユーコちゃん? ちょっといーいー?』


「あ、マミ姉さんっ」


 実は意外と近所に住んでいる、マミ姉さんであった。


 私はすぐにロックを解除し、マミさんをリビングに通す。


「きっと、困ってるんじゃないかと思って……」


 と言ってマミさんは、何やら冊子のようなものが入った紙袋をテーブルの上に置いた。


「食べるか育てるかのジレンマになっているんでしょ?」


「はっ……やっぱり、マミさんも経験があるんだ!?」


「うふふふ……まぁね。私も始めての贄には一途だったから、それなりに苦労したものよ?」


 と言ってマミさんは、軽く舌を出して笑った。


 その初めてのマミさんの贄は、当然ながら、もうこの世にはいない。


「そうだったんだ……。それで、この袋の中のは?」


「これはね、淫魔族の間で密かに受け継がれている『魔法の本』よ?」


「魔法の本……!?」


 そんなものがあったのか!


 存在そのものがファンタジーな私たちだが、別に魔法を使って戦ったりできるわけではない。


 だからそのようなものが有るとは、露も知らなかった。


「この本を使うと、ある程度は精欲を満たすことができるわ。でも結構危ないものだから、1日に1時間以上は読んではいけないわ。下手をすると『あちらの世界』から戻ってこれなくなるから……」


「えええ……!?」


 本当に魔法の本……! 禁断の書物だ。


 私はゴクリと生唾を飲み下す……。


「そうねぇ……最初の一冊はこれが良いと思うわ。あまり深くは考えずに、まずはパラパラとめくってみて?」


「はい……え?」


 手にしてみると、すごく『薄い本』だった。


 それに、表紙には漫画調の絵が描いてある。


 妙に露出の高い、筋骨たくましい男の子が2人。


 片方は色白で、もう片方はよく焼けている。


 タイトルは……『俺とお前がカフェ・オーレ!』とあるが……なんだこれは?


 言われた通り、まずは1ページ目をめくってみると――。


「はわっ!?」


 こ、これは……!


 その瞬間に私は理解した。


 確かにこれは……禁断の書だ!


「うふふ……お腹がふくれるでしょう?」


「は、はわわわ……♡」


 絵に描いた餅を食べているようなものなのに、不思議と空腹が癒やされる。


 この書物を作成した方のマナとパトスが、絵の端々らギンギンに伝わってくるのだ!


「あまりハマりすぎないようにね? それはそれで、本末転倒だからっ」


「は、はい……! はぁはぁ……♡」


 これは……良いものを頂いた。


 大事に大事に、伝承して行こう!


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