第7話 2人の気持ち
2日目の夜、がらがらの和室にポツンと敷かれた布団はゴソゴソと動く。
「やったっ!!」
私は布団の中で小さくガッツポーズをする。
「今日の作戦は大成功よ!」
私はただただ興奮している。
詳しく説明するわっ!!私は今日の一芽君と成の映画の約束を見て、ビビビッときたのよ!
その作戦とは、ずばりッ!『ご褒美作戦』よっ。これはテスト頑張ったらご褒美をあげるというだけの作戦。
簡単な作戦に見えるけど、ご褒美の約束をすることでのご褒美の日までの追放は必ず免れられる。そして!ご褒美で成をドキドキさせられる最高の作戦なのよっ!!
成って、しっかり私との距離感を保とうとするから不安だったけど、押しには少し弱いのね。
それに料理の手伝いをしたら褒めてもらえたし!褒めてもらうってあんなに嬉しいことなのね…
私は今初めて褒めてもらうことの嬉しさを知ったのか…
「そっかだって今私は………………………」
さっきまで幸せなことを考えていたはずなのに、頭の中には黒く、ドロドロしたものが侵食してくる。
振り切ることのできない記憶が私にへばりついて話さない。
お願いだから、お願いだからついて来ないで…
「うっ、もう寝よう」
ジワジワと湧き上がってきた吐き気を押し殺し、私は眠りについた。
_______________________
俺はリナに『おやすみ』を言うと、部屋に戻り勉強を開始する。
明日は土曜日だから今夜のうちに出来る限り進めておこう。夜遅くまで勉強できるのは今日と明日だけだからな。
机に向き合い、ペンを取る。まずは一芽に教えてもらった数学からだな。
問題集を開き、手を動かす。
「あれ?何考えてたんだっけ?」
どういうことか、問題が全く頭に入ってこない。問題を解こうとすると、リナのことがチラついてしまう。あまりにも手につかないのでペンを一度置く。
「あいつが1人で生きる為に、俺は何をすればいいんだ?」
確かに、早くリナにはあいつ自身のためにも、この家を早く出て欲しいとは思っている。とはいえ、そのために俺に何をすべきか全く分からない。
「時間は大事か」
俺は、机の隅に飾ってある家族写真を眺める。
この時は俺がまだ小学1年生で、入学式の写真だ。俺は黄色い帽子に茶色のランドセルをからっている。俺を中心に母さんと父さんが太陽のような笑顔でピースサインを作っている。
これが
『時間に変わるものは無い』
これは父さんの口癖だった。俺が小さい時からそう教えられてきた。
それを俺に教えるくらいならもっと俺にかまってほしかったということが本音だが。俺にもっと時間を割いてほしかった。
俺の両親はそれぞれ大学の教授をしており、日々研究に力を注いでいた。
両親はそちらにばかり時間を使っていた。毎日研究に付きっきりで、俺は祖父母に預けられることが多かった。俺ら3人はそれぞれ家族に会う機会が少なすぎたのだ。
だから、幼い時にこれでもかというほど聞かされた『時間に変わるものは無い』という言葉は両親の反面教師という形でしっかりと胸に刻まれた。
両親からは愛ではなく、お金ばかり貰っている。もちろん自分を産んでくれたことなどは感謝している。だが、育ててくれたのは祖父母であることは間違いない。
現在、父さんはイギリス、母さんはアメリカで研究に励んでいるらしい。この情報はたまに父さんからもらうスマホのメッセージアプリ【LEIN】の連絡から知った。
こんな人生を歩んできてしまったせいで、リナのことで頭を抱えてしまうのだろう。
両親の言葉通り、時間をかけてこの世界に慣れてもらうのか、それともすぐに自立できるように促せばいいのか…
どちらかにしろ言われても今の俺は選べないだろう。
俺はスマホを手に取り、【LEIN】を開いた。トーク画面には(一芽)の文字。
『一芽、突然すまないが明日合わないか?』
ピロピロリーンッ
スマホの通知音が鳴る。
『いいぜ!!明日の12時に俺ん家近くのファミレス集合な』
『ありがとな』
これでリナのことは明日じっくり考えられる。今は勉強だっ、どれだけ考えても答えが分からない問題に時間を使いすぎるのは勿体ない。
俺は再びペンを手に取った。
【余談】
投稿して5日目なのに、20人ものフォロワーの方々に読んでいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます!
これからはやっとラブコメの「ラブ」の部分を書いていこうと思うのでよろしくお願いします!
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