第5話 ご褒美♡

「ただいまー」

「お邪魔しまーすっ」

「お帰りなさい!」


玄関を潜ると、リナが笑顔で出迎えてくれた。昨日と同じように俺のダボダボの服を着ている。


「お客さん?」

「俺の友達の一芽だ」


一芽は口元を緩ませながら横目でこちらを見てくる。


「彼女か?」

「違う」


一芽は俺の背中を軽く叩く。早速茶々を入れてきやがった。リナと会って、第一声が「彼女か?」なんて考えてもいなかった。笑顔を見せている一芽たが、なんだかとても興味深そうな目をしている。


「というか、リナ掃除ありがとなっ!ここまで綺麗になるとは思わなかったよ」

「でしょ!?」


リナは腕を組み、誇らしそうに1人頷いている。


「うん、綺麗だ」

「私、美少女だからっ」

「お前じゃなくて部屋だ」


他人の前でもいつも通りのそのノリ、流石ですリナ様。


「成、帰って1分でイチャつくなよ」

「イチャついてない!」


このままだと、一芽にいじられるばかりなので早いうちに一芽をソファに座らせた。

 まずは、リナのことをしっかりと理解してもらうために3人でテーブルを囲んでリナが家に来たきっかけを話した。



「なるほどなぁ、そういう経緯で同居しているのか」

「同居言うなし」

「まぁ、リナちゃんが家にいる理由は分かった。でも、まさか成に先越されるとはな」

「だからそんなんじゃないって」

「成って幸せものよねっ」


なぜかリナもノリノリで一芽のノリに加わっている。本人はどういう気持ちでやってんだ?


「まぁ、今日成がおかしかった理由が分かっただけで満足だよ」


一芽は首をさすりながら安心した様子を見せる。ちゃっかり俺のことを心配していたり、俺が嫌わない程度でいじってくるところがやはり一芽のいいところだろう。


「これからも愛を育んでっ!」


すまん今のは撤回だ。



リナの話が終わったら2人で勉強を開始する。机には問題集と範囲表を広げ、一芽とこれからのスケジュールを決める。


「一芽、何から手をつける?」

「うーむ、今回1番高い難易度が予想される数学からだな」


俺達は中間テストの時にもこのように集まって勉強していた。一芽は理系、俺は文系と上手い具合に噛み合っているので、教え合いができるからだ。そんな偶然にも恵まれ、俺らは成績の上位を握っている。 

 一方その頃、リナは俺達のノートや教科書を静かに覗き込んでいる。勉強に興味があるのだろうか? 

 しかし、そんなのに構っている暇などなく、2人で勉強できるわずかな時間を無駄にしないため、俺らは真剣に取り組んだ。


「ふぅー、終わったな」

「一芽、数学教えてくれてありがとな」

「お前こそ社会の単語教えてくれただろっ」


時間は体感よりも早く進み、ふと時計を見ると3時間が経過していた。

 集中力が切れ、疲れがどっと押し寄せてきた俺と一芽は背伸びをしながらソファに倒れ込む。


「一芽、そろそろ時間もいい頃合いだな」

「いいか?テストは来週の水曜日からだ。リナちゃんばっかりじゃなくてちゃんと勉強しとけよ。点数良かったら今度映画でも行こうぜ。もちろんリナちゃんも一緒にな」

「いいんですか!?」


リナの顔がぱぁっと明るい表情に変わる。犬だったら絶対に尻尾をフリフリしているだろう。

 こういう姿を見ると、異様なまでになでなでしたくなるが、このご時世にそんなことをする勇気は起きなかった。


「当たり前だ。これから成が迷惑かけるだろうから」

「成、テスト絶対にいい点とってよね!」

「分かった約束な」

「じゃっ、俺は2人のお邪魔みたいだからもうおさらばするな」

「今日はありがとな」


一芽は手を振りながら帰っていった。



「疲れたぁ」


太陽は完全に顔を隠し、部屋は少し薄暗くなった。

 玄関で一芽を見送った俺は、再びソファに横たわり、ため息をつく。3時間ぶっ続けの勉強は流石にエネルギー切れになる。

 その隣にリナが座ってきたので俺はすぐに体を起こす。  


「成、もしテストの点数が良かったら私もご褒美あげるわよ!」

「どうしたんだよ急に」

「成はいつも頑張ってくれるから、私からも何か渡そうと思ってね!」


リナにしては珍しいな。珍しいと言っても出会って2日目だが。


「別に勉強ぐらい普通だろ?一芽も同じくらい頑張っていたし」

「勉強だけじゃなくて、昨日のお布団だったり今日のお弁当だったり、私貰ってばかりだから」

「お前だって今日は掃除してくれたじゃないか」

「それは、一緒に暮らす上で必要だから」


本当にどうしたんだ?今の話的に『やっぱり?そんなに褒めちゃって、もしかして惚れちゃった?』みたいな返しがくると思ったのだが。


「そもそもご褒美って何するんだ?」



突然リナは、更に俺のそばに座り直し上目遣いで覗き込んでくる。ピンクの潤った唇に指を当て、小悪魔のように顔をほころばせる。

 吐息の音がが聞こえるような距離感と彼女の甘い匂いに心臓は思わずジャンプする。


「それは成の好きなように…していいよ」


エロい、シンプルにエロく、色気がある。直視することができないほとどに。どこを見ればいいのか困った俺の目は泳ぎまくる。


しかも、「好きなように…していいよって」どんな意味だよ!誘ってるんですか!?

 頭のスクリーンにリナのエッチな姿が映し出される。

 いやいやっ、そういう行為は好きな人同士がするものだ。絶対にしちゃいけないっ。

 俺はギリギリのところで踏みとどまる。


「早く…決めて…」

「ひゃいっ」


リナの吐息が俺の耳をくすぐる。

 リナは引き続き【エロオーラ】(男の敵)をムンムン出している。色気と焦りで完全に思考が鈍くなる。


「なんでも良いよ?」


完全に小悪魔化しているリナは、俺の頬に手を添えて微笑む。頬に彼女の体温を感じる。

 体を後ろに晒し逃れようとするが、彼女は上から覆いかぶさるようについてくる。


「逃げないで。何して欲しいの?」


近い近い、近ーーーーいっ!!

とにかく早く何か答えないとっ!

 しかし、今の俺にまともな答えなど浮かぶはずもない。


ああっ、どうにでもなれっ!

咄嗟に口から言葉を出す。


「かっ、肩とか背中のマッサージをしてくれ」

「いいわよ!」


よかったぁぁああ


言俺は頭にあった候補から何か選ばずに口に出してしまったので自分の回答を聞いて思わず肩の力が抜ける。もしも、「あんなこと」や「こんなこと」を頼んでいたら俺はここにいられなくなるからな。


俺が大きなため息をついている横で、なぜかリナは上機嫌だ。お前はご褒美を提供する側だろ?


こうして無事、リナのご褒美が決まったのだった。

 みんなの映画にマッサージもあるし、テスト勉強頑張らなくちゃな。


 

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