第十五話


けれども横目で窺うと、

薄絹の裾の中に差し入れられた右手の動きが衣越しに見て取れる。

レナの太腿を撫でた手が尻の方へと這い上り、

小振りな丸みを楽しむように揉んでいる。

そのうち、レナの下帯を片手で緩める衣擦れの音がした。


いかにも手慣れた所作だった。

それだけでサリオンは苛立った。


この男はこれまで一体何人の、男や女と房事を共にしたのだろうかと

頭が勝手に考える。

腹の底からどす黒い怒りのほむらが湧き起こる。


まるで見せつけようとするように、

また、レナをじわじわ追い込むように裾の下での卑猥な悪戯を続けている。

手の形に盛り上がる絹衣の位置が移動するたび、

レナは眉をきつく寄せ、ビクリと背中をしならせた。


「主菜の支度の確認と、陛下のお好みの銘柄のワインをもっと用意するよう、厨房に申しつけて参ります」


金で買われた男娼が客と睦んでいるだけだ。

これまでレナには指一本、触れずに一夜を明かして帰る奇行をくり返していた

アルベルトが、単なる客になったのだ。

肩を怒らせたサリオンは、

背中にべったり貼りつく何かをかなぐり捨てるようにして

踵を返した。その時だ。


レナの思わずといった甲高い嬌声に引き戻されて目が行った。

レナの膝から身体を起こしたアルベルトが、

閉じられたレナの膝を割るようにして右手を潜ませ、奥の方で蠢いた。


「ん……っ」


レナは喉を小さく鳴らすと、身を屈める。

一旦、こじ開けられた唇からは絶え間なく淫声が絞り出され、

レナは細い肢体を蛇のようにくねらせて、

愛撫の愉悦に耽溺していた。

目を閉じたレナの頬は朱に染まり、唇も艶やかに濡れている。


そんなレナを凝視するアルベルトの目は獲物を喰らう鷹のように鋭く光り、

それでいて、どこか冷ややかだ。


「失礼致します」


その退室の挨拶は、

アルベルトの耳にもレナの耳にも入っていないとわかっていた。

廊下に出た後、

両開きのドアのを立てないように配慮しながら閉じている、

自分がひどくみじめに思えた。

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