第十三話


従来の酒宴なら、この長椅子は三脚用いられ、

料理を並べるテーブルを三方で囲む形で用意される。

レナのような最高位の男娼を買い、宴席を設ける太客は、指名した男娼の他に

階級の低い男娼も数名はべらせ、

大勢で料理や酒をたしなむ客がほとんどだ。

 

また、食事の合間の余興として、

曲芸や手品を披露する奴隷を呼んで披露させたり、

楽士に伴奏させながら、薄衣の男娼の妖艶な踊りを愛でる客も多くいる。


テオクウィントス帝国唯一の公娼では、

床入り前の宴席で見栄を張るのも、客に課せられた使命のうちだ。

でなければ、あの客は面白みのないケチな客だと、

館主にも男娼達にも見下される。

 

そのため、客は酒宴にも膨大な金を注ぎ込み、いかに派手で豪華にするかで、

頭を悩ませ、趣向を凝らそうと必死になる。

何としてでも気を引きたい男娼を前にして、虚勢を張ろうとしたがる男の気持ちを巧みに操り、あの手この手で客から金を搾り取る。

それがクルム国の格式ある娼館での風習であり、常識とされていた。


そのクルム国特有の風習になぞらえて造られた娯楽の場である公娼で、

アルベルトは派手に総花を振る舞う一面を見せるかと思えば、

打って変わって、こういう場には人を全く呼ぼうとしない。

今夜も窓辺でベンチに腰をかけ、竪琴を優雅に奏でる楽士が一人いるだけだ。


あとはアルベルト本人と、相方として指名したレナと、

そして酒宴の雑用をこなすサリオンのみという、

家族で囲む食卓のような宴席だ。

 

レナを待っている間、時間潰しにしていたのだろう。

長椅子に片肘をつき、半身を起こしたアルベルトの傍らには、

本が開かれたまま置かれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る