好きな人

 第何回か忘れたぐだぐだ勉強会が終わり、お家に帰ってきて早速ウィズフレに手を染める俺。もうすっかり無くてはならない気休めツールと成り果てている気がしていた。


『──友達が修羅場?』

『そうそう。何か顔の良い奴なんだけどね?』


 適当にネットサーフィンに丁度通話申請がmdさんから来ていたので、今日起きた月村さんエンカウントいついてちょっと相談してみることにしたのだ。

 基本的に恋愛がらみの修羅場とか正直わくわくする野次馬根性丸出しの人間が俺なのだが、知り合いに起きてしまうと中々に悩みの種になるのが辛みである。

 そして当然、そんな人間にjkの恋心なんて理解できるわけがない。そんなことが可能なら今頃女子の一人くらいならお友達になれている気がする。

 

 ……まあ全く知らない人間の相談なら受けたことがあるがそれは良い。素人童貞同然の恋愛相談ならやったこともあるけどね。

 とういうわけで同い年らしいぴちぴちの女子高生mdさん。どうかそのリア充ぽいボイスが間違ってないことを証明してくれ──!!


『うーん。残念ながらそういう小説染みた経験談無いね』

『あー、そうだよね。確かに漫画の主人公みたいなやつだからねぇ』


 残念。どうやら会話力10000を誇るこのmdさんを持ってしても対応出来るわけではないらしい。ちなみに俺の会話力は5だ。ごみめっ!!

 というか美男美女の修羅場とかどんなラブコメだよまったく。通路挟んだ隣席とかで耳だけ傾けたくなりそうな珍事件とか起こしかねないのがあいつなのだが。主人公体質の奴はこれだから面倒くさい。


『でも意外だね。mdさんならそういう複雑な恋でも的確に導けそうな感じするけど』

『……ましろくんは私のことをどう思ってるの?』

『声の良いリア充高校生。ぶっちゃけウィズフレなんて使わなくても友達多そうな人っぽい』

『──何それ。おっかしー』


 俺の回答に対して、軽く苦笑いしてるしながら否定してくるmdさんだが俺の見立ては大凡間違ってないと思う。

 こういった場所で活動することに違和感がある話し方って感じだと思う。誰に似ているかと言われれば……誰だろうか。月村さんかな? 声質も似ているし。


『そういえば、ましろくんはどんな女の子がタイプなのかな?』

『──俺?』

『そのイケメン君? と一緒にいることが多いなら女の子と話す機会も多いと思うんだ。どんなタイプと恋してみたいー、とかないの?』


 ……タイプか。そういえば別段意識したこともなかった。

 まあ考えても意味ないことだったしな。顔の良いはにかむ野郎こと翼を差し置いて俺に恋心を持つ酔狂な奴は、それこそ肉眼で見る微生物程に視界に入ることはないだろうしね。

  

 しかしタイプなー。あー、そうだなぁ。


『うーん。あえて言うなら、一緒にいて辛くない人かなぁ』

『よくある回答だね? もしかしてはぐらかしたり?』

『……まさか。いきなりだと思いつかないだけだよ』


 軽く笑いながら、ちょっとはぐらかした感を出して答えてみる。自分よりちょっと背が高くて引っ張ってくれるだとかいくらでも思いつきそうだけど、俺が理想を語るなんて愚かにも程があるだろう。

 

 それにしても俺のことなんて聞いても楽しくないだろうに。ちょっとした興味を抱いたのだろうか。


『──ふーん。そうなんだ』


 俺の情けない返事に対して、mdさんの声はえらく平坦に聞こえた気がする。

 ……どうしたんだろう。そんなにつまらない答えだっただろうか。それなら申し訳ない。


『私ならましろくんのこと放っておかないけどなぁ』

『mdさんみたいな人に言ってもらえるなら光栄だね』


 この明るい口調で言ってくれる社交辞令が胸に染みこんできて辛みがやばい。なんかもう涙が出てきちゃいそう。何でこんなに優しいんだろうこの人。


『あ、もうこんな時間! 今日はもう落ちるねー』

『りょ。じゃあまたよろしく』

『うん。……じゃあね』


 めっちゃあざとい感じを残しながら通話が終わった。……今のなんかリア充ぽい切り方だったなぁ。


 相変わらず気持ちの悪い自惚れだと自制しながら、適当にパソコンを操作する。

 それにしても驚いたなー。まさか好きな人について聞かれるとはなー。まいっちゃうなー。


 ……はじめてかもしれない。いや、昔あいつに聞かれた以来だろうか。

 懐かしい。あの頃はまだそこまで人にびくついて生きてなどいなかった気がするし、他人の顔なんてそこまで伺ってはいなかったはずだ。


 まあ現実が見えてなかったといえばそれで終わりなのだけどね。まあそのおかげで、世の中は優れた人間だけが輝いていればいいのだと気づけたのだから良しとはしているが。


 座っているの椅子の背もたれに体重を掛け脱力しながら、ぼんやりと窓の外を眺める。

 二つある窓の内の一つ。そこから見えるのは空ではなく一軒の家。より正確に言えば、その家に付いている窓。


『──まったくもう! 相変わらずなんだから』


 懐かしい。最近はもう、あの窓の先から名前を呼ばれることもなくなった。

 そういえば、あんまり顔見てなかったな。あれで案外寂しがりだし大丈夫だろうか。……大丈夫だろうな。あいつも月村さんと同じくらいの美少女だし、それに──。

 

 ああダメだ。どうも後ろ向きな気持ちになってしまう。パソコンをいじっているからそうなるんだ。

 黒歴史とは向き合いたくないと、すぐさまパソコンを切り布団に飛び込む目を瞑る。


 あんな一方的で、身勝手で、馬鹿馬鹿しく情けないゴミくずの後悔なんて──。


 ──そのくせ他人ひとを傷つけた過去なんて、一瞬でも思い出したくないのだから。

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