平均的な男子高校生こと俺氏の恋愛事情

普通の高校と同じ事はしたくないという学校法人側の都合により、とにかくいろんなものがズレている瑞城。高校もその例に漏れないわけであって……そうだな。例えば、英語・現代文・数学以外は選択科目だったり、生徒会が二つあったり、教室の向きがバラバラだったり……

 とにかくそんな訳で、授業中にふと廊下側の窓に視線を移すと、廊下を挟んで存在している教室の人間と目線が合う。

 さて、そこで今俺が幸か不幸か、目線を合わせてしまったのが吉見雪音。二郎に問いただされた例の女だ。

 彼女は学校でこそ制服でいるものの、外では常に和装で過ごしているらしい。京都の名家の血を引いているらしく、その辺に関しても伝統を守っているというやつなのだろう。

 俺も一度駅の近くで彼女に会ったことがあるが、その時も例にもれず和装だった。テレビや映画なんかでみる古来からの京都人が画面から飛び出してきたようなそんな物珍しさを感じた。ただ、その麗しい袖口から見えた左腕の龍の刺青は今でも鮮明に残っている。高校生で刺青なんて、中々に異彩を放っている。夏でも冬でも制服は長袖の冬用を着ているのは、それが原因だと去年のクラスメイトから聞いたことがある。

 ともかく、去年は彼女も俺と同じクラスに在籍しており、割と仲良くしていたつもりだ。

 そんな彼女が、軽く手を振ってくる。ただし、その表情はお世辞にも笑っているとはいえないくらい真剣なまなざしをしていた。何となく気まずくなって手を振り返す。

「四季島ぁ~彼女に手を振るなぁ。気持ちが悪いぞぉ」

 現在絶賛授業中という事もあり、数学科の小太り狸に怒られる。

「すいません。後、彼女なんていません」

 こそこそと、俺の噂話をしているそこのレディー達~?あとで廊下に面かせや。

 もう一度窓越しに彼女を見る。俺を口元に手をやり、指さして笑っている。俺を馬鹿にするのだけはお得意なようだ。これが京都の名家の生まれ?由緒ある吉見家の伝統は一体なんていうモノを生み出したんだ……

 視線を前の白板へと移す。

 そうそう、瑞城の変な点といえば、黒板じゃなくて白板ってのもあるな……


 終礼後。解放のベルが鳴る。帰宅部ガチ勢が勢いよく扉を開け、教室の外へ駆け出す。俺は明日の時間割を確認し、ゆっくりと教室を後にする。

「翔太丸……。またれよ」

 部室へと向かう途中、正面玄関を出たところで小柄の怪しげな男に声をかけられた。

「拙者に用かな、輝馬丸……」

「なぁに、大したことじゃない。水瀬さんには接触したか?」

「そうか。おぬしの手回しだったな。これは報告が遅れてすまない。無事任務は遂行された」

「シナリオ通りに進んだか……」

「で、いつまで続けるのこの口調」

 いかにも怪しげなその男は、道田輝馬という中学からの親友だ。そう、あの佑奈ちゃんが口にした道田輝馬本人である。

「いやぁ~、少し江戸をテーマにしたアニメを見てねぇ~何しろ、憧れちゃったモノだからさぁ~アハハ~」

「相変わらずだな……」

「翔は部活か?いやはや、運動部と大変だねぇ~もう、外に出るだけで汗と人で溺れそうなのになぁ~」

「お前はいつもネットの海に溺れているだろう……」

「お!今のうまいねぇ~座布団二枚ッッ!そのネタもらっていくねぇ~」

「勝手にどうぞ……はぁ、お前も運動しろよ……モテないぞ?」

 目の前にはまるでリスのような目で頭にクエスチョンマークを浮かべる小人が一人。

「どうしてモテなくちゃいけないの??」

「どうしてって、それは青春のロマンといいますか、男としての責務というか……確かに。どうしてモテなきゃいけないんだ?そもそもモテるとはなんだ??」

 輝馬からの質問に、思わず考え込んでしまう。いかんいかん。

「ん~~とにかく楽しいからだよ!女の子とわっきゃうふふしたいだろ?」

「う~ん……もうとっくに毎日嫁とエンジョイしてるからなぁ~」

 うん。ダメだ。この子はもう手遅れだ。取り敢えず、精神科のお医者様と、憲兵さんをお願いします。この子が根っからの二次元ロリコンだという事を忘れていた。

「まぁ、そうか。モテるために運動か。っと、ほれ、君の嫁さんが不機嫌そうにこっちを見ているぞ、邪魔したな。では、またな」

「え?嫁さん?あ、あぁ。またな」

 正門の方へ歩き始めた輝馬の小さな背中を見送り、グラウンドの逆サイド、正門とは真反対にある部室へ目を向けると、12点が腰に手を当て、不機嫌そうにこちらを見つめていた。

 取り敢えず、軽くお辞儀をして挨拶。一応先輩だからね……


 そこから、ずっと見つめられながら、なんとか部室に到着。

「遅くなってごめんなさい~」

「…………」

「え、あの~紗希先輩??」

「…………」

 あ、この人、面倒くさいモード入ったやつだ……

「天香桂花で羞花閉月の上、才色兼備でお可愛い紗希先輩。この度は遅れて大変申し訳ありませんでした。以後は善処致しますので何卒お許し願います!」

 取り敢えず、“美人”という意味を持つような四字熟語を並べておく。そもそも、まだ他に誰も来ていないのに、どうして俺が謝らなければならないのだうか。理不尽というものではないだろうか?分かる方はコメント欄へどうぞ。

「そこまで言うならゆるしてやってもいいわ」

 目の前でなんか偉そうな紗希先輩。じーっと、見つめているとズボンのタグが見えた。

「あのぉ……紗希先輩……」

「何よ。もしかしてカッコいい私に惚れちゃった?」

「惚れるなんてことは天変地異が起きてもありませんが……ズボン裏表逆ですよ?」

「……へ?」

 彼女は目線を俺から、自らの自分へと移す。何かを察したように、顔を朱くした。頭から水蒸気が上がるのではないかと心配にあるくらい、顔が朱い。かわいいと思ってしまった。不覚……

 彼女は急いで、部室へ駆けて行く。

「本当に、忙しい人だ……」

 彼女の天然ぶりと、素直な反応に、手を焼きながらもそんな彼女らしさに少し惹かれた今日この頃であった。

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