第8話 そして、山賊の薔薇園と勝負準備
エクスが勇技発動を宣言し、一瞬白い閃光で部屋が満たされたかと思うと、山賊達が騒めき始めた。
「か、頭の指が治ったぞ! 頭! 大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。凄腕の僧医でも傷の治りを早めるのがやっとなのに、一瞬で治ったぞ! これが、勇器が持つ能力勇技の力か……」
山賊頭領は、一瞬で元通りに治療された親指を見て言葉を無くしている。
傷跡がないか丹念に舐め回すように指を確認するがどこにも異常は見られない。むしろ、少し汚れ長かった爪が丁寧に切られ、石鹸で洗われたかのように綺麗になっている。
「さて、それじゃ山賊さん。あなた達の依頼の成否を賭けて……」
エクスはそこまで言うと、コップに残っているウォーカを口に含み、喜びの福音を喉から奏で飲み干し、妖艶に微笑むと指を弾き乾いた音を鳴らす。
「——私と遊びましょ」
酔っ払った山賊達は「おっしゃ!」「やってやるぜ!」と口々に気合いを入れながら集まってくる。
その中には、最初の戦闘で傷ついた山賊達や、負傷していたアグスとゾドもいた。勿論彼らも傷の治療がなされており、皆驚いてる。
エクスは彼らが集まると腰のベルトに付いているポーチから手の平位の大きさの木箱を取り出し机の上に置く。
「今回やる遊びは、飲兵衛ババ抜きで団体戦です!」
エクスは元気良く声を上げると、語尾のですをセルフエコーし、木箱の蓋を開ける。中には、綺麗なトランプがあった。
「契約書にも書いてあったけど、飲兵衛ババ抜き? 団体戦? なんじゃそりゃ?」
「ふふ、説明しましょう……ハーテンさん。お願いします」
エクスに急に話しを振られたハーテンは、不意をつかれ飲みかけていたウォーカを大量に飲み込んでしまい、咳き込んでしまった。
「……ンゴホッ、ゴホッ! 私が知る訳ないでしょ!? エクスさんが自分で説明しなさい!」
「ちぇー……ウォーカのお代わり持って来ようと思ったのに」
エクスは口を尖らせ不満そうな顔をすると、トランプを手に取る。
そして、白くて綺麗な指を踊る妖精のように美しく動かすと、トランプを机の上に扇状に綺麗に広げる。
「まず、基本的なルールはババ抜きと一緒で、ババを一枚抜いて、53枚でやります」
エクスは広げられたトランプの中から音もなくジョーカーを1枚抜くと、確認の意味を込め周りに見せると木箱の中に戻す。
「人数は、山賊さん達から代表で3人。私達は、ハーテンさん、ディアちゃん、私の3人。合計7人でやります」
「……いや、エクス。3人と3人で6人だよ」
計算間違いをしたエクスに、ディアが溜息をつきながら指摘する。
「あ、そっかあ! 6人ね。6人。それで、引く順番は、山賊さん1、ハーテンさん、山賊さん2、私、山賊さん3、で一周って感じで」
「……いや、私忘れてるから! 私の手札一生減らないし、ババ抜き終わらないから、皆の人生ババ抜きで一生終えちゃうから!」
ディアはエクスの間違いを突っ込むと「飲み過ぎだよ。エクス。」とエクスを気遣うが……
「大丈夫、大丈夫。心配するディアちゃんかーわぅいい」
エクスはディアをからかい出すと頬を指でプニプニ突き出した。ディアは恥辱に塗り潰された真っ赤な顔で身を震わす。
エクスはそんなディアの様子には、特に気にも止めず「つんつ〜ん。ディアちゃ〜ん、つ〜んつん」と続ける。
ディアは、酔っ払っているエクスよりも顔を真紅に染めて怒りを噴出しないように必死に耐えている。
エクスは抵抗しないディアに優越感を感じたのか、意地悪な悪魔のように歯を見せ口角を上げると「つんつん、つーんつん、つーん……つんつんつんつんつつん! あーつつんつつつん!」と怒涛のつんつん拳をリズミカルにディアの頬に炸裂した。
その時、何かが切れた音が響いたかと思うと……
「んがぁ! 突きすぎだぁ! エークス!!」
堪忍袋の尾が切れたディアが叫ぶと、席を勢いよく立ち上がり、身を乗り出し、エクスを全身全霊で、撫で回した!
「あっ、あ、あー……ディアちゃんの頭いい子、いい子……気持ちメエェ〜」
エクスは山羊の鳴き声のような語尾を出すと、目を細めうっとりとしている。
ディアは「しまった! また、勇器の効果で殴れないの忘れてた!」と嘆き悔やんでいる。
山賊頭領は、エクスを犬に対するご褒美のように愛撫するディアを見て愕然としている。
「なるほどなぁ……武器を使おうとすると、鎧騎士の野郎……じゃなくて、鎧騎士さんに没収されて、殴ろうとすると相手をなでる行為に強制されんだな……俺よ……指が取れて苦しんでいる俺を尻目に酒を楽しんでいる、お前らを張り倒そうと思ったんだけど、やらなくて良かったよ」
「そうっすね。あれは、かわいい女がやってるからまだ見れますけど……頭のような不細工と男臭さを悪い意味で極め切った奴がやったらこの世の終わり、地獄絵図すっよね……っあ!」
山賊頭領は「そうだな」とうなずき、少し間を置くと怪訝そうな顔をして会話した手下を睨みつける。
「……誰が! 不細工と男臭さを悪い意味で極め切った奴だ!!」
山賊頭領は、手下に狙いをつけ、拳を固めると、飛びついた!
「あ……! か、頭ぁ……!! んあぁ! そこはダメぇ!」
山賊頭領は、手下の後ろに回り込み自身の体を絡ませ、身動きを封じると、ゴツゴツした手を衣服の下に潜り込ませ、凹凸の無い漢の平野を丹念に愛撫し出した。
次第に、手下の拒否反応を示す声が、好色を秘めた喘ぎ声に変わり始めると、下腹部に隆々とそびえ立つ山が出来上がる。
山の山頂部からは、清らかな湧き汁がとめどなくあふれ始め、淫らな手下の心を象徴するかのようにズボンに染みを作り出していた……
「頭ぁ……や、やめたぇ……かたぁいの……頭のかたぁいのあ、当たってう気持ちわりゅうくなりゅ……お、おかしおくなりゅ……あ、あっぁ」
「てめぇ! まだ言うか! というか、いつ終わるんだ! 誰か止めてくれぇ!! 俺は最後までや・り・た・く・な・い!!!」
「あ、それ、相手に対する怒り、害意が落ち着くまでは終わんないですよねぇ~。早く終わらせたかったら全身全霊で取り組むしかないですね」
エクスは、ディアの頭撫でが終わって残念そうな顔をしながら山賊頭領に教えてあげた。そしてディアは頭を抱え机に顔を伏せており「ぉぉぉ、もうやだぁ」と苦悶の声を漏らしている……
鎧騎士はどこから持ってきたのか季節外れの薔薇の花を、木細工の籠に入れて持ってくると、彼らに舞い降りてくるように放り投げている。
山賊頭領の怒りは、まだ収まらないらしく、右手で平野を左手で山頂をこねくりだした。山賊頭領の手が軟体生物のように蠢いているのが衣服の上からでもわかる。
手下の心、体は山賊頭領の強引な求愛行動に屈服寸前なのだろう、山賊頭領にその身を任せるようにもたれかかると、顔を赤く染め両手で口を押え、漏れそうな吐息が、舞い降りてくるバラの花びらに隠れるように必死に抑えている。
山賊頭領は「ぜ、全身全霊だと……やってやるよ。やればいいんだろぉ」と呟くと…………
――以下割愛。
「…………さて、それじゃあ説明に戻りますね。最初にカードを配って揃った数字を捨てる。ここは普通のババ抜きと一緒です。それで、カードを引いていって、同じのが揃ったら、その2枚を捨てて下さい。そして、揃った数字分をショットグラスでウォーカの一気飲みをしてもらいます……あ、鎧ちゃん部屋中磯臭いんで、換気お願いしますね~。あと、薔薇もちゃんと片しといてね」
エクスは鎧騎士に声を掛けると、広げられたトランプの中から、スペードの3とダイヤの3を抜き取ると、広げたトランプとは少し離れた位置に置く。
「この場合は、3なんで3杯飲んでもらいます。またこの時、飲めなくて降参する、酒をこぼす。もしくは鎧ちゃんがこれ以上の飲酒は命に関わると判断された場合は失格となります」
「……ねぇ、エクスさん、カード引く時の制限時間とかはないの?」
ハーテンが、机の上に散らばっている薔薇の花びらを集めながらエクスに質問した。
「はい、制限時間は今残っている人数分の秒数です。最初は6人なんで6秒で。最後2人だけの場合は2秒ですね。引いたカードを手札に加えて片手を離したら時間を数えましょう」
「勇者さん。途中で失格したり、手札を全て揃えて上がった場合の順番はどうするんですか?」
床の薔薇の花を鎧騎士と一緒に片している山賊がエクスに尋ねた。
「失格、手札が無くなり早く上がってしまった場合の、カードを引く順番は特に変わりません。仮に私が一番乗りで上がった場合は、山賊さん2が山賊さん3のカードを引く形になります。この時にお互いの手札を教え合う行為、相手に故意に狙ったカードを引かせるのはダメです。これを犯した場合は引く方、引かせた方両方がショットグラスで1杯づつ飲んでもらい、引き直ししてもらいます。また、それ以外のなんらかの不正行為があった場合も同じです……そこのところの判定も鎧ちゃんお願いね」
「……エクス、失格になった人の手札はどうするんだ?」
ディアはまだ先程の精神的損傷が癒えてないのか机を顔に伏せたまま質問した。
「はい、失格の人の手札は同じチームのどちらかが引き取ってください。この時、お互いの手札の中を教え合わなければ、ある程度の相談はしてもらって構いません。また、手札を引き取って揃えたカードは通常通り捨てて下さい。この引き取った時に揃った数字分のウォーカは飲まなくて結構です」
「……っはぁ、はぁ。それじゃ、勝利、敗北条件は……」
疲れ果て床に横たわっている山賊頭領はエクスに尋ねた。隣では、白目を剥き気絶した手下が腕枕をされている。彼らは同性愛という名の、美しい扉を開いてしまったのだろうか?
エクスは、一皮剥けてしまった山賊頭領とは、目線を合わさないようにして答える。
「……え、えぇ。3人全員酔い潰れるか、最後までババを持ってた方が負けです。1番に上がった人がいるチームが勝ちとかは無いです——」
「…………おーい、勇者さん。俺はこっちだよ。そっちの方にはいないんだよ……お願いだあぁ! 目を見て話してくれえぇ!! 流石に傷つくうぅ!! 悲しくなるからあぁ!!」
山賊頭領は涙を流し懇願している。全く人生というのは、一時の感情の行動で、人を弄び奈落の底に突き落としてくるので本当に非情である。
「……それじゃあ、山賊さん達は相談して、代表者を3人決めて下さい」
エクスがそう告げると、山賊達は山賊頭領のところに集まる。
山賊頭領は涙を拭き立ち上がり、気絶してる手下を抱える。周りがその様子を見ると風で森の木々が騒めくように囁き出した。
「やっべーよ。お姫様抱っこだよ」
「頭、まさか目覚めてしまったん? 覚醒してしまったん?」
「いや、さっき勇者さんが勇器の説明した時そんな性癖が開花するとか言ってねーじゃん」
「じゃあ……まさか! 頭は元から!?」
山賊頭領は少し離れたテーブルに、抱えている手下を優しく寝かせると、静かな怒りをその身に宿して戻ってくる。
「おめぇら……この依頼が終わったら……覚悟しておけよ」
山賊頭領は、ドスの効いた声で山賊達を凄む。山賊達は全員は顔を見合わせ、血の気の引いた青い顔をし「すんませんでした!」と謝罪をすると、一斉に両手で尻を隠した。
「違えぇよ! そっちの覚悟じゃねえよ! 俺を何だと思ってんだ!!」
怒っている山賊頭領の所にアグスが近寄ってきて「頭、我にやらせてくれ。羽付き帽子に借りを返す」と願いでるが、山賊頭領は渋い顔をする。
「アグスかぁ……確かにお前達兄弟は、戦闘では光るもんがあるが、飲みに関してはなぁ……」
山賊頭領は、仲間を見渡し少し考えると「ジョーンと、スーデン来い」と命令する。
そうすると、山賊達の中から細身で目つきの悪いのと、腹の出た巨漢が現れる。
「ジョーン、お前手先は器用だったよな」
山賊頭領が、目つきの悪いジョーンに声をかけると嫌らしく口角を上げて「ええ、イカサマは任せてください」と言う。
「よし、ジョーンお前は5以上の数に全部マーキングしながらやれ……スーデン、お前はガンガン飲め。今日は俺が許す」
スーデンは、脂肪で埋まりかけている顔を笑顔でくしゃくしゃにして、嬉しそうに返事する。
「うん、スーデン、ガンガン飲む」
「よし、それでいい……おい、ムリソエの奴は?」
山賊頭領は、眼鏡をかけ無精ひげを生やした男に声を掛ける。
「頭、何でしょうか?」
ムリソエと呼ばれた男は、山賊頭領の呼びかけに答えると、持っているコップからウォーカを口に含み、少し口内に留めてから喉に通す。
「このウォーカについて何かわかったことはあるか?」
「はい、透明度、味から推測するに、舞踏会や戴冠式などに使われるような一流品の高級蒸留酒ですね。ウォーカの高級具合を調べるのに透明度を利用するんですが……」
ムリソエは、肩に掛けているカバンからマンゴーを取り出すと、皮を素早く器用に剥き、黄色の小さい切り身を一つウォーカの入ったコップの中に入れる。
すると、黄色の切り身は、繊維に沿って色が抜けると無色透明となり、視認できなくなってしまう。
ムリソエは、そのウォーカに指を入れて、取り出すとその透明な雫を山賊頭領に見せる。
「この通り、まったく色がつかず、透明度を保っています。味も……」
ムリソエは、先程のマンゴーを混ぜたウォーカとは、別のウォーカだけの物を口に含み喉に流し込む。
「安いウォーカにあるような舌を刺す感じ、急激に喉が焼き付くような感じはないですね。高級酒によくある飲みやすく、かつ、胃袋を適温のお湯に浸して徐々に体温が上がっていく感じで酒が体中に確実に回っていく感じがします。このウォーカは紛うことなき王族、貴族連中が好む一級品ですね」
「毒は混ぜられてるか?」
「ありえないですね。ウォーカは高級品になればなるほど、混ぜ物の味を際立たせ、酒独特の成分、味と調和させて、効能を倍増させる特徴があります。この高級品のウォーカに毒なんて入れたなら、どんなに遅効性・無味無臭の毒でも、口に入れた途端、毒の何らかの成分で舌に異常が出て、雑味、苦みが際立ち飲もうとは思えない味になりますよ」
「なるほど、純粋な運と飲み勝負になるわけだな……運の部分はイカサマで、ジョーンが何とかする。飲むうえで何か気を付けることは?」
「……そうですね。かなり飲みやすいので、一気飲みでも抵抗なく流し込むことは容易にできます。ですが、勝負に時間が掛かると、酒が体中に気付かない内に回り、意識が無くなってしまうでしょう。短期決戦かつ、序盤の内に相手に大きい数字を揃わせ、大量のウォーカを飲ませておくことが大事ですね」
そこまでムリソエが言うと、スーデンが太い腕で挙手をして主張する。
「飲むのは、スーデンがやる。相手に実力の違い見せる」
「ああ、そうだな。だが、まずは相手に飲ませる。いいな?」
「……わかった。スーデン、頭に従う」
「――――と、いう感じで向こうは、こちらに大量のウォーカを飲ませてきて、時間差で酔い潰しを狙ってくるでしょう」
エクスは山賊達の方に向けてた視線をディア、ハーテンに戻す。
「よく分かるわね。なんか根拠があるの? 酔っ払ってそれらしい適当な事を言ってんじゃないの?」
ハーテンは、エクスに疑いの眼差しを向ける。エクスは広げたトランプを戻し、シャッフルすると鎧騎士にトランプを渡し、何食わぬ顔でハーテンの口元を指さす。
「読唇術というか、高度な人間観察というか、そんなものです。幼い時から鍛えらてれたんで精度には自信がありますよ」
「何それ? 組合に保管されてる経歴書にはそんなの書いてなかったと思うけど、養成学校卒業の時に審査官にちゃんと申告した?」
「いえ、これは武術でも、魔法でも、
——エクスは、勇者養成学校卒業式終了後の面談の時を思い出していた。
「……えーと。名前はエクスね。出身国はラアム魔国に、エルフの母マティと、人間の父オルドーを持ち、身分は町民と」
「…………はっはい」
この時18歳のエクスは、緊張した猫のように固まって椅子に座っている。
少し空間を開けた位置に長机があり、机の上に足を乗せ椅子にもたれ掛かり、怠けの化身と化した鎧姿の人間の女性が経歴書を見ながらエクスに質問している。
女性は桃色の長い髪を頭の後ろで結び、右肩から前に流している。
「それで、勇器は継承されたのではなくて、突然発生で取得……って、あー! もうマジ面倒なんだけど!!」
女性は急に声を荒げると、姿勢を直し、今度は頬杖を突き溜息を吐く。
エクスは驚きで身を大きく振るわせると「す、すいません」と謝る。
「いや、別にエクっちゃんに怒ってるわけじゃないし。と、いうかまず敬語やめよ。年齢だってウチが3つ上なだけだし、職業がワイヌ王国騎士団副団長だからってそんな身構えんでも問題ない、ない」
「え……あ、はい」
「あー、固くなんない、柔らかくねー。そんで、特に経歴書に書き間違えとかないっしょ」
女性は経歴書を宙に舞わすと息を吹きかけエクスの方に飛ばす。そして、また足を机の上に投げ出し、椅子にもたれ掛かる体勢に戻る。
エクスはそれを受け取り目を通す。書いてある字はインクも完全に乾いてなく、汚い字であるが、名前等の経歴部分は間違いなく記入されている……が、『使用する魔法、武術、総合的な戦闘能力は 1 で問題ない』と不自然に間隔が空けられ目立つ箇所があった。
「……あの、この使用する……」
「——あー! それね。確かにエクっちゃんは、観客動員した卒業試験の時の結果は見るに耐えないヤーバーイー結果だったけどさー、普段の授業だったり、ウチと戦った個人検定なんかは、満点以上の実力だったからさー」
女性は屈託の無い笑顔で「あーウチのボロ負けだったわー」と軽口を叩いている。
「そんでー通常は星の数で記入するんだけど、星5創世級の実力は確実にあるから、あえて、目立つように『超超1流』って書いて強さにも問題ないって記入したのよー。これで、3年後の等級検定依頼も、安泰安産安心!」
「あの、その、文字が抜けて……あと、私、他にも出来る事が……」
どうやら、女性には悪気はなく本当に書き忘れただけなのであろう、裏表の無い表情でカラカラと笑っている。
さらに始末の悪い事にエクスの話しを全く聞いておらず「そうだ! エクっちゃん今度一緒にご飯食べに行こー約束ねー」と食事に誘っている。
そして、会話(女性の一方的な喋り)の途中にノックと共に後ろのドアが開く。
「失礼します。カディーナ副団長、私の方は面談終わりましたが……」
開いたドアには、カディーナと同じ顔、同じ髪色で短髪の人間の女性が立っており、机に足を投げ出し、だらけ切ったカディーナの姿を見て固まっている。
「……お疲レモンー。アーリス団長。後、ウチの事を呼ぶ時は、おねーちゃん、でしょ」
「……ッ!!! カディーナ・コォカス副団長ぉ!! 貴女はまた!!」
「あ、これやばいやーつ。じゃあエクっちゃん面談終わりね! バイバーイ」
カディーナは勢いよく立ち上がり、荷物を瞬時に纏め、事態についていけず呆然としているエクスから、経歴書を掠め取ると、雷を落としているアーリスの横を通り抜けていく。
「……はぁ。あなたも、面談はこれで終わりなので今日は帰ってもらって結構です。後日、研修先の組合の詳細を記入した紙を家に郵送しますので……」
「あ、はい」
アーリスは、そこまで言うと廊下に出て行き「カディーナ副団長話しがあります!!……って、いない!! 何処に隠れたんですか!!」と怒鳴ってカディーナを探しに行ってしまった……
「————と、いう事があって申告出来なかったんですよねー」
「……なるほどね。審査官が、あの残念な副団長なら色々と納得したわ。それで、等級検定依頼の時の結果と、経歴書に書かれて訂正されてない数字の1だけを見て、
「それで、エクス。ババ抜きの作戦は何かあるの?」
エクスは、ディアの方を見ると含み笑いを浮かべて「ディアちゃんはいつも通りで大丈夫」と言った。
「まぁ、作戦なんですけど、相手は、確実に何らかのイカサマをしてくると思うんで、防止する意味でも最初のシャッフルと配りは鎧ちゃんにやってもらいます」
鎧騎士はまた着替えていて、執事の服装に戻っており、沢山のショットグラスを別のテーブルに並べて、直ぐにウォーカを注げるように準備している。
「……以上です」
「「はい?」」
「……よし! それじゃ山賊さん達も準備終わったみたいなんで、試合開始しましょお!」
エクスは、硬直してしまっているディアとハーテンには目もくれず、山賊達の方に声を掛けに行ってしまった……
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