第4話 そして、臆病な覚悟と勇者は下準備に
エクスは山賊達に話が終わるまで待ってほしいとディアを通じて提案した。が、誰もそれを聞いておらず彼女の攻撃に驚き、ざわついている。
「お前、今の攻撃見えたかよ?」
「いや全然、というか、気付いたら俺の隣が何人か消えてるんだけど」
「おいおい、1つ星町の人級の難易度の依頼で報酬も良いから受けたのに、こりゃ割に合わねぇよ」
「そもそも、勇器のほかに武術まで使うって聞いてないぜ」
アグスとゾドに至っては、大口を開け言葉をなくしたかのように破壊された武器とお互いの顔を見合っている。
「デ、ディアちゃん。あ、あの……彼らが落ち着きだしたら教えて下さい」
「うん、わかった」
エクスは周囲の警戒をディアに頼むと、ざわつきの声にかき消されない程度の声量でハーテンに声を掛ける。
「ハ、ハーテンさん。その、戦いの、じゃ、邪魔をして、すいませんでした」
戦闘の構えのまま固まっているハーテンを見て、エクスは戦いの邪魔をしたから彼女が怒ったのだろうと思い謝罪をした。
「え、あ、気にしなくていいのよ。こちらこそ助けてくれてありがとうね」
予想外の出来事に上の空になっていたハーテンは戸惑いながら答えた。
ハーテンにもあの状況を脱する手はいくつかあった。光魔法で自身を覆うように、強力な熱を放つ発光体を発生させ相手の武器を溶かす。もしくは、強力な
ただ、これらの武器を一瞬で破壊したり相手を無力化したりするような必殺の一撃を放つには魔法だったら周囲及び体内の大量の魔法素を消費し、武術ならば体内の大量の魔法素、大量の体力を消費する。それなのにだ、目の前にいるエクスは息一つ切らさず、ハーテンが
ここまで魔法素、体力の消費を抑える為の方法はあるにはある。ただ、その技術を身に着けるには自分の貴重な命を懸けた絶体絶命の修羅場の中で、必殺の魔法や武術を何度も使い技の熟練度を徹底的に高める。そして、この実戦を何度も何度も、それこそ生活の一部のように10年、20年やって体得できる技術だ。
そんな凄い技術を、21歳のエクスが尋常一様に体得しているのが彼女の異常、規格外ともいえる強さを表していた。
「……ほんと、何者なのかしら?」
ハーテンの無意識に出たであろう言葉にエクスは反応する。
「え、え、な、何でしょう?」
「いえ、何でもないわ。ところで、お願いって何?」
ハーテンは周りの山賊の様子を見渡しながらエクスに問いかけた。山賊達は彼女達が目に映っていないかのようにまだざわついている。
「は、はい、さん、山賊の方達を、えと、む、村の中で、引き付けて置いて欲しいんです」
「殺さずに?」
「は、はい。そ、それだけは絶対にダメです」
「絶対にって……相手は犯罪者よ。略奪もすれば、殺しもする。そんな相手を殺さずに? 甘くない?」
「わ、私も彼らが普通の山賊だったら、あの、その、村を守るために、戦闘不能、最悪、こ、殺すのも、しょうがない……と思ってました」
エクスは相変わらず、細い糸を結び付けていくように弱弱しく頼りない声で言葉を紡いでいく。
「でも、彼らはただの山賊ではないんです。ふ、普通はこれだけ大人数のさ、山賊なら今頃、村の中でりゃ、略奪や破壊行為をしているはず……です。でも彼らは……」
「確かに、言われてみれば……」
ハーテンは村の様子を見渡してみるが、村の家々は無事で、山賊がいて村人が家の中で籠っている以外は、村の様子は平和そのものである。彼らは、あくまで正攻法でエクスだけを強奪していくことにこだわっているようだ。
「だ、だから、話せば分かり合えると思うんです」
「話し合う? 向こうは今は混乱しててざわついているけど、落ち着いたらまた攻めてくるわよ」
エクスは申し訳なさそうに、両手を自身の顔の近くに持ってくると手のひらをハーテンに向けて見せる。
「じゅ、10分です」
「はい?」
「じゅ、10分時間を作ってくれたら……その、私の勇器でか、彼らを話し合いの席にか、必ずつかせます」
エクスは、自分の勇器に自信が持てないのか不安げに最後の言葉を付け足す。
「……た、多分」
「た、多分って、話し合いの席ね。まぁ、あなたの勇器なら可能ね。実力でねじ伏せた方が早いと思うけど」
エクスは、捨てられた子犬の様な目で「う、うう」とハーテンに訴えかけた。
「わかった。わかった。10分でも20分でも時間くらい稼いであげるわ」
ハーテンは軽くため息をつくと「私も甘くなったわね」とつぶやいた。
「エクス! 話はまとまったか? 連中くるぞ!」
ディアの叫び声でハーテンは半身になり、こぶしを固めた両腕を軽く前に出し戦闘の構えをとる。
山賊たちにはすでにうろたえてる様子はもうなく、静かな戦意のこもった目で彼女たちを見据え、距離をゆっくりと確実に縮めて来る。
エクスは袖で隠れてる左手で、伸びてる黒服の裾を腰までたくし上げる。そのまま器用に左手で腰のベルトに付けてる革製のポーチから銀のスキットルを取り出した。
「デ、ディアちゃん、ハ、ハーテンさん、10分、お願い……します」
エクスは二人にお願いすると間髪入れずにスキットルの中身を飲みだした。小動物の心音のように喉を鳴らしながら飲んでいく。
「え? エクス10分って何? ……げ! 酒を飲むってことはあれをやるのか!?」
「あら、ディアさん、勇器を見たことあるの?」
「ええ、週に2、3回はそこらの広場で飲み会の二次会代わりにやってますね……」
ディアの何気ない告発にハーテンは、雲一つない青空を見ながら「組合法……組合法」と独り言を呟いている。
「今だ!! 全員一斉に投げろ!!」
山賊の一人が叫ぶと、エクス達を囲んでいた山賊達は手に持っていた武器を投げつけてきた。どうやら、近距離戦では分が悪いと判断したらしく遠距離からエクスたちの体力、魔法素を消耗させる魂胆らしい。
エクスは、スキットルから口を離すと革のポーチに戻し、酔いが少し回り始めたのかふらつきながら左の拳を天に威風堂々と掲げ、早口に流暢に呪文の詠唱をした。
「――
風魔法によりエクスたちの周りに強いつむじ風が轟音と共に発生し、山賊達の武器を全てはじき返した。
エクスは少し酔いが回り桜色に染まった顔に不敵な笑みを浮かべると、掲げていた左拳を開き「範囲拡大!!」と叫ぶと、風の魔法
酔いが回って気が大きくなっても、エクスは話の分かりそうな相手をあまり傷つけたくないのだろう。魔法の規模の割には山賊達は怯んだだけで誰も怪我はしていない。
「ディアちゃん、ハーテンさん。後はよろしくぅ!」
エクスに先ほどまでの戦々恐々の様子は微塵もなく、愉快活発な表情で二人に声を掛けると怯んでいる山賊達の間を器用に駆け抜け、風の様に走り去っていった。
酒によって変貌したエクスを初めて目の当たりにしたハーテンはかなりの衝撃を受けたようだ。ハーテンは口をパクパクさせながらディアに尋ねる。その、ディアはうつむいた顔を右手で覆い「あちゃー」と言っている。
「あれ、エクスさんよね……」
「……はい、エクスですね。ほろ酔い状態の」
「エクスさんの勇器の使用条件は知っていたけど、ああも変わるなんて予想外すぎるわ」
勇者だけが使うことができる特殊な力を秘めた道具、勇器。普段は装飾品だったり、衣服だったり、知らない者が一目見ても判別がつかない。しかし、勇者が戦いの際、幾つかの条件を満たせば勇器は姿形を変え勇者の強大な力となる。
それだけでも相手からはかなりの脅威だが、さらにそこから様々な条件を満たすことで体力も魔法素も消費しない強力無比、絶対無敵な技、
くれぐれも誤解しないで欲しいがエクスが酒を飲んでいたのは、勇器の使用条件の1つにほろ酔い以上の酔い状態であることがあったからだ。決して彼女はお酒に依存してるわけでもなく、中毒でもない。彼女は少々変わったお酒好き、宴会好きである。
「道を開けろ!! 勇者は後で良い!! まずは、貴様ら2人を叩きのめす!! やるぞゾド!!」
「応!! 今度は先ほどの市販の武器ではなく、魔法の力が宿った
山賊達が道を開けるとアグスとゾドが出てきた。彼らはあの後、馬車に武器を取りに行っていたのだ。
アグスは黒鉄色を基調とし茶色の装飾を施された大振りの両手斧を担いで、ゾドは燃え盛る炎のような色、剣身をした長剣を両手で構えている。その魔装具のおかげだろうか2人は先程とは違う独特の圧力、威圧感を放っていた。
2人の魔装具を見たハーテンは、眉間にしわを寄せ嫌そうな顔をする。その様子は心底めんどくさそうだ。
「魔装具ね~。これからが、奴らの本気ってことね。掌底の2、3発で気絶させて楽しようと思ったけど、腕か足1本砕かないと駄目かな。はぁ~」
物騒なことを言うハーテンにディアは若干引き気味に疑問を口にする。
「えーと、魔装具って武術に属性を付与、強化するやつですよね。魔装具持つだけで強さがそんなに変わるんですか?」
「まぁ、使い手次第ではあるけど、装備すれば強さの等級が星1つ上がるくらいの認識でいいんじゃないかしら。さっきは、斧の方が星3つの下、剣の方が星2つの上。つまり私からしたらどこにでもいるチンパンジーね。魔装具を持った今は星1つ上がって調子に乗ったチンパンジーね」
ハーテンは、凄まじくやる気のなさそうな声を調子に乗った2匹のチンパンジーに聞こえるように吐き出した。
「貴様、言わせておけば! ゾド!! お前は緑髪の方を!! 我は羽根つき帽子の方と戦う!!」
「ああ、我の魔装具、
ゾドはハーテンの前に立つと、火魔法の力を宿した魔装具炎神の指先を上段に構える。炎神の指先からはゾドの怒りを具現化するかのように猛る炎が巻きつく。
「魔法使いよ。攻撃してこなくていいのか? それとも、本気の我に恐れをなして戦意を削がれたかな?」
「おめでたい頭ね。自分達の力で作り上げ、手に入れた魔装具ならまだしも、盗んできた魔装具でしょ、それ。そんな他力本願な力じゃ本来の魔装具の力を半分も出せないわよ。実力の違いを見せてあげるから、一発攻撃してみなさいな」
ハーテンはゾドを挑発すると、とどめに「ふぁ~」と大きくあくびする。
「貴様ぁ!!」
青筋を立てたゾドが叫ぶと、炎神の指先はゾドの体力を吸収し炎を火柱へと変えていく!!
「焦げつき爆ぜろ魔法使い!! 剣術!!
ゾドは火柱を上げた炎神の指先で、ハーテン目掛け斬撃を振り下ろすがハーテンは表情を変えず体を少しずらし避ける!! しかし、炎神の指先が地面に触れた刹那、その左右にも火柱が燃え上がりゾドの周囲を円状に炎が囲む、そして、横に避けていたハーテンを燃やしたのだ!!
「ハァーハッハッ!! 馬鹿な魔法使いめ!! 予想通りに横に避けるとは!!」
ゾドの周囲は炎で周りからはよく見えないが、彼が高笑いをすると、周りの山賊達も勝利を確信し雄たけびをあげ、チンパンジーの大合唱・喜びの舞が始まった。
「あら、奇遇ね。私も横に避けると燃やされると思ってたわ」
燃やされたと思われたハーテンは、いつの間にか無傷でゾドの真横に立っていた。
「それじゃ、次は私の番ね。それ!!」
ハーテンは、ゾドの無防備な脇腹に鋭い肘打ちを突き刺す。骨が折れ、肉に食い込む嫌な音があたりに響き、ゾドは悲痛な叫び声を周囲に響き渡らせるとうずくまってしまう。
「ごふっ、我の負けだ……ところで貴様どうやって、あの攻撃をかわした?」
「あぁ、この山賊団には魔法素探知ができる奴がいないのね。いいわ教えてあげる。攻撃を当てたと思っていたのは私の光魔法、
そこまで聞くと、ゾドは痛みに耐えきれず意識を手放し倒れてしまう。
「弟よ……。安心して寝ていろ。後は、我が引き受ける」
アグスは、ゾドに慈愛に満ちた視線を送るとディアに向き直る。
「さぁ、魔法使いの前に貴様を倒す。いくぞ!! 羽根つき帽子!! 我が魔装具
「――あ、待って、靴紐が」
ディアは、ふくらはぎまで覆っている革製のロングブーツの紐を結ぶためしゃがみ込んだ。次の瞬間、アグスの巨神の右手の薙ぎ払いが大砲の発射時のような音ともに羽根つき帽子をかすめ、強烈な風圧により炎神の指先が生み出した火をかき消してしまった。
もし、ディアが靴紐を結んでなかったら、彼女の胴体は下半身に永遠の別れをしなければならなかっただろう。
「ち、運の良い奴め。」
アグスは巨神の右手を構え、戦闘態勢をとる。それに対し、ディアはというと顔を青ざめ固まっている。想像以上の一撃だったのだろう。彼女は恐怖で、声を震わせながら「ハーテンさん、私、対人戦初めてなんですけど……どうすればいいですか! 助けて!!」と残念なお報せを告げた。
「はぁ~? ディアさんさっき実戦経験があるって」
「――それは、熊とか猪の獣に対してで山賊とかの対人戦の経験はないんどすぅ!!正直言ってあの魔装具の斧、すごい怖いどすぅ!! か、帰っていいどすぅか?!」
ディアの震えた歯からは恐怖の不協和音を奏でており、言葉には不自然な訛りまで出てしまっている。誰がどう見てもひどく混乱している様子だ。
その様子を見ていたアグスは巨神の右手を振りかざすと「脳天かち割れろ!!
「拳闘術!!
虎の咆哮のような音と共にハーテンの右裏拳が白き光を纏い斧の横を捉え攻撃の軌道を大きく逸らす!!
攻撃は外れ地面に刃を突き立てるが、先程と同じく大砲のような音と一緒に地面を揺らし、人間の大人一人分ほどの大きさの地割れを大地に刻み付ける。
ハーテンは、白虎閃裏拳に使ってない方の手で人差し指と中指をアグスの顔に向け「
「ディアさん、時間が無いから手短に言うわね。まず、見てわかるようにさっきの一撃で私の利き腕がちょっと痺れちゃって、きついわ」
ハーテンの右腕は力なく垂れており、彼女は左手で右手の甲をさすりながら、右手を開いたり閉じたりし麻痺から回復させようと努めている。
そして、普段の強気で冷静な彼女からは想像も出来ないくらい衰弱した声でディアに語り掛けた。
「さらに不味いことに今までの魔法、武術で周囲、体内の蓄積魔法素、体力ともにあまり残っていないわ。もうこれ以上は限界ね」
そこまで聞くとディアはハーテンの次の言葉を予想できてしまったのだろう。
「――無理無理無理無理ぃ!! 絶対無理! 不可能! 戦闘不能どころか、死んじゃうどすぅ!!」
巨乳と首を一緒に横に振り必死に拒否している。ハーテンは左手でディアの肩を掴むと真剣な眼差しで彼女の顔を覗き込む。
「ディアさん。あなたの友人のエクスさんが私たちを信じてこの場を任せたのよ。その信頼をあなたは裏切るの?」
「そりゃあ、エクスの信頼を裏切りたくはないけども……そう、戦わなくても何か別の方法で時間を稼げれば」
戦うことを渋るディアの言葉にかぶせ気味にハーテンは口を開く。
「そうね、あの斧使いが今の状況から回復して、攻撃を2、3発回避すればちょうど10分くらいかしらね」
ディアはハーテンのその言葉を待ってましたと言わんばかりに「じゃあ」と期待で顔を輝かせるが、ハーテンに非情な現実を突きつけられる。
「――あの攻撃を2、3発回避できるの? その脚で?」
ハーテンに指摘されたディアの脚は、膝から下が生まれたての馬のように震えており、黒色のショートパンツとロングブーツの間の素肌には、傍から見ても分かるほどに汗が滲み出ている。
ディアは震えを止めようと両手で両膝を掴む。……が震えが強すぎて今度は全身が震えてしまった。
そのディアを見て山賊達は指をさして嘲笑っている。
「見ろよ! 生まれたての馬だぜ! あっはっはっはっ」
「なんだよあれ!! あそこだけ大地震が起きてるのかよ! がっはっはっ」
「おい、お前ら違うぞ!! あの空気椅子に近いポーズ。力み方。間違いない!! 奴は今、脱糞しようとしてるんだ!!」
ハーテンは無言で左手を右手の甲から離すと、山賊達の方に向けて光魔法、
足元に光の矢が突き刺さるのを見て山賊達は恐怖で口をつぐんだ。
「はい、これで魔法は打ち止め。派手な魔法や武術はしばらく使えないわね」
「そ、そんな。何とかして、戦わずに済む方法は……」
怯えきっているディアに、ハーテンは彼女の恐怖の感情を刺激しないように、慎重に言葉を選び優しく諭した。
「ディアさん戦うことは愚かな行為だし、やらずに済むならそれが一番だわ。でもね、相手が自分の大事なものを奪おうと牙を向けて、こちらの話にも応じないとき、あなたは黙って牙に命を貫かれ、大事なものを差し出すの?」
「それは、嫌ですけど……」
「だったら守らないと。命も、大事なものも。両方とも逃げてばかりで何もしなければ、気付いた時には奪われてもう遠くに行っちゃってるわよ。だから守るために、今、戦いなさい」
そこまで言われるとディアは恐怖のせいか、夏の日差しで熱射病になったのかはわからないが、彼女の脳裏に懐かしくも記憶にない人物の声が響くのであった――
「ディア、あなたには私譲りの怪力と、父さん似の優しい慈愛の精神があるわ。その力と心で今を生き、未来を守っていきなさい。そして、私達のようにならないように……」
瞬間、暗い洞窟のような石造りの部屋の中、四肢をもがれ血まみれの裸の女性が思い浮かぶ。
彼女は床に力なく倒れていてディアの顔を覗き込んでいるが、血や何かの体液で固まってしまった金色の長髪で顔が隠れており誰かは分からない。ただ、優しく子供を寝かしつけるような声色で「大丈夫、大丈夫、恐くないよ。」と子守歌のように繰り返すのであった……
「……ディアさん!! 大丈夫? 聞いてるの?」
ハーテンの声で現実に引き戻されたディアは、どこか遠くを見つめながら呟く。
「……ます。」
「え、なんて」
「この村も、エクスも私が守ります。」
そして、無意識に出たであろう「奪われるのは、もう嫌です」と小さく口を開く。
ハーテンは、数十秒前とは様子が変わったディアの表情を伺う。もうその表情には怯えの影は一切なく震えも止まっていて、ただただ、目をこすりながら立ち上がろうとしているアグスを見ている。
しかし、決意に染まったディアの目にはどこか、悲哀の色が混じっている。そんな、ディアの様子にハーテンは不安に駆られ彼女を気遣う。
「ディアさん、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。ただ」
「ただ?」
「何かを忘れてる気がするんです。大事な何かを。そして、戦いの中で思いだせそうな。そんな気が……」
ディアがそこまで言うと、獣の雄叫びのような声を上げアグスが立ち上がる。その目は、怒りと光魔法
「はぁ!! 羽根つき帽子!! まずは、弱い貴様からだ!! 次に、弱った魔法使い!! 首を洗っておけぇぇぇ!!」
アグスはそう絶叫すると、巨神の右手を頭の上に掲げディア向けて振り下ろす!!斧術、大地割断だ!!
勇器の準備に行ったエクスが戻るまで、あと2分。その託された2分と、この村を、そして、エクスを守るため、ディアは臆病な自分を殺しアグスに立ち向かうのであった……
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