妹
入学日当日。
入学式という式典が終わって昼の時間となった。
午後からいくつかのクラスに別れてこれからの予定などを伝えるとか学園生活についてを話すということらしいけど。
「結構な人数いたな」
貴族でも絶対に入れるわけではないっていわれてるから、あまりいないと思ってたけど。100人は越えてたんじゃないだろうか。
「ただ、まあ……うん」
しかし、やはり貴族の集まりだなといった感じの子ばかりだった。
お昼は自由となっている。寮の食堂もあれば学園の食堂もあるし、学園付近にも飲食店が開かれているから、その範囲なら時間内に戻ればでることを許されている。
まあ、この前の食堂と同じ状況になりかけてた子もいるけど。
家によっては自分で何かを買うということを直接のやりとりでしたことがないって感じだったな。
だから、逆に商業に関わる家とかの子たちはむしろなれてると言った感じで。
貴族といっても、思ったよりも個性というか環境の影響がみえるんだな。
昔のボクだったら大雑把に「金持ち」ぐらいの認識だったのに。
まあ、それでボクが今何をしているかと言われたら。
広い学園の敷地にある中庭で座って空を見ながらそんなことを考えていた。
なんというか。食事の回数が未だに不安定なのだ。
どうしてもこればっかりは数年レベルで体ができてるからすぐに腹が大きくなるわけでもないから無理な日は無理に食べない。
とはいえ、貴族のお嬢様方に混ざり続けるのも疲れる気がする。クラスが決まってある程度の関係ができれば自然に振る舞えるかもしれないけど。
「どうするかな~……って、そうだ」
漠然と空を見上げている時に、ふと思い出した。
今日は式典でフィオラさんが来ていたな。まだ学園の中にいるだろうか。
それなら、名前の件とか他に伝えてもらってないことはないかを聞いておきたい。
でも、学園内で運営の責任者に絡むというのも悪目立ちしてしまうか――いや、それ以上に名前で悪目立ちした時の対策ができてないほうが長い目で見るとよくない。
よし、ひとまず探してみよう。
ボクはそう思って立ち上がる。
「…………」
一応スカートに草とかついてないか心配だから払ってから学園内にある職員室に向かった。
* * *
寮も広いが学園も広い。敷地内に入学試験をやった会場もあることも考えると、小さな町レベルあるんじゃないか。
それはいいすぎかもしれないが広い。
その中で職員室まで迷わずたどり着けた自分を今は褒めたい。
さて、問題はここからどうしよう。よく考えると大人の中に呼んできて貰える人とかもいない。
かといって1生徒が「フィオラさんっていますか」と聞いたところで呼んでもらえるものなのか。
いや、考えすぎても仕方ない。自分の今後のためだしやってみよう。
そう思い、職員室をノックしようとした時、後ろから腕が掴まれた。そして妙な寒気が背中を襲う。
「ノア。どうかしたの? こんなところで?」
「フィオラさん……何故後ろから?」
「ノアの気配がしたから」
この人にとってボクは一体何なんだろう。昔から可能性を見抜いては学園に入れていたらしいし、特別ってことはないはずなのに。
「あと、私のことは名前で呼んで」
「いや、それは……」
「だって今はあなたも同じファミリーネームなんだから」
「……リチアさん」
たしかにややこしいか。
まあ、そのくらいはいいだろう。というか話が長くなっても仕方がない。
「それで何のよう?」
「今話してたことについてです」
「今って?」
「いや、ボクの名前どうなってるんですか。あなたと同じファミリーネームってかなり目立っちゃうんですけど。関係性を聞かれた時にどういえばいいんですか。偶然同じですで通じればいいですけど」
フィオラ家がそこまで大量にあるなんて聞いたこともない。少なくともこの国ならリチアさんの家が真っ先に思い浮かぶ。
「悩んだのよ」
「……何をですか?」
ものすごい真剣な顔で言われたからどう反応していいかわからなかった。多分、今のボクはすごい微妙な表情をしている気がする。
「妹か娘か親戚か」
「えっと……その、娘にしては……年齢知りませんけど。近くないですか?」
実際の年齢はしらないけど、この前にも勝手に「まだそんな年齢じゃない!」みたいなことノリツッコミしてたし。
「そうなの。でも妹ってことにしようとすると。まず私が妹がいるって公表とかを一切したことないから、それはそれで騒ぎになるかもって思って」
「まあ、そうでしょうね」
有名だからこその面倒臭さだ。それなら、普通にでっち上げるまでは言わずとも別の家で協力者をリチアさんなら探せそうな気がするけど。
「だから、ここは……今まで病弱だったけど、大人になり成長期を越えて元気になった妹ってことにしておいたから!」
「いや、ちょっとまってください。数秒前にいったことは一体」
「この理由なら隠していたことも納得させられるわ。病弱でもしも表に出るより前に亡くなってしまったらと思うと、家のために仕方のない判断だったの! って」
「まあ理由付けはさておいて、存在する時点で騒ぎになる気がするって話だったと思うんですが」
「親戚ってしてもいいけど、それはそれで。貴族同士の血の繋がりなんて有名になればなるほど周りにバレてるから。そっちのほうが隠してる理由付けを納得させるのが面倒くさいのよ」
「……えっと、それじゃあ。ボクはリチアさんの年の離れた妹で。今までは療養のためにどこかに隠れて過ごしていたってことでいいんですか?」
「そう。それでお願い」
「……わかりました」
色々と突っ込みたいし拒否とかもしたいと考えていたけど。説明された理由でリチアさんが周りを黙らせられるなら、ボクが別の理由を作ってまで手間を掛けさせるべきじゃない。
ただ、こうなると思ったよりボクの立ち振舞がリチアさんに影響を与えかねないことになってきたぞ。
「他にはなにか聞きたいことあるかしら?」
「リチアさんのほうで決めたボクの今までは本来なかった経歴とかがあれば、今じゃなくてもいいので早めに教えてもらえると。立ち振舞に差が出てしまうので」
「わかった。それは数日以内に寮に極秘で届けさせる。他には?」
「……もしもの時はリチアさんにどう連絡をすればいいかとかがあれば。もしくはどうにか自分でしろというならしますが」
「うーん。なるべくは自己解決してほしいわね。でも、もしものときは学園にある私の部屋にメモでも置いてくれれば毎日確認はさせているから私に伝わるわ」
「わかりました。ちなみに部屋って」
「この上の階にあるから。学園から持ち出したくない仕事がある場合はその部屋で仕事をしているの」
「わかりました」
「じゃあ、これから頑張ってね。あと制服似合ってるわ」
リチアさんが最後にそう言うと、職員室の中に入っていった。
本人に会えて聞くこと聞けたから職員室に入る必要はなくなった。中庭でもう少し時間をつぶすかな。
そう考えてきた道を戻ることにしたが、中庭に辿り着くまでの間に思った以上の自分の立場の重さに頭を抱えることになってしまった。
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