十八章

「ぐは……、まさか俺の超必殺技、小者伝説レジェンドオブスイミーをやぶるとはな。吾朗、たいしたやつだ……」


 約三十秒後、そこにはやけどだらけで瀕死のダーク健吾の姿があった。その制服はもはや破れ散っており、彼はパンツ一枚だ。


「ごめん、健吾……」


 お前の『切り裂き燕』スワローオブセプテンバー、僕に一つも当たらなかったよ。炎の壁で全部防御余裕だったよ。ぶっちゃけ、お前、ザコすぎるよ……。


「だ……だが! 俺がここで倒されようと、第二第三の刺客がお前たちを狙うだろう! 覚悟するんだな! フハハハハッゲホゲホッ!」


 笑いながらせき込み始める。無理すんなよ。


「で、あれ、いつになったら正気に戻るんですかね?」


 琴理人形に尋ねた。


「そうですね。問題は精神の汚染ですから、そこに強い衝撃を与えればあるいは……」

「精神攻撃ですか」


 むかつくようなことを言えばいいのかな?


「やーいやーい、健吾のバカ! カス! クズ野郎!」

「ぐぬぬ……」


 お? 利いてるのかな?


「アホ! マヌケ! 小学校三年のとき、ハルコちゃんの笛と僕の笛を間違えてなめてた大ボケ野郎!」

「ぐあああああっ!」


 あ、これはいい感じかな?


「小学校五年のときユキコちゃんの机の角に股間なすりつけてた変態! 小学校六年のときタカヤマ先生の脇汗を――」

「やめろおおおっ!」


 ダーク健吾は激しく苦しんでいるようだ。まだ話は終わってないのにうるさいな。とりあえず殴った。


 すると、


「あ、あれ? 俺はいったい……?」


 とたんにダークなオーラが抜け、元の健吾に戻ったようだった。


 なんだ、殴ればよかったのか。


「ご、吾朗。もしかして俺はお前にひどいことをしたのか?」

「いや、別に……」


 瞬殺だったからなあ。


「うう……かすかに覚えているぞ。そうだ、俺はお前を童貞だと言った。しかし、よく考えたら俺も童貞だった! すまなかった、吾朗。俺が悪かった!」

「はあ……」


 パンツ一枚で目をキラキラさせて童貞告白されても、その、困る。


「そっちも終わったみたいね」


 花澄ちゃんが戻ってきた。パンツ一枚になっているクマを片手で引きずって。クマは白目をむいているが、肌の色は元に戻っている。どうやら、こっちも、拳で浄化完了したところのようだ。


「おそらく、直に拳をぶつけることによって、吾朗さんたちのリピディアが彼らの体に注入され、それで、精神支配をやぶることができたんですわ」


 琴理人形はいかにももっともらしいことを言っている。まあ、終わってからならどうとでも言えるよな……。


「とりあえず、二人とは合流できたし、残りは一之宮先輩たちだけですね」


 と、言ったとたん、強いめまいを感じた。


 これはもしや、例の強いリピディアを使ったことによる副作用? 蒼炎の剣ブルーフランベルジェをまた使ったからか?


 そのまま、地面に膝をつき、僕は意識を失ってしまった……。





「吾朗、起きて!」


 気が付くと、花澄ちゃんが僕の体の上に馬乗りになっていた。


 そして、


「起きて! 起きてよ、大変なのよ!」


 ガッシ! ボカ! 思いっきり殴られた! ぎゃあ、いきなりなんなの、この子!


「痛いよ、花澄ちゃん!」

「あ、よかった、目を覚ましてくれて」


 花澄ちゃんはにっこり笑った。どうやら、僕を起こすためにやったことらしい……。


「何も殴らなくても……」

「だって、揺さぶっても起きないし、大変なんだもん!」


 と、花澄ちゃんは少し離れたところを指さした。なんだろう。僕が寝ている場所はさっきと同じ、荒廃した近未来の街風のところで、今はがれきの山の影にいるみたいだけど、その向こうに何かあるみたいだ。痛む頬をさすりながら起き上がって、花澄ちゃんの指さすほうを見てみた。すると、そこには一之宮姉妹の姿があった。


 だが、花澄ちゃんが大変というだけに、なんだかおかしなことになっていた。


 そこには倒れかけた鉄塔のようなものがあったが、その上にロロ先輩がいて、その下にココ先輩がいた。そして、ロロ先輩は上からココ先輩に何か呼びかけているようだが、まるでココ先輩は聞いちゃいない感じで、鉄塔をげしげし足で蹴っている。その肌の色は妙に黒く、目つきも凶悪だ。これは……ダークココ先輩だ! さらに、ダークココ先輩の近くには、パンツ一枚の健吾とクマが白目をむいて横たわっている。


「いったい何が……」

「あんたが寝てる間に、あたしたち、一之宮先輩たちを見つけたのよ。でも、ココ先輩のほうは、滅びの花に操られてるみたいで。それで、永原君と熊田君が説得しようと近づいたら、バリアで殴られて、瞬殺されたの」

「バ、バリアで殴られて、瞬殺?」


 そんな攻撃手段あったのか。


「せっかくボクが新しい制服をあげたのに、あのざまとはね」


 気が付くと、少年会長がすぐ近くでため息をついていた。


「会長、あの二人に制服、あげたんですか?」

「ああ。君が寝ている間に、ボクのライフの一部を使って新しく作って上げたのだよ。気が利くだろう?」


 ふうん。さすが五十倍の人だ。状況からしてものすごく無駄になったみたいだけど。


「それで、なんでココ先輩あんなふうになってるんですか? リピディアがザコい人しか、操られないって話だったじゃないですか?」

「なに、一之宮ココ君のリピディアは元々あまり強くないのだよ。彼女はそれを防御に特化させるという形で、もっともうまく使えているというだけなのだ」


 へえ。ポイントマックスだからって、リピディアが強いってわけじゃなかったんだな。


「しかし、そんな彼女が操られているとなると厄介だ。小暮君、見たまえ、あれを」


 と、少年会長がダークココ先輩を指さした瞬間だった。


「お姉ちゃん! しっかりしてー!」


 そう叫んで、鉄塔の上のココ先輩が、ダークココ先輩に『断罪の重圧』プレスオブパニッシャーによる攻撃を仕掛けたようだった。空間が歪み、地面がへこむのが見えた。


 だが、それは、即座にダークココ先輩の周りに張られた『絶対守護者』エル・ガーディアンの壁に防がれた。


「ロロ先輩の攻撃が、まるで通用してない……」


 そのことにもビックリだが、実の姉に向かって『断罪の重圧』プレスオブパニッシャーぶっぱなすロロ先輩にもビックリだ。バリアがなかったら即死じゃね、あれ?


「一之宮先輩たち、さっきからずっとああなの。ロロ先輩の呼びかけが、ココ先輩に届いてないみたいで」


 まあ、呼びかけながら攻撃してるからなあ。敵と認識されてもしょうがない気がする。


「彼女を正常に戻すためには、永原君と熊田君のときのように、君たちが彼女に直に接触する必要があるだろう。しかし、ああも壁を張られていては、な……」

「あれじゃ殴れないわよね」


 少年会長と花澄ちゃんはともに困惑顔だ。ってか、花澄ちゃん、ダークココ先輩も殴る気まんまんなのかよ。


「やはりここは、君の伝説の剣(仮)に頼るしかないな、小暮君」

「伝説の剣(仮)? (予定)じゃなくて?」

「これを見たまえ!」


 少年会長は近くに落ちてたそれを拾って、掲げた。それは剣ではあったが、おもちゃではなかった。木刀だった。


「これって、さっきのおもちゃの剣が進化したってことですか?」

「その通りだ。強いリピディアによって、姿が変わったのだよ。一皮むけた、とでも言おうか」

「はあ……」


 喜ぶことなのかな、これ?


「さあ、それで、一之宮ココ君のバリアをやぶるのだ、小暮君!」

「がんばってね、吾朗!」

「う、うん……」


 二人に見送られながら、僕はダークココ先輩のほうに走った。伝説の剣(仮)を握りしめて。

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