メロスは激怒した。友人について話そう。


『メロスは激怒した。』


個人的、三大日本文学最高の書き出しの一つである。


ちなみに残りの二つは『おい地獄さ行ぐんだで!』と『恥の多い生涯を送って来ました。』(正確には第一の手記書き出しであるが)の三つだ。


僕が今回話したいのはそんなことではない。

友人について書き留めておきたいと思ったのだ。



僕には親友と呼ぶべき友人が二人いる。少しばかり特殊で、そして不思議で奇妙な友人だ。


彼ら(あるいは彼女ら)とはもう10年近く連絡を取っていない。そしてこれからもおそらく再び連絡を取ることはないだろう。もし、連絡が取れたとしても、きっと昔ほどの言葉を交わすことはないだろう。

しかし、僕にとってはいつまでも友人であり特別な存在だ。戦場で命を預け合った戦友のように、お互いの深い部分を預け合った仲だ。


便宜的に彼らを卵頭と羊男と呼ぼう。

僕は、当時僕が抱えていた3つの問題のうち、1つを卵頭に、そしてもう1つを羊男に打ち明けた。最後の1つについては未だ誰にも打ち明けられずにいるが、そんなものは誰にだって1つや2つはあるだろう。


彼らは僕と同じように――いや、僕以上に深刻な問題を抱えていたと思う。

彼らは怒るかもしれないけれど、僕たちは「まとも」か「まともじゃない」かで言えば、とてもじゃないけれどまともじゃなかった。

なにも中二病やマイノリティを気取っているわけじゃない。それは人が羨むようなものでも自慢できるものでもない。とにかくそういう種類の人間だったというだけだ。


僕たちはそれぞれに問題を抱えた状況で細い糸のような道から転げ落ちないように歩くために、いろんなことをうんと上手くやらなくちゃいけないところだった。

そんな時に偶然出会い、そしてなんらかの解決の糸口を見つけるためのプロセスとしてお互いを必要としていたんだと思う。それが賢いやり方だったかは別として。



やがて僕たちは否応にも次に行かなくちゃならない時が来て、いつしか連絡を取ることをやめてしまった。しかし、だからと言って僕は彼らとの関係が失われたとは思っていない。

それは春が過ぎれば夏が来て、やがて冬が来るように自然なことで、僕たちがそれぞれの道を歩いていくためには必要なことだったのだ。それもまたひとつの関係性だと思う。


結局、僕も彼らも問題が解決出来たのかは自身でさえ分からないだろう。もしかすると一生解決することはないのかもしれない。

僕は博愛主義者ではないけれど、せめて彼らが今も生きていて、そして彼らなりに幸せになっていてくれればいいなと思う。


元気で――とは言わないが、いつかどこかの街でお互いが気付かないうちにすれ違うことが出来ればそれでいいと思っている。

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