第26話
26
「『三つ鏡(みかがみ)』を三室魔鵬(みむろまほう)から盗んだ…だって?」
田中巡査は意外な話にやや呆然となってロダンの顔を見る。彼の顔はいたって冷静でどこにも驚きは見えなかった。むしろ冷静さとは違ったどこか過去を標ぼうとするような眼差しをしていた。
「それは…どういうことなのかな。僕にはどうも、君が見つめている先が分からない。君だけが見つめている…それがね」
巡査は指差して彼の視線を追った。視線の先に映るものは何だろう、そう思った時ロダンが口を開いた。
「僕はね、田中さん。新しく出てきた資料とまだ調べつくされていなかった情報を基にもう一度全てを洗いなおしたのです。それを今から田中さんとお話していきたいです」
そう言って彼はリュックから桐箱を取り出した。
それも二つ。
それだけではなかった。あとに自分が調べたことが書いてあるのか、四つ折りに居折られた紙片の紙。
それらをピアノの音が流れる中で、その隙間を縫うように彼が何かを創り上げるかのように、語り出した。
「まず、昭和の学生の首吊り事件…死んだ学生の名は繁村竜一。彼はですね、道修町の近くの学校に通っていた青年です。そしてこのX氏の婦人、もう、名前を隠すことはいいでしょう、牧村佐代子と同級生だったのですよ。彼の死はどうでしょう。不思議じゃないですか?どうして彼女の家への通り道に吊り下がる様に死んでいたのか?どう思いますか?田中さん、あなたなら自分が自殺する時、あえてそうして死にたいと願う時、どんな動機づけがあると考えられますか?」
巡査は喉を鳴らして唾を飲みこんだ。今話したことは知らないことだ、彼がどのようにそのことを調べたのか?何か古い資料へ検索できる立場にいるから出来ることなのだろう。立場?立場といえば…任期付き図書館員とかどうのこうのと言っていたな…
「動機…」
「ええ、そうです」
もし自分が万一殉職するとなれば、それは自分の自己が主張できるようであればいいとは考える。それは国民の為、法の為、正義の為、何らかの主義を示した死に方をしたいと考える。
「僕はですね、彼の自殺はまずこの牧村佐代子への当てつけだったと考えるのです。その動機とは何か?青春の苦悩する時代を生きようと知る若者達の永遠の悩みは、もう『恋』としか言えないのではないのでしょうか」
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