第18話

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「僕はX氏については、会うまで日数があったので、少しだけネットで下調べをしておきました。彼は若い頃から将来を有望視されていたようで、東京の芸術学校を出た後は、実家のある芦屋に戻って近在の芸術家…例えば小磯良平とかと交流があったようです。現在は二科展などを中心に活躍している古参の美術家で彼自身の作品はフランスの彫刻家オーギュストロダンのように写実的表現に優れていること、また彼の作品の数点をネットでも見ましたが、いや、やはり中々素晴らしい作品ばかり…でした。しかしながらここ二十年ほど妻の認知症が進んだことがあり、現在は表舞台には出ていないということでした」

 田中巡査は頭の中でロダンの話を整理する。

 X氏は

 将来を有望視されていた彫刻家…

 現在は古参の美術家で作品は写実的表現で素晴らしい…

 あとは妻が認知症を患い、現在は表舞台から姿を消している…か。


「それでネットで調べていると一つ面白い情報が有ったのです」

「うん」

 巡査が相槌を打つ。

「昭和の戦後、若い頃一時期石川県に住み、九谷焼の勉強をしていた、というところです」

「九谷焼の勉強を?」

「ええ、何でも終戦後は彫刻の需要も少なく、その為、知古の美術商のつてを頼り、三室魔(みむろま)鵬(ほう)の窯に居たという事です」

 ロダンが髪を掻いて、巡査を見る。

「それも単身じゃない。自分の恋人と共に三室魔(みむろま)鵬(ほう)の窯にいたようなんです」

 夜の始まりを告げる空向こうに輝くのが見えた。

 星だろうか、と巡査は思ったが良く見れば環状線の高速道路を走る車のヘッドライトだった。

 巡査は先程整理した内容の最後に今の言葉を足す。


 終戦後、美術商の伝で三室魔(みむろま)鵬(ほう)の窯に居た…

 自分の恋人と共に…


 巡査はここで顔を上げた。

 その時、輝きが見えた。

 それは先程の高速道路を走る車のヘッドライトだろうか?


 いや、違う。

 巡査は首を振る。

 見上げた先にはロダンの貌が見える。

 

 そう、

 それはロダン、

 彼の目の輝きだった。

 

「では僕の立てた三室魔(みむろま)鵬(ほう)に起きた事件について仮説を話します」

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