第9話

「残業は、月にどの位ありますか?」


「納期が迫ってくると、60時間を超えます。

 仕事は嫌いではありませんが、できれば

 その日のうちに帰宅したいです。」


「ふっ」


不意に部長が笑った。


???

何?


「今日、40人以上面談してきたけど、そんなに

 はっきり不満を言った奴は初めてだな。」


「あ、すみません!

 不満というわけじゃないんです。

 残業がもう少し減るといいなぁ…という

 小さな願望なので、聞き流してください。」


私が焦って言い訳をするのを部長は楽しそうに見ていた。


「まあ、いい。

 聞いたのは俺だからな。

 他の奴は、思ってても言わない大人の知恵が

 働いたんだろう。」


「……すみません、子供で……」


私が消え入りそうな声で言うと、


「いいんだ。

 俺は聞きたかったんだから、正直に言って

 くれて助かった。これからもよろしくな。」


と部長は優しい笑みを浮かべた。


部長、こんなふうに笑うんだ。

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