14杯目 冒険者ギルドの酒場にて……

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月十九日・パラケルスス・天気:晴れ


 ふぅ~。今日も一日よく働きました。例によってまた大工の親方のお手伝いです。

 八割方終わったとか、嘘ですよアレ……まだ面倒な作業が残っていました……。

 さて、こんな日は飲んで疲れを癒やしましょう! お酒は命のお水なので!!


 が、しかし……その前に冒険者ギルドへ行かないといけません。

 昨日の件でエルフィーナ氏に借りがありますからね。


 そうしてギルドを訪れたら、併設された酒場へ。

 お酒を飲む冒険者たちを羨ましく思いながら店内を見回すと……いました。

 以前と同じカウンター席の端! 今夜も気配を殺して独りで飲んでます! えっと……もしかして指定席なんですか、そこ?


 隣の席に腰を下ろしながら訝しげに尋ねると、


「あら、シオーネ。素面で来るなんて珍しい……明日は雪かしら?」


 クスクスと楽しげに笑い木杯を傾けるエルフィーナ氏。

 むぅ……茶化さないでください。私だって時と場合は考えます。今回は色々迷惑をかけましたし、真面目にお礼を言いに来たのに……。


「殊勝な心がけね。けど、ここは酒場よ? はい、駆けつけ三杯」


 差し出された木杯を受け取ると、お酒がなみなみ注がれます……。

 う~ん……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます。あ、美味しい。私好みの辛口! エルフィーナ氏、お酒の趣味だけはいいですよねぇ~♪

 

 注ぎ足されるお酒を上機嫌で飲んでいると、目の前に差し出される一枚の紙。

 あぁ~、やっぱりまた依頼書ですか……。まぁ、正直かなり助かったのでどんな無茶ぶりでも甘んじて受けますけど……。


 木杯を傾けながら内容を確認すると……当代聖女の護衛とかA級以上の冒険者案件じゃないですか……。

 まったく、冗談きついですよぉ~? あぁ、お酒が美味しいです。


 予想外の仕事に現実逃避を試みますが、そのA級が誰かさんのせいで今いないのよ、と微笑むエルフィーナ氏。わぁ~い、目が笑ってないですよ……。

 はぁ~、しかたありませんね……引き受けましょう。うぅ、私はただの吟遊詩人なのに……。


 諦めて了承すると、また別の紙を渡されます。なんですか、今度は?

 え~っと、なになに……供述書? これ、もしかしてあの吟遊詩人の?


 怪訝そうにする私に、報酬の前金だと思ってくれたらいいわ、とお酒を飲みながら笑みを浮かべるエルフィーナ氏。

 貴女、放っておくと勝手に調べて無茶しそうだし、って失礼ですね……流石の私も保安騎士相手に下手なことはしませんよ……。


 言い返し内容を読んでいくと、ふむ……なるほど。

 街でたまたま見かけたあの子に好意を持ったと……。それで、噂から彼女の興味を引きそうな演奏を続け、あわよくば……ですか。

 まったく! 吟遊詩人の風上にも置けませんね! 迷惑極まりないです!


 まぁ、でも、ある意味普通の理由で安心しました。ごく稀にいるんですよね……魔術の生贄に使うために~、とか明らかにヤバい輩が……。

 ほっと胸を撫で下ろしお酒を注ぎ足すと、


「彼女、待ってたわよ? 会いに行かないの?」


 こちらには視線を向けずに木杯を傾け、なんとはなしに尋ねられます。

 行きませんよ……会って話すこともないですし……。

 

 面倒な性格してるわね……って、大きなお世話です。

 ささっ、飲みましょう、エルフィーナ氏! 今夜は私の奢りです!

 余計なことは気にせずにパーッと飲むのです!



 今夜のお酒

 ユウヒ ザ・リッチ(麦酒)(度数6):一杯

 トッサツル 純米酒(度数15度以上16度未満):三本と少々


 おつまみ

 砂ずりの炒め物、炒めもやし、冷や奴、麻婆ナス、白身魚のフライ、サラダ、ご飯

 

 連続飲酒日数:十五日目


 明日から面倒そうな依頼です……お酒を飲む暇ありますかね?

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