第5話 小鬼退治はお好きですか?
「ぁぁぁあ゛ー!」
およそ人の声とは思えない叫びを
野伏が後方に手を突き出す。止まれ、と判断した者たちは声を上げず、そっと武器を握りしめた。
声を出さなかったのは敵に聞こえる可能性があったから。
それほどまでに敵へ接近してしまった。
野伏は他の職業よりも索敵に向いているが、低レベルの間はどうしたって効力が薄い。不幸中の幸いはまだ敵に気付かれていないということの一点のみだ。
「GAGZGIGGJARAFAKJGGOO!」
「GIGUGEOOOFAZEZZ!」
魔物の言葉を理解出来る者などいない。
態勢を低く保ち、茂みの隙間からそっと声のする方を覗いた。
そこは洞窟だった。悲鳴は魔物の巣穴から響いたのだ。
門番をしている二匹の
「ここからどちらか一匹を射抜けるか?」
「矢なんて前の世界じゃ触ったことも無いですよ」
魔法使いの問いに野伏は弦を引っ張りながら応対した。
以前の世界で弓道に触れたことなど無い。
至近距離とはいえ、射抜けるかと問われ「はい、任せてください」とは言えなかった。
「俺だって前の世界で魔法など使ったことは無い」
「分かってます。ただ、保障は出来ませんから」
「よし、ならもう一匹を魔法で――」
「魔法は取っておいた方が得策っすよ」
斥候の男が口を挟む。
指先でナイフを回し、視線は小鬼から離さない。
「ボクが一匹仕留めますから、魔法は必要ないっす」
「出来るのか?」
「坊主さんよりは確実に」
言い放った言葉が誇張されているとは思えない。
手のひらで踊るナイフが血を求めているかのように刀身を光らせている。
「分かった。では二人とも、頼んだぞ」
見張りの二匹は洞窟の方を見ている。
大きく息を吸い、吐く。
外せば仲間を呼ばれ、洞窟入口で即戦闘開始。
もう一度大きく息を吸い、吐く。
狙うのは後頭部の首元。
一撃で仕留められないとしても、せめて声を出す前にもう一発撃てれば。
ぎぃぃと弦を引き、片目を瞑って狙いをすましたその時、光沢を帯びた何かが視界の端を高速で移動した。
それは艶やかなナイフだった。
「GIGOGGOLG?」
斥候の男がナイフを投げたのだ。それも、自分が狙っていた敵目掛けて。
小さく断末魔を上げ、一匹が前のめりに倒れた。隣にいた小鬼は仲間が眠りこけたのかと槍で突くが、全く起きる気配は無い。首筋には何故かナイフが刺さっている。流石に愚かな小鬼だって敵襲だと気付いた。
「ちっ!」
小さく舌打ちをし、振り向いたゴブリン目掛けて矢を放つ。
「GUGOO!?」
右肩を貫かれ、濁った悲鳴を上げる。
敵は茂みの中。
数は六人。昨日森で仕留め損ねた者たちだ。
魔物は巣穴にいる仲間たちに敵の存在を知らせるため、大きく息を吸った。
「おつかれさまっす」
自分に向けられたであろう若い男の声。
ゴブリンは聞きなれないその声を最後に息絶えた。
「敵の影はどうっすか?」
「……別に見当たらないですよ」
角眼鏡を掛け、後ろ髪を一本に纏めた男。
斥候としての能力は言わずもがな、戦闘力も他の者と桁違い。
死にゲーは良くも悪くも経験と運と
初見殺しを除けば、たとえ敵とのレベル差が乖離していても殺せてしまうのだ。
「ひとまずはクリアっすね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます