第4話 第二の予言

 また更に翌日の夜。


 俺はいつも通り風呂に入って、リビングでテレビを見ながら水分補給を兼ねて涼んでいた。

 最近日中は暑く、湿度も高くなってきているので、夏到来の予感をかすかに感じていた。

 

 夏は別に嫌いなじゃない。すごく単純な理由。夏休みがあるから。

 ……別に語るほどのことでもないわこれ。


 そんなことを思いながら二階に上がって、真っ先に俺の部屋に入ったところで、既視感のあるものが机の上にポツンと置かれているのが目に入った。


「……やっぱマジなのかよこれ……」


 俺はただの高校生。ときたま自分がひょんなことから異世界転生して俺TUEEEEE! してぇなぁと思う。

 そのため、この非現実的な展開に多少胸が躍っているところがあるものの、なんとも地味なものである。


 ノートのビジュアルが普通過ぎるのが盲点なんだよな。


「さてさて、今回はどんなことが書かれてるんだろうか」


 多少は戸惑っている。奇妙なノートの出現に対して。

 しかしながら人とは不思議なもので、異質であろうが自分にとっていいものであると「信じたい」と思ってしまうのだ。


 だから俺は嬉しさ好奇心八割。わけわかんねぇ二割という心の内訳でノートをぺらりとめくった。



『明日、幼馴染に抱き着かれる』



「うはっ……マジかよめっちゃ変な声出た」


 この予言に多少なりともテンションが上がったのは事実で、このノートが本物なら明日俺は七奈に抱き着かれるのだろう。


 ……マジですか?

 そりゃ好きな人に抱き着かれればめちゃくちゃ嬉しいし、抱き着かれると予言されただけでこのテンションの上がりよう。

 自覚はしているが、俺相当キモいな。


「……これは信用していいのか?」


 実際未だに一度しか予言されていないが、それは見事に当たり、なぜか七奈は俺のベッドで寝ていた。

 理由を聞いたら、「慶の部屋にふらっと入ったら眠たくなったのよ」と言われた。


 普通そんなことある? 

 でも七奈は三咲と仲がいいし俺の家は七奈にオープンなのでしれっと七奈が俺の家にいることはよくある。

 だから俺からしたら別にそこまでおかしすぎるというわけではないのだが……常識的に考えて俺のベッドで寝ようとするなよ、と思う。


 どんだけ俺が聖人だと思ってるんだか。

 もしかして異性として認識されていないとか? だとしたらショックだが……よし考えないようにしよう。目を背けることも時には大切だ。


 話を戻して、今回の予言だが、このノートの傾向からして……というか一回しか起こっていないので傾向もくそもないのだが、現実になる可能性は高いだろう。


 ——この第二の予言で、このノートの真価を見定めてやる……。


「よし。とりあえず部屋を掃除しよう」


 どこで、ってことはわからないし、そもそも現実になるかもわからないが。ここは前もっての準備が大切で……しっかりしておこう。

 俺は遠足とか修学旅行の準備は三日前からきちっとするタイプだ。


「あと……一応もう一回風呂入っとくか? いや、さすがに今入っても意味ないし、ってかもう入ったから変わんないしなぁ」


 ぶつぶつ独り言をつぶやきながら、ほとんど片付いている部屋を細かく掃除していく。

 

 正直このノートにまだ信ぴょう性があるわけじゃない。

 ましてやこんなことを誰がどんな意図でやっているのかもわからない。

 もしかしたらラノベのように、本当に非現実的な展開が起こっているのかもしれない。


 今考えられる可能性は無限に近い。

 

 それをこれから情報を集め、一つの答えに絞っていこう。

 

 そう決意しながらも、信じたい欲がある俺は明日起こるかもしれないことに妄想を広げ、自分を一発殴って正気に戻させ、そのまま眠りに落ちた。

 

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