・生体である~人竜機ステゴロン~

 私達小竜人ホモ・コエロの文明は、知恵を得てから常に、力を目指していた。


 私達は弱い。僅か身長2mにも満たない。知力を得る代償の如く進化の果て、祖先にあった鱗も尾も失った。爪も牙も弱く、服以外に肌を覆うのは鱗が変化した髪のみ、卵胎生を得た先の進化として単弓類や哺乳類に寧ろ近づいてしまった。哺乳類の中でも樹上生活を極めた猿とかいう種族が木の下に降り知恵を進化させていたらあるいはこうなっていたかもしれない姿だ。魚竜が魚に似たように。


 そんな我等は狩猟道具作成を極めんとした。その為に、土器の作成技術は後回しにされた。その恩恵が得られる時を幾らか後回しにしてでも力が欲しかった。


 金属という可能性に飛び付いた。その為に耕作地に鉱毒汚染が発生しても、耕作地の放棄の方向を選択した。


 何故ならば、私達の星には注釈・地球とは言っていない


 振り仰げばそこに力がいたからだ。大いなる力。巨憂竜キョウリュウ、我等を常に劣等感で支配する、巨大なる憂いを生む竜が。


 学者達は本質的に私達は同じ種族だと調査の結果判明させたが、心はどう思っても納得できなかった。


 彼らと我らは違う。彼らは悩まず苦しまずして強い。歩くだけで、吼える振動や分泌する毒の滴りだけで我々を殺す。彼ら同士が争い合う中で我等を粗末な蘇鉄の家ごと踏み潰し、彼らの子供は駄菓子として我等を一方的に摘み貪る。


 卵を盗むくらいしか我等には出来ず、万が一ばれれば村一つ、群れる種族を怒らせれば国一つがそれを覆う木々ごと踏み潰された。


 そして、私達の住む世界は余りにも過酷だった。殊にその濃密過ぎる大気は、飛翔し空を征し我等を地に抑留するもう一種の巨大生物・翼留竜ヨクリュウにとっては適していたが、文明にとっては毒だった。


 火薬という概念は結局あまりにも高い空気中の湿度と酸素濃度他故に不発頻度と暴発時の惨劇の両方の理由から断念せざるを得なかった。


 苦労して作った金属も湿度と酸素量の影響等でたちまち錆びていく。少量しか維持できない。そもそも酸素濃度の高さは、狩猟危惧の発展を優先した結果ゆっくりと進んだ土器文明を維持する為の分の火の使用にもリスクを伴う程だった。


 最終的に我々が辿り着いたのは生物学だった。それしか縋れるものが無かった。我等の卵を実験台に、我等の子を実験台に、我等自身の脳を実験台に、頭蓋を割り卵を割り、疫病で膿んだ傷跡を弄り、生物の概念を一つ一つ解き明かしていった。


 ばれぬよう幾度もの失敗と滅亡を重ねた上で盗んだ卵を何とか孵し、品種改良と脳改造で辛うじて無害化した草食性の巨憂竜キョウリュウを言う事を聞くよう育て上げ、それをも我等でも制御できる無力な種を選んだが故に肉食性の巨憂竜キョウリュウに容易く奪われる果ての無い試行錯誤の末に。


 倫理も捨て絆も捨て尊厳も捨て命も捨て、我等自身頭蓋骨を変形させ自分達の種族にも種族一体となっての品種改良を施しながら、遂に辿りついた。


 剣竜種ステゴサウルスの腰部神経に存在するグリコーゲン体を納める空間を活用しての神経操作端末設置改造手術。


 我々よりも遥かに大きな肉体を持ちながら我々の祖先にも劣るサイズの脳しかもたぬ、それでいて我等が渇望してやまぬ巨体と武器を持つこの巨憂竜キョウリュウを、我等は遂に制御し屈服させた。


 改造を加える。肥大させた頭脳の為に直立二足歩行をするようになっていた我々が神経を繋いで操縦できるように二足歩行にする。尾を引きずって歩くようになったが些細な事だ。前足を切り裂き、指を独立して動くようにする。様々な巨憂竜キョウリュウの死体の骨の尖った部分をかき集め、石器と維持できた僅か金属で防具としいて纏わせる。


 遂に完成した。人竜騎ステゴロン。


 剣竜種ステゴサウルスを元に作り上げた、我等小竜人ホモ・コエロ巨憂竜キョウリュウ肉弾戦ステゴロで仕留める為の力。


 ステゴロンが、骨と石と僅かな金属で覆われた太い体を立ち上がらせる。尾を引きずり二足歩行し、しかし確かに歪だが人型。私は拳を握る事も引っ掻く事も武器を握る事も可能な腕を振り上げ、敬礼を交わさせた。


 そう、私が研究者として携わり、乗り手として歩みだす我等種族の夢が遂に始まる。さあ、いよいよ、我等小竜人ホモ・コエロがこの世界の霊長となるのだ。


 人型恐竜兵器の戦いが始まるのだ。進撃、開始!

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