第2話⑥ 児童虐待は人生に大きな影を落とす
「あの時、私負けたなって思ったのよ。この人、本当に人間ができているんだって」
「いや、それほどでも」
「あの頃、私は馬鹿だった」
「えっ! 」
「一緒に生活して分かったわ。あなたは人間ができているのじゃなくて、ただ気が長いだけの鈍い男にすぎなかったって」
「そんなことはないよ」
「できた人間が後先考えずに、どうして同棲なんて簡単にオーケーするのよ」
「あっ! 」
「一緒に暮らしてほしいって行ったら、躊躇することなく、次の日に家財道具一式担いで、ニコニコしながら飛んできたじゃない」
「あはは…」
「父親にあなたのこと話したの」
「え! どうしよう。ああ! 君のお父さんに怒られる!」
「心配いらないわ。同棲している男が『大学時代は仏教研究会の学生だった』て言ったら、『災い転じて福となる。やっと娘がキリスト教から仏教に戻ってくれそうだ』て涙を流して喜んでいたわ」
「ほんと? いいお父さんじゃないか」
「このぶんじゃ、あなたが卒業して、葬儀屋でバイトしてるって言ったら『それはうちにも都合がいい。絶対に結婚しろ』と言うのじゃないかしら」
「宏美、幸せにするよ」
恭平は宏美に近づいて肩を抱こうとするが、
「ちょっと、触らないでよ」
と、宏美は、また逃げて恭平に背を向けた。
「えっ、結婚しないのかい」
「当たり前でしょう。私はあなたと結婚する気はないもの」
「どうして? 僕と結婚することが嫌なのかい? 」
「あなたはとてもいい人だと思うけど、でも私は、まだまだ今の仕事を続けたいの。やっぱし結婚っていうと束縛されるでしょう。私、嫌いなの、そういうのって。だから…」
恭平に背を見せながら話す宏美に恭平は言った。
「宏美、前々から言おうと思っていたんだけど、こういう真剣な話をしている時ぐらい、僕の方を見てほしいな」
「そう…」
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