第031話 〈怪蟲飛蜘蛛〉の討伐 6
飛蜘蛛の足に貫かれた状態では、《超速再生》を利用してもすぐにまた傷を負ってしまう……。
なんとか、先に足を抜かないと……。
飛蜘蛛は俺の体を足で貫いたまま、残りの足で歩き出し、そのままノソノソとリシュアのいる方へ歩き始めた。
こいつ、このままリシュアを襲う気なのか!?
それはだめだ……。
ここで、俺がなんとかしないと……。
けど、敵の足を抜いて、《超速再生》を使ったあとはどうする?
《火事場の馬鹿力》の効果を使っても、今のこいつには傷一つつけられない……。
くそ……意識が……。
俺に……俺に……もっと……力があれば……。
…………力?
メーティス……。
《火事場の馬鹿力》の効果はまだ続いているな?
『はい』
両腕に力を込め、飛蜘蛛の足を掴もうとするが、思うように力が入らない。
くそっ! 血を流しすぎた!
《超速再生》、発動!
体中に新たな血液が通う感覚があり、同時にみるみる復活し始めた意識が、体を貫いている足の痛みを鮮明に訴えかけた。
意図せず、叫び声が口から飛び出していく。
「ぐっ!? があぁぁぁぁ!?」
《超速再生》で意識がはっきりした分、痛みが倍増しだ!
け、けど、これで、手は動かせる!
両腕で、体に刺さっている飛蜘蛛の足を掴み、それを勢い任せに全て引っこ抜いた。
持ち上げられていた体がボトンと下に落とされる。
そのまま即座に両手を敵の体に回し、全力を振り絞って、敵を地面からぐいっと持ち上げた。
そして、
「だりゃあああああ!」
そのまま飛蜘蛛を真上へ投げ飛ばした。
空中に放り投げられた飛蜘蛛は、カサカサと足を動かしながらこちらを見下ろしている。
きっと、奴はここへ落下してきた瞬間、俺にトドメをさすつもりだろう。
そうはさせるか!
背負っていたリュックを腹に抱えなおし、そのまま仰向けになって、大声で叫んだ。
「ロロォォォォォ! 今だぁぁぁぁぁぁ!」
腹に抱えなおしたリュックから、ロロがひょっこりと顔を覗かせる。
そして、何のためらいもなく、口からあのスキルを放った。
《消滅弾》。
黒々とした光線が空高く伸びていき、宙に投げ出された飛蜘蛛の体を包み込んだ。
船の汽笛のような轟音で周囲の音はかき消され、その衝撃で、ロロを抱えている俺の体ごと、ボコンッ、と周囲の地面が円形に陥没する。
ロロの軽い体重では、《消滅弾》を撃った衝撃に耐えられない。
だが! こうして、《火事場の馬鹿力》で筋力を強化した俺がロロを固定し、地面を背にすれば別だ!
体勢が安定し! 《消滅弾》は、最高出力で放たれる!
ボン、と体の中から音がして、口から血が溢れてきた。
『肺と心臓が破裂しました。あと数秒で、意識を失います』
まだだ……。
まだ……。
《火事場の馬鹿力》でロロを固定できる今しか、この技は使えない……。
《火事場の馬鹿力》のインターバルは一週間……。
このチャンスを逃せば……俺たちは負ける……。
「ロロォォォォォ! 全力だぁぁぁぁぁぁ!」
ロロの口から放たれる《消滅弾》が、ボッ、と太くなり、渦巻きながら宙にいる飛蜘蛛を飲み込んだ。
空に浮かぶ雲が、《消滅弾》の黒い光のせいでぽっかりと穴を開け、さらには周りの雲を巻き込むように、天へとのびていく。
やがて、《消滅弾》の光は収束した。
ボトン、と横に黒ずみになった飛蜘蛛の死体が真横に落っこちてきた。
もう飛蜘蛛は、ピクリとも動かない。
あぁ、よかった……。
倒したのか……。
これで……これで……もう……。
腹の上に乗っかったロロが、こちらを振り返り、満面の笑みを浮かべている。
「ねぇ、見てた!? 幸太郎! ロロ頑張ったよ! 褒めて!」
あぁ、すごいなぁ、ロロ……。
頑張ったなぁ……。
…………。
…………。
「ねぇ、幸太郎? どうしたの? 寝てるの?」
…………。
…………。
「幸太郎? おーい。起きてー。朝だよー」
…………。
…………。
「…………幸太郎?」
…………。
…………。
『幸太郎様の生命活動の停止を確認。こちらで自動的に《超速再生》を発動します』
…………。
……………………ん?
あれ? 俺、何してたんだっけ……?
「ロ……ロ? それに、リシュアも……。二人とも、どうして泣いてるんだ?」
だらだらと鼻水を流しているロロが、俺の胸の中で目を丸くしてこちらを見つめている。
「こ、幸太郎……? 生きてる……?」
「え? あ、あぁ。生きてるよ。なんとか」
思い出した……。飛蜘蛛を討伐して、それで気が抜けて……。
メーティス、もしかして俺、今死んでた?
『はい。なので、こちらで《超速再生》を発動させました』
おぉ……。い、いつもありがとうございます……。
ロロは泣きじゃくりながら、俺の胸に顔をこすりつけている。
「あぁぁぁ! よがっだぁぁぁぁ! 幸太郎ぉぉぉぉ!」
「おぉ、よしよし……」
となりで膝をつき、俺を見下ろしていたリシュアは、がばっと俺の首に手を回して抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと、リシュア! 苦しいって!」
「……こ、幸太郎さんの……心臓の音が……聞こえなくて……てっきり、もう……だめなのかと思って……」
「リシュア……」
「……でも、よかった。本当に、よかった……」
「ありがとう。心配してくれて」
頭の中で、メーティスの声が響く。
『〈
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