第023話 エデン調査クエスト開幕 2

 外壁の建造を手伝った場所からしばらく歩くと、今度はその外壁に大きな門が設置された場所にたどり着いた。


 その門の前には、見るからに荒くれ者だとわかる数名の冒険者たちが集まっている。


 一、二、三……集まったのは、俺たちを除いて十人だけか。


 冒険者集団の中の一人、片手に斧を持った筋肉質な男が、俺の姿を見て怒りを露にした。


「てめぇ! Fランクが何しにここへ来やがった!」


 こいつはたしか、冒険者ギルドで絡んできた奴だな。


「俺はここにいるチグサとパーティーを組んで、正式にエデンの調査クエストを受注したんだ。お前に文句を言われる筋合いはない」


 筋肉質な男は苛立ったように目を見開くと、


「パーティだとぉ? くくく。せいぜいそこらの雑魚モンスターに殺されないよう、陰でコソコソ逃げ回ってるこったな」


 筋肉質な男の背後から、また別の男の声が聞こえてきた。


「おい、ガマ。始まるみてぇだぞ」


 どうやら筋肉質な男はガマという名前らしく、声をかけた方はこの前一緒にいたうちの一人だった。


 三人でパーティーを組んでるのか。


 よく見れば他の冒険者も二、三人で固まってるな。


 パーティーでの戦闘がこの世界では当たり前なのか、それとも、パーティーを組まないといけないほど冒険者のレベルが低いのか。


 ……あるいは、手練れの冒険者でも、一人でエデンに立ち入ることは無謀だと考えたのか。


 集まった冒険者たちの目の前、エデンへ続く門を背中に構え、青い制服を着た女性が立ちはだかった。


 この前の受付の人とは別人みたいだけど、同じ服を着てるし、多分冒険者ギルドの人だろう。


 女性は鋭い目つきで俺たち冒険者を一瞥すると、


「皆様、初めまして。私は冒険者ギルド職員、マギア・ルーと申します。さて、これより、皆様にはエデンの調査を行っていただきます。代表者がBランク以上のパーティーは、毒の発生場所と推測される、エデンの中心部である湖を目指し、そこで何が起こっているのかを調査して来てください。代表者がCランクのパーティーは、湖には近づかないよう、エデン内で凶暴化したモンスターの調査にあたってください。いずれも直接の戦闘行為は避け、調査に重きを置くようにお願いいたします。皆様どうか、ご自分の命を最優先に――」


 マギアさんがそう言いかけたところで、ガマが茶化すように言った。


「おい! その毒の発生源がモンスターだった場合、そいつを倒せばそれなりに報酬が加算されるんだろうな!」


 マギアさんは小さなため息をつくと、半ば諦めたように言った。


「……無論。その場合は別に、それなりの討伐報酬が支払われます。ですが、ガマ様の冒険者ランクはC。不用意にエデンの湖に近づくことは推奨できかねます」


「くくく! あぁ、わかってるとも。けどなぁ、ついうっかり、道に迷ってエデンの湖に出て、これまたうっかりモンスターを討伐しちまう、なんてこともあるかもしれねぇだろ」


「……はぁ。そうですね」


 マギアさんはそれ以上反論する気もないのか、「開門をお願いします」と、門のところにいた作業員に指示を出した。


 門の両端に立っていた二人の作業員が、大きなレバーを回転させると、ギリギリと内部からロープが軋む音を伴いながら、ゆっくりと門が口を開けていった。


 門が全開になると、ガコン、と固定された音が響き、奥に伸びる枯れ木だらけの山道が姿を現した。


「皆様が中へ入られましたら、この門は直ちに閉じられます。この門を通じて町へ戻りたい場合は、こちらで周囲の安全を確認したのち、再び開門いたしますのでご安心を」


 つまり、モンスターに追いかけられながらここへたどり着いたとしても、門は開けないってことか……。


 ま、それは当然か。


 ガマのパーティー一行は、ニタニタと笑いながら一番に足を踏み出した。


「よし! 行くぞお前ら! 追加報酬は俺らのもんだ!」


「おう!」


「へへへ。俺たち三人なら楽勝だぜ」


 あいつら、完全にこのクエストを舐めてやがる……。


 その後も続々と他の冒険者たちがエデンの中へ消えていくと、となりにいたチグサも歩き始めた。


「では、私たちも行くとするか」


「あぁ」


 恐る恐るエデンに足を踏み入れた直後、「ご武運を」というマギアさんが残した言葉を最後に、ガコン、と勢いよく門が閉じられた。


 とうとう俺の初クエストか。


 あぁ、なんか緊張して来たな。


「――――――たす――て――――!」


 …………ん?


 今、何か……。


「どうした幸太郎殿? やはり初めてのクエストは不安か?」


「いや、そうじゃなくて……。今、何か聞こえなかったか?」


「何か? 何かとはなんだ?」


「いや、わからないけど。男の叫び声、みたいな……」


 その直後、森の奥から一人の男の声が、今度ははっきりと耳に届いた。


「だ、誰かぁ! 助けてくれぇ!」


 見ると、視界の先、幾重に生えた枯れ木の奥から、右腕を根元から失った男がこちらに向かって走ってきていた。


 そしてその男のすぐ後ろには、角の生えた狼の群れが迫っている。


 チグサは即座に、腰の後ろに差していた小刀を構えると、


「来たぞ、幸太郎殿。戦闘開始だ」


「え、えぇー……」


まだ全然心の準備ができてないんですけど……。



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