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話は尽きることなく、そのまま左近が今後就寝用に使う部屋に向かうことになった。もちろん、学び舎にいた頃同様、隼人と同じ部屋である。
伊織は最初、見回りを再開させようとしていたが、ふと考えなおし、二人についてきた。
師が使う区画に並ぶ部屋の戸のいくつかは開け放たれ、個人に与えられている最低限の机や座布団、
少し立ち止まりそうになる左近を、先を歩く隼人と伊織が察して、両側から腕をひき、足を進めさせる。左近は
部屋に着くと、左近は空いている押入れに荷物を入れていく。十六になって里の外に出るようになってからは、ここだけでなく、館に戻ることも少なかった。現地調達現地消費を繰り返したおかげで、左近が持ち込んだ荷物は存外少ない。彼の場合、仕掛けを作るために使うものがほとんどだ。押入れはほとんどが使われず、そのまま戸は閉められた。
そのまま三人で車座になって話していると、廊下から足音が聞こえてくる。開けたままにしてある部屋の入り口に目を向けると、これまた懐かしい顔ぶれが並んでこちらを
「よっ。さっきまで、庭で戻って早々に組頭からの説教くらってただろ? 相変わらずだな、お前も」
「源太。兵庫も。久しぶり」
「ん。元気そうでなにより」
ほとんど自分から声を発することがないほど無口である兵庫も、かれこれ数年ぶりとなる同じ代、同じ組全員での顔合わせに口元が
入り口に近い所に座っていた伊織と隼人が場所をあけると、二人はそこに腰を下ろした。先程までどこかの補修作業に
「見回りは?」
「抜けてきた」
「これで元梅組は全員集合か」
「だな」
源太が歯並びの良い白い歯を見せて、にかりと笑う。雛の時分は実年齢よりも
「……他の組のことは?」
伊織の感情を押し殺したような声に、皆の顔が途端に曇りだす。その表情で、すでに皆の耳にも
同じ代の松、竹組は六人ずつ。そして、それぞれ四人と二人、既にこの世にない。そして、そのうち松組の一人は雛であるうちに任務に出て、その途中で行方不明に。のちに死亡したものと判断されていた。
「そういえば、
「松組の二人はもう実技の師として動いている。竹組の四人は
「ふーん」
左近達の代はとりわけ結束が固く、二人で話していればぞろぞろと集まってくる。左近達の代に年が近い先輩達などは、からかい混じりに、一匹いればなんとやらの黒光りする例の害虫のようだと
しかし、仕事中なのであれば集まれないのも仕方ない。それでも全員が呼び戻されたということは皆、この学び舎で過ごすということだ。じきに同じ光景を後輩達も目にすることになるだろう。
「そういや、聞いたぞ? お前、以之梅を受け持つんだって?」
「うん。懐かしいよねー」
源太は片腕をついて上半身を起こした。
「ま、俺はお前にだけは習いたくないけどな」
「あー。寝食まで一緒だった俺が言うのもなんだけど、俺も嫌だ」
「えっ? どうしてさ?」
「俺も」
「伊織まで。……兵庫も?」
一人傍観していた兵庫も、間髪入れずに頷いた。
「なんでそんな不満そうにしてんだ。
「えー」
口では不満そうにするものの、左近もそれ以上文句は言わない。わざとらしく肩をすくめる左近の頭に、伊織の拳が落ちる。
しばらくすると、また二人、新たに顔を覗かせてきた。
「あっ、やっぱりいたいたー。なんの話してるのー?」
「与一、慎太郎。戻ってたのか」
座る位置をあけるために円を広げ、空いた所に二人を座らせた。
「報告は?」
同じ代を束ねる総大将として、伊織が二人に尋ねた。
「ついさっき、翁への報告を済ませてきたところー」
「彦四郎と吾妻は少し先の方まで行ってるから、戻るまでまだかかるぞ」
残りの竹組の二人の姿を探して入り口から身を乗り出す隼人に、慎太郎が手拭いを取り出して首の後ろの汗をぬぐいながら答えた。
それならば、と、今までそれぞれが任務で訪れていた地の情報を、話せる範囲で情報共有しながら、全員が
補修作業を抜けてきた源太と兵庫、それから確認作業をしていた伊織が、とりあえず仕事を終えてくると一旦席を立ったが、すぐに戻ってきた。
そうして、結局全員が揃ったのは、陽が沈む間際の
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