サンミニアート・アルモンテ聖国②
ラファエルを自称する熾天使の矯正を始める事、十五分。
『昇天』により生まれ変わった熾天使が目を覚ます。
「あ、ああっ……私は……私は一体……」
目覚めたばかりの熾天使の視点は定まらず、眼球をグルグルと蠢かせる。
「わ、私は……」
「ああ、ああっ……目覚めたのですね。目覚めたのですね! 素晴らしい。素晴らしい! あなたは薄汚いデーモンから昇天し、ロプト神様の使いたる熾天使に生まれ変わりました。歓喜しましょう。狂喜しましょう! あなたの新たなる生はここから始まるのです」
「え、ああっ……ええっ?」
私は混乱する熾天使の頬に両手を当て顔を近付ける。
その瞬間、熾天使は全身から滝の様な汗を流した。
「薄汚いデーモンから昇天し、記憶が混濁しているのでしょう。お可哀想に……しかし、それとこれとは話が別です。あなたに新たなる生を授けたのはロプト神様の御心によるもの……以後は、ロプト神様に身命を賭して尽くしなさい。わかりましたね?」
「は、はい。わかりました……」
「理解が速くて助かります。さて、それでは、十一階層に向かいましょう」
私のユニークスキル『神聖魔法』を使えば、ボスモンスターですら『昇天』できる事がわかった。これは『聖域迷宮』に出現するアンデッドモンスター全てを完全に支配できる事を示唆している。
「ああ、ああっ……先人達は、私にとってとても良い迷宮を残して逝ってくれたものです。感謝しなくてはなりませんね……」
倒さなければならないと思い込んでいたアンデッドモンスター。
しかし『神聖魔法』があれば、その思い込みは逆転する。
出てくるアンデッドモンスター全てに『神聖魔法』の『昇天』を使う事で、アンデッドモンスター全てを反転し、ロプト神様率いる天の軍勢の一部にする事ができれば、その力は計り知れない。
「ああ、ああっ……流石はロプト神様。この事を予期して、この私をサンミニアート・アルモンテ聖国の教皇に据えたのですね……」
金と権力に溺れていた使えぬ愚図の前教皇や枢機卿では、この迷宮を使いこなす事は到底できない。
私は熾天使と共に十一階層へ向かうと、目に付く範囲にいるアンデッドモンスター全てを『昇天』させていく。
アンデッドモンスターの中には『昇天』の魔法を使う事で、本当に天に召されてしまうケースも見られたが、概ね順調。
二十階層に到着するまでの間に、天の軍勢といっていい程の天使を味方に付ける事ができた。
とはいえ、これだけの天使を連れて迷宮を攻略を進めるのは流石に邪魔になってきた。
私は迷宮の外で待つ様、熾天使に命令すると二十階層にあるボス部屋の扉を開き、中へと進んでいく。
「さて、次はどのようなボスモンスターが現れるのでしょうか? できれば、神に匹敵するほど強いモンスターが出て来てくれると嬉しいのですが……」
ボス部屋の中心部に辿り着くと、部屋の至る所に描かれた魔方陣が黒く光り、魔方陣の中心点に黒い点が渦巻き、その中心から翼の生えた赤い蛇が出てきた。
「あら、あらあらあらあら……これは期待外れですね。ただの蛇ですか……これでは、『昇天』させた所で戦力にもなりません」
黒い渦から身体を出している最中の翼の生えた赤い蛇に向かって直進すると、私は迷わずその身体を杭で縫い付けた。
赤い蛇は、突然の事に目を丸くし、叫び声を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「まるで、人間の様な叫び声ですね……でも、でも、でも、でも、でも、でも!」
そう叫びながら、首、翼、腕、尻尾も同様に杭で縫い付けると、冷めた視線を赤い蛇に送る。
「あなたはただのモンスター。人間と同様の言葉を話しているのを聞いているだけで不快です。死になさい」
そう言うと、私は赤い蛇の頭に杭を打ち込んだ。
赤い蛇の頭に杭を打ち込むと、蛇の身体がビクンと跳ねる。
「ああ、ああっ……思わず殺してしまいました。だって、だって、だって、だって、だって! あんなに期待させておいて出てきたモンスターが、ただの蛇だったんですもの……これは仕方のない事。仕方のない事なのです……しかし、よく考えて見たら、こんな蛇でも二十階層のボスモンスター。取り合えず、『昇天』の魔法を掛けて見ましょうか……」
もっとも、もう遅いかもしれないが……。
ダメ元で翼の生えた赤い蛇に、『昇天』の魔法を掛けると、赤い蛇が白い羽の天使へと変わっていく。
相変わらず、杭は刺さったままだが、これはやってしまったかもしれない。
「がっ、ぐふっ!」
「あら、あらあらあらあら? まだ生きているのですか? 流石は蛇。中々、しぶといですね。まあ、良いでしょう『
私は天使から杭を引き抜くと『完全治癒』で天使の身体を治していく。
そして、横たわる天使の首元に杭の先端を突き付け、話しかける。
「さて、あなたは私の『完全治癒』により救われました。その姿、あなた天使なのでしょう? この私にあなたの名前を教えて下さいませんか?」
「わ、私の名前はサマエル。死を司る天使サマエルだ。こ、殺さないでくれ……いや、殺さないで下さい」
「死を司る天使サマエルですか……それは素晴らしい」
そう呟くと、私は歓喜した。
死を司る天使サマエル。それは『神の毒』『神の悪意』の異名を持つ熾天使の名前。
私は倒れ怯えるサマエルに手を伸ばすと、ロプト神様への忠誠を誓わせた後、私の配下に置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます