神達による蹂躙(ヴィーザル)

「ヴァーリとバルドルは上手くやったみたいだね……ボクも上手くやらなくちゃ……」


 ヤンマイエン王国に降り立った武術神ヴィーザルは、真っ直ぐ王城へと向かっていた。


 王国とは、君主制の国家のうち、国王を元首とする国家の事をいう。

 ヤンマイエン王国は、王城に王侯貴族全ての者を住まわせ、権力の一極集中を図る不思議な国だ。

 王城さえ落とせば、ヤンマイエン王国は終焉を迎える。


「ボクにできる事は力で捩じ伏せる事だけ……さっさと、壊して次の国に向かわなきゃ……それにしても、うるさいな」


 ヤンマイエン王国に降り立ったヴィーザルは、目の前の障害物を壊しながら、文字通り真っ直ぐ王城に向かっていた。すると、それを咎めるかのように、人間が文句を言ってくる。


「おい。お前っ! そこを動くなっ!」

「誰か! 誰かお願いっ! 兵士を、兵士を呼んでっ!」

「私の家が……建てたばかりのマイホームが……」


 用があるのは王城に住む王侯貴族だけだ。

 国民に用はないんだけど、なんで突っ掛かってくるんだろう?


 目の前の障害物を壊しながら直進するたび、誰も彼もが悲鳴を上げる。


 ボク、人は壊していないのに……。


 それにこんなにも脆い障害物に人が住んでいる訳がない。人々の上げる怨嗟の声を無視して、直進して行くと、人々が石を投げてきた。


「……なにか用?」


 投げられた石を手で払うと、人々に対して視線を向ける。


「なにか用? じゃねーだろっ!」

「家を好き勝手壊しやがって!」

「弁償しなさいよ! 弁償しなさい!」


 うるさい人達だ。

 こっちは必死に力を抑えながら、人を傷付けないように気を付けているのに……。


「なにか言ったらどうなのよっ!」

「ちょっと、誰か兵士を呼んできて!」

「コイツをサッサと捕らえてよ!」


 ああ……もう……。


「うるさいな……」


 そう呟くと、ボクはボクの力を抑えるのを止めた。

 力を抑えるのを止めた瞬間、身体がどんどん大きく膨張していく。


「あ、ああっ……」

「に、逃げ……逃げ……」


 ボクが「うるさい」というと、人々は変な言葉を呟くだけで、投石を止めてくれた。

 コミュニケーションを取る事は得意じゃないけど、人とコミュニケーションを取る事は大切だ。

 今それを実感した。


 久々に人と話すし、折角なので、お願いをしてみる事にする。

 ボクは小さくなった人々を見下ろすと、王城を壊す為、いくつも置かれている箱を貰っていいか、聞いてみた。


「ねえ……これ、貰っていい?」


 ボクが箱を摘みながらそう呟くと、人々は微動だにせず、カクカクと首だけ動かした。

 一人だけ「私の家が巨人に……」と呟き、泡を噴いて倒れてしまったが、きっと体調が悪かったのだろう。


 折角、許可を貰ったので王城を壊す為、足元に転がる箱を利用させてもらう事にした。

 箱を一つ手に取ると、王城に向かって投げつける。


 バキッという音と共に、箱が壊れるも王城にダメージはないようだ。

 精々、城壁の一部に穴が空いた位である。


「これ位じゃ壊れないか……」


 流石は王城、硬く作られている。

 足元に散らばる箱で王城を壊す事ができない事はわかった。

 それなら、ボクが直接叩くしかない。


 仕方がなく王城に向かって真っ直ぐ歩いて行くと、王城から数多の魔法が飛んできた。


 火に水、風に石の魔法。


 危ないと思い、それら全てを避けると、王城から放たれた魔法全てが人々に降り注ぐ。


 魔法が降り注いだ場所に視線を向けると、そこは阿鼻叫喚の地獄と化していた。


 折角、意思疎通できた人々をよくも……。


 怒りが頭の中を駆け巡る。

 気付いた時には、ボクは走り出していた。

 これ以上、被害を拡大させない為にも、王城を潰す事は肝要だ。


 数多の箱を踏み潰し、跳躍すると、着地点に王城がある。完全に着地点を誤ってしまったようだ。


 グシャッ!


 そう音を立てて、王城が潰れる。

 それと共に、付近にあった建物も全壊してしまった。

 どうやら高く跳び過ぎたらしい。


 ヤンマイエン王国が半壊してしまった。

 これでは、父上に怒られてしまう。


 でも、まあいいか……。


 予定通り王城は破壊した。

 王城に住まう王侯貴族は全滅した筈だ。

 それにヤンマイエン王国に住む人々がみんな死んでしまった訳ではない。


 ボクにしては良くやった方だと、そう思う。

 それに父上から受け取った言葉は「お前に任せる。失敗しても気にするな」ただ一言。


 つまり、問題ないという事だ。

 ああ、でもヤンマイエン王国がオーランド王国に降った事だけは国内外に周知しなければならない。


 チラリと王城に視線を向ける。


「そうだ……」


 口下手なボクでも、この方法であれば、ヤンマイエン王国がオーランド王国に降った事を周知する事ができる。


 ボクは、信仰力を使い王城跡地に世界樹を生やしていく。そして、その世界樹に文字を刻むと、ヤンマイエン王国に住む人々に聞こえるよう大きな声を上げた。


「今、この時をもってヤンマイエン王国はオーランド王国の占領地となりました。不満のある方は、このボク、ヴィーザルに申し付け下さい」


 相手は国を半壊させた化け物。

 当然、意を唱える者は誰もいない。


 王城のあった場所に聳え立つ世界樹には、『オーランド王国の占領地』とだけデカデカと書かれている。その事を非難する者は誰もいなかった。

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