大隊長の判断
『イェーッタ迷宮』に異変あり。
もしそれが本当であれば大変な事だ。
万が一、迷宮が踏破されてしまったり、迷宮核に何かあり、迷宮がただの洞窟となってしまえば、私や中隊長の首だけでは責任を取る事ができない。
先程『イェーッタ迷宮』に異変があると、兵士が伝えに来た。
本来、中隊長が伝えにくるべき事ではあるが、中隊長は一体何をしていたのだろうか。
原因究明の為、迷宮内の調査を命じたが、迷宮内の調査には時間がかかる。
まだ原因が特定されていないとはいえ『イェーッタ迷宮』はオーランド王国の経済基盤を支える大切な迷宮。
迷宮に異変があったとあれば、女王陛下に迷宮に異変があった事を伝えねばならぬだろう。
私は女王陛下直通の『通信用の魔道具』を手に取ると、早速、連絡を取る事にした。
この女王陛下直通の『通信用の魔道具』は緊急用。普段、使う事は許されない。
『通信用の魔道具』に魔力を込めると、魔道具を耳に当て、女王陛下に通信が繋がるのをジッと待つ。
すると『通信用の魔道具』に反応があった。
『……私です。緊急用の通信を使うとは、一体何があったのですか?』
女王陛下の声だ。
当たり前と言えば、当たり前の事ではあるが、緊張する。
「大隊長サウリが報告致します。先程、迷宮の警備にあたっていた兵士より『イェーッタ迷宮』に異変ありとの報告を受けました」
『……イェーッタ迷宮に異変ですって?』
この報告には女王陛下も驚いている様だ。無理もない。
「はい。現在、分かっている事は迷宮の掲示板より『現在の階層』表記がなくなっている事のみ。兵士には迷宮内の調査を命じております」
『そう……調査が終わり次第、報告をする事。調査が行われている間、『マリエハムン迷宮』と『ヘルシンキ迷宮』の警備を厳重に行うよう部下に伝えなさい』
「はい。畏まりました」
『それと……大隊長。あなたは一度、戻ってくるように』
「い、いえ、しかし、それでは……」
『その場は中隊長に任せ、あなたは一度、戻ってきなさい。二度は言わないわ』
女王陛下は一体何を考えているのだろうか?
調査報告を待たず、私を王城に呼び戻すとは……。
とはいえ、女王陛下の命令は絶対。そもそも私に拒否権はない。
「畏まりました……」
私がそう言うと、通信がブツリと切れる。
『通信用の魔道具』を置くと、私は椅子にもたれ掛かった。
正直、中隊長に隊を任せる事は不安しかないが、女王陛下に言われては仕方がない。
私は深いため息を吐くと、『通信用の魔道具』で中隊長を呼び付けた。
中隊長を呼び付ける事、十数分。
「「「大隊長、お呼びでしょうか!」」」
テントの中に第一中隊から第三中隊の中隊長が集まっている。
「うむ。中隊長、イェーッタ迷宮に異変があった事については知っているな?」
「イェーッタ迷宮でありますか?」
「いえ、存じておりません!」
「イ、イェーッタ迷宮……何故、その事を……」
三人中二人は『イェーッタ迷宮』に異変があった事を知らない様だ。
「中隊長とあろうと者が、迷宮の異変に気付かなかったのか?」
「「は、はい。申し訳ございません!」」
「いや、イェーッタ迷宮の警備をしていないお前達についてはいい。問題は、クリミア中隊長、お前だ。その様子では、迷宮に異変があった事を知っていた様だな。何故、中隊長自ら報告しに来なかった」
私は中隊長の事をギロリと睨み付ける。
すると、クリミア中隊長はしどろもどろ話を始めた。
「い、いえ、だ、大隊長には、迷宮内の調査を終えてから……そう! 迷宮内の調査を終えてから報告を上げようと思っていたのです。迷宮に異変があったとはいえ、迷宮外にある掲示板ですか? 掲示板に『現在の階層』表記がなくなってしまっただけですので……」
「ほう。やはり、迷宮に異変があった事について認識していた訳だな?」
私がそう言うと、クリミア中隊長は「は、はい……」とだけ呟き俯いてしまう。
全く困った奴だ。迷宮は国の経済の根幹を支える重要な拠点。
この男はその事を理解していないのか?
それに調査というが『イェーッタ迷宮』は第五十階層からなる迷宮。調査をするにしても時間はかかる。迷宮に異変があった事は確実。調査を待っていては、女王陛下も身動きが取れない。
何より、そんな大事な事を私にすら報告しないとは、この男は一体何を考えているのだろうか……。
「まあいい。私はこれより王城へと向かう。その間、お前達はマリエハムン迷宮とヘルシンキ迷宮の警備を厳重に行え、これは、女王陛下の意向だ。イェーッタ迷宮については調査が終了次第、速やかに報告する事。分かっているな」
「「「は、はい!」」」
「うむ。それでは、第一中隊長。お前には大隊長代理役割を命じる。私がいない間の事は任せたぞ」
私は中隊長がテントを出て行った事を確認すると、王城へ向かう為、準備を始めた。
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