ヴォーアル迷宮攻略⑧
ヴォーアル迷宮第72階層、そこはまるで空を湖面に映し出したかの様な、神秘的な風景が広がっていた。
「まるで元の世界のウユニ塩湖みたいだ……」
「うん? ウユニ塩湖?」
「綺麗な光景だね~♪」
足を一歩踏み出してみると、塩の砂粒に薄っすら水が張られている。
恐らくこれが、この神秘的な風景を作り出しているのだろう。
湖面に足を踏み入れると、まるで、雲の上を歩いているかの様な錯覚を覚える。
「まあ、先に進もう」
「そうだね♪ この階層にはあまりモンスターがいないみたいだし♪」
「いや、モンスターらしきものならほら、そこを飛んでいるぞ?」
カマエルさんが空に指先を向ける。
そこには、水かきのある長い脚と長い首が特徴的な、まるでフラミンゴの様な鳥形モンスターが空を飛んでいた。
「あれはフラミンゴかな?」
「悠斗様の元いた世界にもあんな感じのモンスターが沢山いたの?」
ロキさんの問いに俺は頬を掻きながら答える。
「うん。俺が元いた世界にいるのはモンスターじゃなくて動物だけどね」
「動物? モンスターと何が違うの?」
動物とモンスターの違いか……考えた事もなかった。
「う~ん。動物もモンスターもほとんど同じかな? 意味合いとしては……」
「ふ~ん。まあいいや♪ それは置いておいて、早速、第73階層へ続く階段に向かおう♪」
「そうだな。ヴォーアル迷宮に入ってから結構な時間が経過している。さっさと攻略してしまおう」
「それもそうだね」
この神秘的な風景をいつまでも見ていたい気はするけど、そうも言っていられない。
そう呟くと、俺達は第73階層へと続く階段を探す事にした。
俺は自分の影を伸ばすと〔影探知〕で周囲を探索していく。
「悠斗様~♪ 階段、見つかりそう?」
「うーん。少し時間がかかるかも……」
周囲を見渡せば、平面が広がっている。
視線が及ぶ範囲にそれらしいものはない。
「カマエルさんもどう? 階段、見つかりそう?」
俺は上空からの階段捜索をお願いしたカマエルさんに声をかける。
「いや、上から探してもそれらしいものは見当たらないな……」
「そっか……」
上空から探しても階段が見当たらないか……。
どうしようか悩んでいると、カマエルさんが俺の下に戻ってきた。
「仕方がない強行策でいこう」
「えっ?」
カマエルさんの呟きに、顔を上げるとカマエルさんは「〔天ノ軍勢〕」と呟いた。
天ノ軍勢とは、十四万四千もの能天使の指揮官と、一万二千もの破壊の天使を呼ぶカマエルさんのスキル。
カマエルさんは、『天ノ軍勢』の呟きと共に無数の天使を呼び出した。
「お前達、第73階層へと続く階段を探せ、それでは各員散開」
カマエルさんがそう言うと、天使達はその場から飛び立ち階段の捜索に出かけていく。
まさか次の階層へ続く階段を見つける為、天使によるローラー作戦を実行するとは……。
流石はカマエルさんだ。
一国を易々と滅ぼす事のできる戦力をこんな風に使うとは思わなかった。
カマエルさんは天使が散開するのを見届けると、笑顔をこちらに向けてくる。
「それでは、天使達が階段を見つけるまでの間、休憩にしよう」
「そうだねぇ♪ そうしよう!」
「えっ!?」
ロキさんはともかく、天使を指揮する立場にあるカマエルさんはそれでいいのだろうか?
そんな事を考えていると、カマエルさんが以前渡したユートピア商会製の収納指輪から椅子とテーブルを並べ始めた。
何度も言うが本当にそれでいいのだろうか?
カマエルさんがゆっくりとした所作で、椅子にもたれかかると、エールと赤ワイン、チーズをテーブルに乗せ、酒をガブガブ呑みながらロキさんと談笑を始めた。
やはり、天使を指揮する立場にある大天使とは思えない振る舞いだ。
見た目は良いのに、内面が残念過ぎる。
とはいえ、ここまで色々な事がありすぎて疲れてきた。
俺もカマエルさんと同様に椅子に座ると、腕と頭をテーブルに着けうつ伏せになると少しの間、眠る事にした。
「悠斗様……悠斗様~♪ 起きて悠斗様」
「悠斗様、ほら起きて」
「う、う~ん」
俺は目を擦りながら、起き上がると『う~っ』と背伸びをした。
椅子から立ち上がると、カマエルさんが「第73階層へ続く階段を見つけたぞ」と呟く。
「えっ、第73階層へ続く階段を見つけたの?」
「ああ、能天使が見つけてくれたよ。しかし、あんな所にあるとは……」
「あんな所?」
「そうそう♪ 少し行った所に、大穴が開いていてね♪ 第73階層へ続く階段は、この塩湖の下にあったんだよ~♪」
「へぇ~」
流石は十四万四千もの能天使の指揮官と、一万二千もの破壊の天使を呼ぶカマエルさんのスキル。
護衛、破壊、捜索と何にでも応用が利く。
「それでは、行くぞ」
カマエルさんがそう言うと、能天使が第73階層へ続く階段のある大穴へと案内してくれる。
能天使に導かれるまま、塩湖の上を歩いていくと、透明度のある大穴が見えてきた。
「全然気づかなかった」
「本当だねぇ♪ こんなに大きな穴が開いていたんだ~♪」
「全くだ。空から見ていたにも係わらず、全く気付かなかった」
大穴を覗くと螺旋階段の様になっていた。
水が張られていた大地の真ん中にぽっかりと穴が開いている為か、とても滑りやすそうだ。
「それじゃあ、第73階層に向おうか」
俺はそう呟くと、滑らない様にカマエルさんの手を借りながら第73階層へ続く階段を降りていった。
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