ヴォーアル迷宮攻略③

「えっ!?」


 突然、足首を掴まれた事に驚き顔を強張らせると、足元に視線を向ける。


 すると、そこには気持ちが悪い手付きで俺の足首を掴むスケルトンの手が土から生えていた。


「うわああああっ‼︎」


 俺は慌て足を動かし、スケルトンの手を振り解くと、〔影刃〕で地面に埋まったスケルトンを滅多刺しにする。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 今のは危なかった。

 まさかスケルトンが埋まる地面の上を歩いていたとは……。


 俺が息を切らしながら、冷や汗を浮かべていると、ロキさんとカマエルさんが楽しそうな表情を浮かべながら話しかけてくる。


「いや~♪ 悠斗様、頑張るなぁ~♪」

「今も楽しそうに足をバタつかせていたし、そろそろ、墓地フィールドにも慣れてきたんじゃないか?」

「…………」


 一体この神と大天使は何を見ていたのだろうか。

 今も楽しそうに足をバタつかせていた?


 この神と大天使には、スケルトンに突然足を掴まれ、叫び声を上げながら、スケルトンを滅多刺しにする俺の姿が見えなかったのだろうか?


 あまりの恐怖に心的外傷後ストレス障害を発症しそうだ。

 戯言を抜かしているロキさんとカマエルさんにジト目を送っていると、ロキさんが話しかけてきた。


「う~ん♪ でも悠斗様? なんで〔聖属性魔法〕の〔聖なる光〕を使わないの?」

「えっ? 聖なる光!?」

「そうだよ~〔聖なる光〕を使えばアンデッドモンスターなんて簡単に塵にする事ができるのに不思議だなって思ってさ♪」


 そ、そういえば、聖属性魔法にそんな魔法があった気がする。

 気が動転してすっかり忘れていた。

 ロキさんも気付いていたなら早く教えてほしい。


「そういう事は早く言ってよっ……」


 俺は脱力しながら、ロキさんに向かってそう呟く。


「ごめん、ごめん♪ まさか〔聖なる光〕の存在を忘れているとは思わなくてさ♪」


 俺は早速、聖属性魔法の〔聖なる光〕を発動させると、複数の光を周囲に浮かべていく。


 聖属性魔法〔聖なる光〕には、光源としての利用以外にも、光の届く範囲内にいるアンデッドモンスターを消滅させる効果がある。

 これだけ〔聖なる光〕を浮かべていれば、怖いものなしだ。


「悠斗様も元気を取り戻したみたいだし、さあ次の階層に向おう♪」

「う、うん!」


 相変わらず俺が先頭を歩いていると、〔聖なる光〕の範囲内に入ったアンデッドモンスターが消滅していく姿が見える。


 効果は抜群の様だ。


 〔聖なる光〕の効果を確認した俺は、ロキさん達と共に迷宮の奥へと進んでいく。

 アンデッドモンスターに遭遇しないまま、墓地フィールドを歩いていくと、第66階層へと繋がる階段が見えてきた。漸く次の階層に向かう事ができる。


 しかしながら、これまでの経験上、ボス部屋のある階層迄、墓地フィールドが続いている筈……。

 〔聖なる光〕のお陰で、アンデッドモンスターに遭遇しなくて済むのはありがたいが、ひたすら墓地フィールドを闊歩するのは少し堪える。


「ロキさん、カマエルさん、やっぱり俺、影に入っていちゃダメかな?」


 俺がそう言うと、ロキさんとカマエルさんが笑みを浮かべる。


「ああ、ダメだ。まだ一階層しか攻略していないからな」

「そうそう♪ ボクらが頼りになるからって横着しちゃダメだよ、悠斗様♪ さあ、次の階層に向おう!」


 俺はガックリ項垂れると、トボトボとした足取りで第66階層へ続く階段を降りた。


 ヴォーアル迷宮第66階層も第65階層と同じく墓地フィールドだった。

 第65階層と違う点は、空は明るく、草原に灰色の墓石墓地が等間隔に並んでいる事位だろうか?

 まるで元の世界にあるアーリントン国立墓地の様な風景が広がっていた。


「なんだか墓地じゃないみたいだね?」

「そうだな。墓石がなければまるで公園の様だ」


 とはいえ、墓地である事は変わらない。

 聖属性魔法〔聖なる光〕を周りに浮かべながら、第67階層へと続く階段を目指して歩き出した。

 暫く歩くも、全くといっていい程、モンスターが現れない。


「あれ~? おかしいな?? なんでモンスターが現れないんだろうね♪」

「そうだね?」


 全く持って不思議だ。

 本当に何のモンスターも現れない。


 不思議に思いながら、迷宮内を歩いていると不思議な事に気付く。


「おやっ? これは……」

「どうしたの? カマエルさん??」


 カマエルさんが地面に視線を向けるとそこには、ビー玉サイズの魔石が落ちていた。

 辺りを見渡して見ると、ビー玉サイズの魔石がそこら中に落ちている。

 不思議な事もあるものだ。


 俺が首を傾げていると、ロキさんがポンっと手をついた。


「ああ、なるほど~♪」

「どうかしたの、ロキさん?」

「うん♪ なんでモンスターが出てこないのかな~って思っていたけど、その理由が漸く分かったよ♪」

「モンスターが出てこなかった理由?」

「モンスターはこの墓地フィールドの至る所にいた。多分、このフロアにいるモンスターの名前はレイス。魔術師が幽体離脱に失敗した結果、肉体と魂が分離したままになった末に、変貌してしまったとされるアンデッドモンスターさ♪」

「レイス……? という事は?」

「いや~♪ 聖属性魔法の聖なる光、大活躍だね~♪」


 どうやらそこら中に肉体を失ったアンデッドモンスター、レイスがいたらしい。

 一気に背筋が寒くなってきた。

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