後日談②

「それでは悠斗様。私はこれで失礼致します」

「はい。白金貨百万枚は商業ギルド経由で振り込んでおきますのでご安心下さい。借用書もギルド経由で後から送りますね」


 俺がそう言うと、シェトランド陛下は笑顔を浮かべ呟いた。


「ご配慮頂きありがとうございます。それで悠斗様、またここにお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「えっ?」


 いや、シェトランド陛下はこの国の国王なんだから、あまり来られても……。


 そんな事を考えながら、シェトランド陛下に視線を向けると、何故か両手で手を掴んでくる。


「お恥ずかしながら、私、友達と呼べる人がいないのです。王弟殿下という立場にいた為か、同級生の態度もどこか余所余所しく、立場上、話せる内容も限られておりまして……」


 そう言われてみれば、俺もこの世界に来て以来、友達と呼べる存在がいない様な気がする。


 あれ? そう思うとなんだか悲しくなってきた。


「その点、悠斗様でしたら歳も近いですし、王都での立場も盤石。Sランク商人としてユートピア商会の経営もしています。なんでしたら、主に物流や経営の指南役として国政にも関わって欲しい程です!」


 物流や経営の指南役⁉︎

 ユートピア商会の経営は迷宮あり気の経営だ。


 正直な所、迷宮と神様さえいれば誰でもできる。

 そんなイージーモード全開の経営者を国政にも関わらせたら国が破綻してしまう。


「是非、私とお友達になって下さい」

「えっ? いやぁ……」


 俺が何気なくそう呟くと、シェトランド陛下は悲痛な表情を浮かべていた。

 えっ? 何? 俺が悪いの?

 俺今何か言ったっけ?


「い、嫌ですか……」


 なる程、いやぁ……を嫌と勘違いした様だ。

 俺はすぐ様、弁解する。


「いえ! そういった意味で言ったのでは……」

「それでは私とお友達になってくれるのですね⁉︎」

「えっ? それは……」


 立場も責任も何もかもが違うけど、そんなふうに言われたら仕方がない。それに俺も丁度、友達がいない事を認識して、少しだけ寂しくなっていた所だ。

 この際、頷いてしまおう。


 何、王都は迷宮の支配下にある。

 都合が悪い事が起きそうになれば、屋敷神が事前に察知してくれる筈だ。


「はい。それでは友達になりましょう」

「本当ですか!」


 シェトランド陛下が手放しで喜んでいる。

 普通、逆じゃないだろうか?


 王様とお友達になる機会なんてまずあり得ない。

 俺は友達発言に喜んでいるシェトランド陛下を見ると、首元からエストゥロイ領の領主ロイ様に渡したペンダントが見える。


「あれ?」


 確かロイ様に渡した影精霊を付与したペンダント……。なんでシェトランド陛下が?


「シェトランド陛下、それは?」


 俺がシェトランド陛下の首元にかかるペンダントに人差し指を向ける。


「これですか?」


 シェトランド陛下は首元にかかるペンダントを軽く握る。


「これはロイ様から頂いたペンダントです。このペンダントは凄いんですよ? 何せ、影精霊という精霊が宿っているのですから。

 あれ? そう言えばロイ様、Sランク冒険者が精霊を宿らせたと言っていた様な……まさかっ⁉︎」


 何かに気付いた様子のシェトランド陛下が、マジマジと俺の顔を見ている。


「もしかして、このペンダントに影精霊を宿らせたのは……」


 ロイ様も余計な事を……。

 Sランク冒険者が精霊を宿らせたなんて言い方をしては、殆ど個人を特定している様なものだ。


 まあ知られて困る様な事ではない。


「えーっと、はい。多分、そのSランク冒険者、俺の事だと思います」


 シェトランド陛下は驚いたかの様な表情を浮かべると、またもや俺の手を握ってくる。


「悠斗様にお願いがあります!」

「お、お願いですか?」

「はい。お願いです。今の王都は人手が圧倒的に足りていおりません」

「まあそうでしょうね?」


 屋敷神から報告を受けたけど領主会議の日、王城には兵士どころか使用人すらいなかったと聞いている。


 領主会議後、商業ギルドと冒険者ギルドの要請で、王都で働いていたユートピア商会の従業員達を派遣したけど、それだけではどうにもならない筈だ。


「特に人が足りていないのが兵士、そして護衛の数です。度々のお願いとなってしまい申し訳ないのですが、そのペンダントを国の要人を守る分だけでも作成しては頂けないでしょうか? 勿論、言い値で買い取ります」


 うーん。この影精霊付きペンダントをか……。

 正直な所、作る事は簡単にできる。


 しかし、その後が心配だ。


 付与のブレスレットの効果によりユニークスキルの付与を完全には行う事ができない事が発覚しているものの、影精霊一体の力はAランク冒険者並に強い。


 悪用されてしまえばアウトだ。


 本当にどうしようか……。


 俺が、うーん。うーん。と唸っていると、シェトランド陛下が『本当に困っているのです』といった表情を浮かべている。


 まあいいか?


 よく考えたら影精霊はユニークスキル影魔法の派生魔法。影魔法使いの俺の言う事であれば、ある程度は聞いてくれる筈だ。

 それに何度も言うが、王都は迷宮の支配下にある。


 王都内で使用する分には、問題がない筈だ……。


「わかりました。それではこちらをお持ち下さい」


 俺は従業員達のお下がりのブレスレットを取り出した。


「このブレスレットには、三体の影精霊が付与されています。陛下の希望はペンダントとの事ですが、ブレスレットタイプであればすぐに用意する事ができます。お渡しするのはこちらでもよろしいでしょうか?」

「はい。勿論です。ありがとうございます悠斗様!」

「それではこちらをどうぞ」


 俺は影精霊が付与されたブレスレットを使い捨ての収納指輪に移すと、シェトランド陛下に手渡した。


 シェトランド陛下の表情を伺うと、少しだけ安心したかの様な表情を浮かべている。


 王都が大変な状況にある中、突然、国王に祭り上げられたんだ。無理もない。


「それでは悠斗様……いや、悠斗。今日はありがとう。いい気分転換になったよ」


 久しぶりに呼び捨てで呼ばれた事に、少しだけ感慨深く感じる。

 俺はクスリと微笑んだ。


「シェトランドも政務頑張ってね」

「うん。また何かあったら、相談しに来てもいいかな?」

「勿論さ。だって俺達は友達だろ?」


 俺達は互いに笑顔を浮かべると、軽く握手を交わした。

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