領主様との話し合い③

「ゴタさんの依頼で廃坑内から金庫を回収しました」

「はい。お話はゴタ様より聞いております。それでは、倉庫まで着いてきて頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺が冒険者ギルドの受付で金庫を回収した事を告げると、受付のお姉さんが離席中の札を立て掛け席を離れ、倉庫に案内してくれた。


「それでは、こちらに回収した金庫をお願い致します」


 俺は頷くと、受付のお姉さんの案内で金庫ニ基を倉庫に置いていく。

 すると、受付のお姉さんは少し驚いた様な表情を浮かべた。


「こ、これは副ギルドマスターの……い、いえ失礼致しました。ゴタ様からもお話があったかと思いますが、報酬に関しましては、後日、金庫に収められている金品の半分をお渡し致します」

「わかりました。それではまた後日、報酬を受け取りに来ます」

「それでは、金庫の回収を確認致しましたのでギルドマスター室に案内致します」

「はい。よろしくお願いします」


 受付のお姉さん案内の下、ギルドマスター室を訪れると、ドアを叩き「失礼します」と言いながら部屋に入る。すると、そこにはドレーク人形の様なデザインの紙を片手に持ち、笑顔を浮かべながらロイ様と思わしき人に抱き着いている少女の姿があった。

 ロイ様と思わしき人も、少女に抱き着かれデレデレしている。娘さんだろうか?

 これは入るタイミングを間違えたかもしれない。


 俺がドアの前で呆然とした表情を浮かべていると、ロイ様と思わしき人が俺に声をかけてきた。


「おお、君が悠斗君か!」


「はい。佐藤悠斗と申します」


 俺がそう言うと、ロイ様の娘さんがロイ様から離れ俺に向かって近付いてくる。


「お父様! この方が先程の人形を作って下さる方なのですね! えーっと、名前は悠斗と言ったかしら?」


 俺はロイ様に困った様な視線を向けるも、そのロイ様の娘さんに向かって返事をする。


「はい。そうですが……」

「そう! それでは、私の指定する人形を用意なさい」

「えっ⁉」


 突然の事に驚きの表情を浮かべていると、ロイ様が声をかけてくる。


「こらこら、ラフィ。今から私は悠斗君と大事な話し合いがあるんだ。人形の件はその後にでも頼んでおこう。ラフィはゴタと一緒に家に戻っていなさい」

「えー! 私も話し合いに参加する!」


 ロイ様はゴタさんに視線を向ける。

 ゴタさんは「畏まりました」と呟くと、にこやかな笑みを浮かべ、ラフィと名乗る娘さんの背中を押し部屋の外に向かって歩いてく。


「さあ、お嬢様。お人形の件はロイ様に任せて参りましょう」

「いやー! 私も話し合いに参加する!」

「お嬢様。ロイ様を困らせてはなりませんよ」


 ゴタさんはそう言うと、そのまま部屋から出ていった。


「いや、娘がすまないね。私はこのエストゥロイ領の領主ロイ・エストゥロイだ。今は盗賊として捕まったヨルズルの代理でギルドマスターを兼任している。まずはソファーに座ってくれ」


 言われた通りソファーに座ると、受付のお姉さんがハーブティーを持ってきてくれる。

 折角なので、ハーブティーを口にすると爽やかな香りが鼻孔をくすぐった。


「美味しい……」


 思わずそう呟くと、ロイ様が笑みを浮かべる。


「そうだろう。特別に用意した高級茶葉だからね。それで……悠斗君、真面目な話に入る前にこれを見ては貰えないだろうか?」


 すると、ロイ様は一枚の紙をテーブルに置いた。

 その紙には、まるでドレーク人形の様な絵が描かれている。


 何故、ドレーク人形の絵がここに?

 俺は少し混乱しながら呟いた。


「これは?」


 すると、ロイ様は申し訳なさそうな表情で呟く。


「い、いや……。実は先日、娘がドレーク盗賊団に攫われてしまったのだが、その際、この人形に助けられたと言うんだよ。いや、そんな人形いる訳がないとは思ってはいるのだが、娘がこれと同じ様な人形が欲しいと言い出したんだ。ユートピア商会でこれに似た人形を作る事はできないだろうか?」


 えーっと、これはどういう状況だろうか?

 っていうか、娘さん盗賊団に攫われていたの⁉

 いいの? そんな情報俺に話して……。


 それに今、ドレーク人形が欲しい。みたいな発言が聞こえた様な気がしたけど……聞き間違いだよね?


「すいません。よく聞き取る事ができませんでした。もう一度、言って頂いてもよろしいでしょうか?」


 すると、ロイ様は頬をポリポリと掻きながら話し出す。


「いや、悠斗君。君の言いたい事もわかるよ? 『何言ってんだコイツ?』みたいな事を思っているんだろう? それは私も同じさ、愛娘の話やお願いでもなければ、こんなお願いはしなかった。私も何が何だか分からず混乱しているんだよ。

 何故かはよく分からないが、ドレーク盗賊団に攫われた娘がこのドレークそっくりのメイクをした人形に助けられ、このドレークみたいな人形を気に入ってしまったらしいんだ。

 ドレーク盗賊団に攫われてしまったのに、その元締めであるドレークの化粧をした人形を娘に与えるのは些か抵抗があるが娘がそう言う以上仕方がない。悠斗君、君には大変申し訳ないとは思うけれども、どうかこの人形の作成を引き受けてはくれないだろうか?」


 どうやら先程の話は聞き間違いじゃなかった様だ。

 娘さんを助けたの、どう考えてもドレーク人形だよね?

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