領主様との話し合い①

「もう手に入れてきたの⁉ 随分と早かったね!」

「はい。ただ人形が金庫を二基、別々の廃坑から拾ってきた様でして……。いかが致しましょうか?」

「金庫が二基?」

「はい。一度中を検めさせて頂くという手段もございますが……」


 ゴタさんはそんな事言っていただろうか?

 てっきり、一基だけだと思っていた。


 まあ金庫の中にはヨルズルさんが盗賊から受け取った金品や様々な重要書類が納められているとか言っていたし、多分、金庫を分けて管理していたのだろう。

 それに下手に金庫に手を出して、領主様の不興を買いたくはない。


「いや、中を検めるのは止めておこう。万が一、金庫の中を勝手に見たのがバレたら面倒臭い事になりそうだし……」


 正直、それを表情に出さない自信がない。


「承知致しました。それでは、こちらに来て頂けますか?」


 俺は鎮守神についていくと、そこには大きな金庫が二基置かれていた。


「こ、これは凄いね」


 そこには、俺が想像していた金庫とは違う。まるでワンルーム全てを金庫にしたかの様な金庫が二基置かれていた。


「それではこれを収納指輪に収めて頂けますか?」

「う、うん。わかった!」


 金庫を収納指輪に収めると、鎮守神に視線を向ける。


「それじゃあ、鎮守神。今から冒険者ギルドに行ってくるね!」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 俺はゴタさんとの約束通り冒険者ギルドに向かう事にした。

 ◇◇◇


 私の名前は、ロイ・エストゥロイ。

 エストゥロイ領を治めるフェロー王国の領主だ。


 今、私は少しばかり大変な事に巻き込まれている。


「ロ、ロイ様! お嬢様の件、いかが致しましょう⁉」

「まあ待てゴタ……。まずは落ち着け」

「し、しかし、犯人と思しき盗賊から手紙が届いているんですよ! お嬢様が盗賊に攫われたなんて知られればどうなる事か……。ロイ様は心配ではないのですか?」


 心配じゃないかだと?

 当然、心配に決まっているだろうがっ!

 ラフィは、蝶よ花よとこの上なく大切に育ててきた私の娘だぞ⁉

 私の気も知らないで勝手な事ばかり言いおって……。


 私は犯人と思わしき盗賊から届いた手紙をグシャリと握り潰す。


 問題が発生したのは昨日未明、友達と外に遊びに行くと邸宅を出て行ったのを最後に我が愛娘ラフィ(十歳)が帰って来なかった事から始まる。


 勿論、心配性な私は護衛をつけようとした。

 当然だ。ラフィはエストゥロイ領を治める領主の娘。

 護衛をつけるのは当たり前の事である。


 ただ、最近は護衛を就けると、護衛のその顔の怖さからかラフィのお友達が泣き出したり、揚句の果てには、ラフィに「お父様なんて嫌い」と言われてしまう様になった為、ラフィに就ける護衛の数を少数に絞り、秘密裏に護衛にあたらせていたが、今回はそれが仇となってしまった。


 なんと護衛が一瞬、ラフィから目を放した隙に攫われてしまったらしい。

 護衛曰く、攫われる瞬間を見てはいないらしいが、その場には手紙が置かれていた。


 そう。今私が握り潰した手紙がそうだ。

 中を検めて見ると、ドレーク盗賊団という元Sランク冒険者ドレークが率いる盗賊団によって攫われてしまったらしい事が書かれている。


 だとしたら、迂闊に動く事はできない。

 何せ、ラフィを攫った相手……。勿論、この手紙が本当に元Sランク冒険者のドレークが率いる盗賊団だと仮定しても相手が悪すぎる。


 私兵団の中には、現Aランク冒険者も数人いるが流石に元Sランク冒険者を倒せるほどの実力はない。

 冒険者ギルドに依頼をかけるにしても、この件が相手に知られれば、過激な行動に出ないとも限らない。


 ハッキリ言って八方塞がりだ。


 私が頭を悩ませていると、ドタドタと誰かが廊下を走る音が聞こえてくる。

 そして、突然、扉が開くとそこには盗賊に攫われた筈のラフィの姿があった。


「お父様っ!」

「ラ、ラフィ?」


 盗賊に攫われた筈のラフィが何故ここに?

 私は茫然とした表情を浮かべると、椅子から立ち上がりラフィの元に駆け寄った。


「ラフィ……。ケガはないか? さ、攫われたと聞いたが……。いや、そんな事はもういい。とにかく、ラフィが無事でよかった……」


 混乱していて、何て言葉をかけたらいいかわからない。

 取り敢えず、無事帰ってきた事に安心していると、ラフィが興奮気味に声を上げた。


「お父様! 私、人形さんが欲しいわ!」

「に、人形さん?」


 と、突然、何を言っているんだ?

 一体何の話をしている……。に、人形さん⁇


「そう人形さんよ! 人形さんが私を助けてくれたの!」

「に、人形さんがラフィを助けてくれた⁇」


 益々よく分からない。

 いや、きっと怖い思いをしてラフィも気が動転しているのだろう。


「はははっ、ラフィは面白い事を言うなぁ。人形さんは動かないよ。それよりラフィどうやってここに……」

「助けてくれたもん! 人形さんは動くもん! お父様は私が嘘をついていると言うの? ひどいっ……」


 ラフィの目尻に涙が滲む。

 ラフィが泣きそうな雰囲気を悟った私は慌てた表情を浮かべた。


「ラ、ラフィ? 父様はラフィの事を信じているよ。ラフィはお人形さんが欲しかったんだよね? どんなお人形さんが良いのかな? 今度、父様とお買い物に行こうか?」


 私はラフィを抱き寄せると、頭を撫でながらそう言った。

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