ヨルズルの依頼(sideヨルズル)②
「そろそろ悠斗君が来る時間か……」
私は子飼いのAランク冒険者2名(悠斗の従業員に捕えられたA級冒険者にして盗賊団の団長にして犯罪奴隷)と合流すると、冒険者ギルドの前で佐藤悠斗を待つ事にした。
すると子飼いのAランク冒険者であるレイとマークが面倒臭い事を言ってくる。
「ヨルズルさん。今から来るあの悠斗って子、Sランク冒険者なんだよね?」
「ええ、その通りです」
「だったらよ。少しばかりそいつの事を試させて貰ってもいいか?」
はあ? 何を言っているんだこいつ等は……。お前らは一度、奴の従業員によって捕えられたばかりだろう。これから廃坑調査に見せかけて佐藤悠斗を消す為に行動を起こそうって時に、不信感を持たれる様な行動をしてどうする。
「駄目に決まっています。万が一、あなた方のせいで計画に支障をきたしたらどうするつもりですか……。駄目ですよ。絶対駄目ですからね? いいですか、これはフリではありませんよ」
「そうですか~。残念です」
「全くだな」
何故だろう。全く残念そうに見えない。
そんな事を話していると、待ち時間から少し遅れて佐藤悠斗がやってきた。
「お待たせしましたヨルズルさん!」
私は平静を装うと、笑顔を浮かべて佐藤悠斗に返事をする。
「やあ、悠斗君。準備は済んだかい?」
「はい!」
「そうか。それは良かった」
いや本当にこの依頼を受けてくれてよかった。
漸くストレス源とおさらばできる。君がいなくなる事で今日からゆっくり寝ることが出来そうだ。
私が笑顔を浮かべていると、レイとマークが視線を向けてくる。
ああ、わかっていますよ。
「そうだ。出発の前に彼等の紹介をさせて貰おう」
私が視線で合図すると、レイとマークは佐藤悠斗と握手をする為、手を伸ばす。
一瞬、レイとマークが仮面越しに頬を歪ませた。
おい、こいつ等何をするつもりだ!? やめろ! おいっ!
私が心の中でそう叫ぶも、レイとマークには届かない。
「やあ、君がSランク冒険者の佐藤悠斗君かい? 私はAランク冒険者のレイだ。よろしくね」
「仮面越しですまないな。俺はAランク冒険者のマークだ。本日はよろしく頼む」
佐藤悠斗が礼儀正しく礼をすると、レイとマークと握手を交わした。
「Sランク冒険者の佐藤悠斗です。本日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしくね」
「よろしく頼む」
すると、レイとマークの横顔がハッキリと歪む。
「「ぐっ……」」
あいつら余計な事を……。
恐らく佐藤悠斗の手を握り潰しにいって逆にやり返されたのだろう。
全く……。なんて事をしてくれたんだ。
気まずい空気が流れる中、私は佐藤悠斗に出発しようと声をかける。
「さ、さあ、自己紹介も済んだ事だし、早速、廃坑調査へ向かおうではありませんか!」
「そうですね。廃坑から戻ってこないSランク冒険者の安否も気になりますし早速向かいましょう」
どうやら、佐藤悠斗は今の事を気にしてはいない様だ。
それにしてもAランク冒険者の握力に打ち勝つなど相当のSTRがなければ無理だ。
これは計画を遂行する為にも、廃坑に行く前に体の動きを麻痺させる薬を飲ませた方がいいかもしれない。3杯以上飲まれてしまうと麻痺毒に気付くかもしれないが、1杯程度であれば体調が悪いかなと思う位で、麻痺毒を飲まされたと気付かれないだろう。
私はそう心に決めると、颯爽と馬車に乗り込んだ。
馬車に乗り込むと、馬車の中は静まり返る。
普段、あれ程無駄に喋り倒すレイとマークが借りてきた猫の様に大人しくなっていた。
手を握り潰されたのが堪えているのか、佐藤悠斗とは目を合せもしない。
「えっと……。これから行く廃坑ってどんな所なんですか?」
気まずい時間が半刻ほど流れた所で佐藤悠斗が廃坑について質問してきた。
正直、あまり情報を与えたくはなかったが仕方がない。
「そうですね……。これから行く廃坑は通称、冥府の扉と呼ばれる危険な所です。廃坑内は廃坑とは思えない程広く、どこかの地下空洞と繋がっています。場所によっては見えない致死性ガスや酸欠、眼球角膜を損傷させる腐食性ガスが発生しているので注意が必要です。廃坑内は蓄光石と呼ばれる光る石が散りばめられている為、意外と明るくガスと崩落に気を付ければ問題ないと思います」
まあ、廃坑内には君と戦いたいと言っていたあの戦闘狂が既に待機しているので、ガスや酸欠だけに気を割いていると死んでしまうかもしれませんがね。
「ヨルズルさん。どうやら廃坑内に入って直ぐ廃坑が崩落するみたいなんですが、どうしましょうか?」
すると、佐藤悠斗がそんな事を聞いてきた。
確かに廃坑内に入って直ぐ爆発物で廃坑を崩落させ君と戦いたいと言っていた元Sランク冒険者ごと生き埋めにしようと思ってはいたが何故ばれたんだ?
「廃坑が崩落? 一体なぜそんな事がわかるんだい?」
こんな時は誤魔化すに限る。
すると、佐藤悠斗がこんな事を言ってきた。
「え~っと、Sランク冒険者としての長年の勘といいますか……。なんといいますか……」
いやお前、Sランク冒険者に成ってから間もないだろうが……。とはいえ、その勘とやらは的を射ている。仕方がない……。計画を少し変更し、直接、元Sランク冒険者の元まで送り届けた上で退路を塞ぎ元Sランク冒険者に佐藤悠斗の排除をして貰おう。
元Sランク冒険者が相手だ。現Sランク冒険者といえど佐藤悠斗の命運もここまで……。
万が一、生き残ったとしても廃坑には致死性のガスが噴き出る場所がいくらでもある。
まず生きて廃坑を出る事は敵わない。
「ふふふっ、悠斗君。廃坑の話を聞いて怖くなるのはわかりますが、私達が入って直ぐ崩落するなんてそんな事ある訳がないじゃないですか。考えすぎですよ。おや、馬車はここまでの様ですね。ここからは歩いて廃坑へと向かいます。途中、私の別荘があるのでそこで休憩してから向かいましょう」
私が笑顔を浮かべそう呟くと、御者が降りるよう声をかけてくる。
「さあ、まずは私の別荘へと向かいましょう。私の話を聞いた悠斗君も少し不安に思っているようですし、廃坑の調査前に気分を整える事はとても大切です。私オリジナルのハーブティーを振る舞わせて頂きますよ」
これが君の味わう最後のハーブティーだ。
残り少ない人生を楽しむがいい。
私は佐藤悠斗にウインクすると、馬車をゆっくりと降り別荘へと向かう事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます