新しい迷宮の番人

 商業ギルドに到着した俺達は、早速、エストゥロイ領の空いている土地を吟味していく。


「ここなんて良いんじゃないか?」


 マスカットさんが手に取ったのはケァルソイ迷宮に近く大通りに面した土地だ。

 ケァルソイ迷宮に近い為か地価が高く、中々買い手がつかない土地らしい。


 しかし、ケァルソイ迷宮に近い為、生傷の絶えない冒険者相手に万能薬の需要が見込めそうだ。

 それに、この位の金額であれば、ひと月でペイできる。


「確かに、この場所はいいですね。ケァルソイ迷宮に近く、迷宮から冒険者ギルドへの通り道にもなっているので万能薬の需要が見込めそうです」


 ユートピア商会を閉めている間、迷宮では人形達が一生懸命、食肉の加工や万能薬の作成、紙祖神カミーユさんからの紙回収作業などを行ってくれている。


 慰安旅行中は人形達に仕事を頑張って貰おう。

 しかし、それだけでは商会経営をする事ができない。

 それとは別にエストゥロイ領で従業員を雇う必要もありそうだ。


 俺は従業員達の住む場所用に隣接した土地も購入する事にした。


「これとこれに決めました。直ぐに土地を購入したいのですが……」


 俺がそう呟くと、後ろからギルドマスターが声を掛けてきた。


「流石はSランク商人であらせられる悠斗様。お目が高い。ただ、こちらの土地は売り出し人の希望により一括払いのみとなっておりますが、よろしいでしょうか?」


「はい。問題ありません」


 収納指輪から白金貨3,500枚(約3億5千万円)を取り出すと、1,000枚ずつ袋に入れてギルドマスターに手渡す。


「これはこれは、土地の一括購入ありがとうございます。しかし悠斗様、商業ギルドとは言え価格交渉もSランク商人に必要なスキル。私共と致しましてはありがたい限りではございますが、これでは聊か頂き過ぎです。白金貨500枚はお返し致します」


 どうやらこの土地の値段は価格交渉ありきの値段設定だったらしい。


「えっ? 定価が白金貨3,500枚になっているのにいいんですか?」


「はい。マスカット様の紹介ですし、Sランク商人の悠斗様にはこれからも当ギルドを懇意にして頂きたいと存じておりますので」


「ありがとうございます。また何かあれば利用させて頂きますね」


「はい。よろしくお願い致します」


 エストゥロイ領の商業ギルドで土地を買った俺は、マスカットさんと別れ、土地神トッチーと共に地図を片手に購入した土地の元へ向かった。


「ここかな?」


「ここのようですね」


 大通りを歩いて15分位の場所に開けた土地がある。

 俺と土地神トッチーは、その土地に入ると周囲から様子が探れない様に塀を築く事にした。


「それでは悠斗様。今から塀を築きますので少々お待ち下さいませ」


 土地神トッチーが〔土属性魔法〕で土地を囲う様に塀を築くと、俺は土地の中心地点に迷宮核を埋め、購入した土地すべてを迷宮化するイメージで迷宮核に魔力を流した。


 すると、迷宮核が白く輝きだした。


「お疲れ様です。悠斗様。これでこの土地の迷宮化は成りました。後は、鎮守神チンジュガミ様のお手並み拝見といきましょう」


「鎮守神?」


 土地神トッチーが迷宮核を埋めてある方向に視線を向けると、光の粒の様なモノが集まり温厚そうな好々爺が顕現する。


「初めまして悠斗様。私はこの土地の守護を務めさせて頂きます鎮守神チンジュガミと申します。私のことはチッシーとお呼びください」


 チッ、チッシー?

 屋敷神ウッチーといい土地神トッチーといい、なんで皆そんなフランクなあだ名を好むんだろう?


鎮守神チッシーさんですね。佐藤悠斗です。これからよろしくお願いします。突然で申し訳ないんだけど、鎮守神チッシーさんのステータスを〔鑑定〕してもいいかな?」


「勿論でございます。それでは私からも〔鑑定〕している間、悠斗様の頭を撫でていてもよろしいですかな」


 鎮守神チッシーがそう呟くと、俺は頭を差し出す。

 この位で〔鑑定〕させて貰えるならお安いものだ。


「では、失礼して……」


 鎮守神チッシーが俺の頭を撫でている最中、俺は鎮守神チッシーに〔鑑定〕を発動させる。


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 鎮守神チンジュガミ Lv:-

 種族:神族(ボスモンスター)

 STR(物理):6000  DEX(器用):6000

 ATK(攻撃):6000  AGI(素早):6000

 VIT(生命):6000  RES(抵抗):9999

 DEF(防御):9999  LUK(幸運):100(MAX)

 MAG(魔力):6000  INT(知力):6000


 スキル:迷宮変化チェンジ自動迎撃アタック自動防御ディフェンス人形化ドール顕現メニファステーション物質変換コンバージョン土壌改良カスタム

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 迷宮変化チェンジ:迷宮の構造を変化させる。

 自動迎撃アタック:悪意を持って迷宮に入ろうとするものを自動で迎撃する。

 自動防御ディフェンス:悪意を持って迷宮に入ろうとするものを入れなくする。

 人形化ドール:対象を人形に変化させる。

 顕現メニファステーション:人型に顕現することができる。

 物質変換コンバージョン:迷宮内にある物質を自由に変質、変換、加工することができる。

 土壌改良カスタム:土壌を自由に改良する。

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 すごい。ステータス値は変わらないものの、持っているスキルが完全に屋敷神ウッチー土地神トッチーの上位互換だ。


鎮守神チッシーって凄いんだね」


 俺がそう呟くと、鎮守神チンジュガミはニコリと笑いかける。


「まだまだ若者には負けません。さて、悠斗様。この土地をどの様に致しましょうか」


「う~ん。取り敢えず、この迷宮と王都にある迷宮を繋げてくれないかな?」


「畏まりました。それでは、悠斗様。お手数をおかけして申し訳ないのですが、迷宮核に魔力を注いで頂いてもよろしいでしょうか」


 鎮守神チンジュガミは迷宮核が鎮座している台座を俺の目の前に置くと、迷宮核に魔力を注ぐ様促してくる。


「わかった。ちょっと待ってて」


 俺は迷宮核に手を添えると、ゆっくり魔力を注いでいく。


「悠斗様。迷宮核に魔力を注いで頂きありがとうございます。これだけ魔力を注いで頂ければ十分です」


 鎮守神チンジュガミが迷宮核に触れると地面から建物が迫上がってくる。

 迫上がってきた建物は、まる王都ストレイモイにあったユートピア商会の様だった。

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