第八章 フェロー王国動乱編
フェロー王国の国王崩御
フェロー王国の国王であるトースハウンは王都ストレイモイの財政に頭を抱えていた。
トントンと指で机を叩き、一枚の収支報告書を凝視する。
商業ギルドからの税収、白金貨200万枚(約2,000億円)。
冒険者ギルドからの税収、白金貨200万枚(約2,000億円)。
そして国営事業の収入、白金貨100万枚(約1,000億円)。
支出、白金貨500万枚(約5,000億円)
「ここは王都ストレイモイだぞ。王都にも拘らず税収がたったの白金貨500万枚(約5,000億円)とはどういう事だ? 支出と合わせると±0になってしまうではないか。」
特に昨年まで白金貨300万枚(約3,000億円)あった商業ギルドの税収の落ち込みが凄まじい。
「宰相よ。商業ギルドからの税収の落ち込みが凄まじいのだが、昨年と何か変わった事はあるか?」
政務と書類整理に追われ、それ以外の事に手を付ける余裕がない今、こういう事は宰相に聞くのが一番だ。
「昨年と変わった事ですか……。そうですね。商人連合国アキンドの評議員リマ様が解任され、犯罪奴隷になった事。そして、王都に新しくユートピア商会がオープンした位でしょうか? ああ、そう言えば最近、ユートピア商会の若き会頭が商業ギルドのSランクになったそうですよ。フェロー王国の若者からSランク商人が生まれるなんてとても喜ばしい事です。」
「商業ギルドからの税収が落ちた理由は、評議員のリマ殿が原因か……。それにしても、そのユートピア商会の会頭は中々やり手のようだ。若い商人がギルドに認められSランクに認定される等、中々ある事ではない。」
我が国から次世代の担い手が出てきてくれている事は喜ばしい事でもある。
「だが根本的な問題は解決しないままか……。」
なんとか税収を増やす方法はないものか。
「そういえば、以前、財務大臣からユートピア商会の国営化案が出されていましたな。」
「確かに、しかし国営化となれば国に商会を献上させる様な物。ユートピア商会の会頭が納得しても商業ギルドが納得しない。商人連合国アキンドもだ。」
「そうですね。今の王都の流通はユートピア商会が殆どを握っていますし、あの商会とは、持ちつ持たれず、程々の距離感でありたいものです。リマ殿の失脚もユートピア商会に手を出したからと噂されていますからな。」
収支報告書を机に置くと、手を付きゆっくり立ち上がる。
「仕方がない。元々、我が国はギルドに頼り過ぎている。まずは国営企業の収入を増やす方策を整える方向で会議を進めよう。もう行ってよいぞ。」
「それでは、私はこれで……。」
宰相が扉から出ていくと、途端に部屋が広く感じる。
「ままならぬものだ。」
窓からの景色を見ながらそう呟くと、途端に眩暈を覚えた。
「むっ。いかん。最近働き過ぎか……?」
トースハウン国王の朝は早く、夜は遅い。
最近起きたアゾレス王国とマデイラ王国の戦争による経済への影響。
移民申請に、スラムの人口増加。数えきれない問題を抱えていた。
年のせいか、視界がぼやけて見える事も多くなってきている。
今回は疲れが強く出てしまっただけだろう。
トースハウンは、ふら付きながらも寝室に辿り着くと、ゆっくりと横になる。
そして、トースハウン国王は永遠の眠りに付いた。
翌日、トースハウン国王崩御の報がフェロー王国中を駆け回る。
王都ストレイモイは暫くの間、悲しみに包まれた。
経済的、政治的な混乱を招かぬ様、国王には第1王子ノルマンが即位。
即位後ノルマンは、父トースハウンの遺志を継ぎ、恒久の平和と王都ストレイモイの財政を立て直す事を墓前に報告し精力的に活動する事になる。
「商業ギルドからの税収が、白金貨200万枚(約2,000億円)とはどういう事だ。昨年の税収は白金貨300万枚(約3,000億円)であったではないか! 商業ギルドの責任者を呼べッ! いますぐだ!」
ノルマンは、手に持っている収支報告書を机に叩き付ける。
「し、しかし陛下。トースハウン前国王も、税収が下がった理由は、評議員のリマ殿の失脚にあると理解され……。」
「そんな事は理由にならん! 商業ギルドもこの王都で活動する以上、少なくとも昨年度と同等の税金を納めて貰わなくては困る。それに評議員リマの失脚が原因だとしたら、益々、損失分を補填して貰わねばならぬではないか。評議員リマの失脚は、商人連合国アキンドに問題がある訳だからな。」
「しかし……。」
「くどい! さっさと商業ギルドの責任者を呼んで来いッ!」
何を言っても聞かぬ若き王に、少しばかりの失望を覚えるも、これも王命。
従わない訳にはいけない。
「か、畏まりました。ただ今遣いを出しますのでもう少々お待ち下さいませ。」
今回は仕方がない。
一度手痛い失敗をして頂き、ゆっくりとトースハウン前国王の様に育て上げよう。
そんなつもりで商業ギルドの責任者を呼ぶ事にした。
しかし、この時の選択が後々、大事に発展していく事に、この時の宰相はまるで気付いていなかった。
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