大司教ソテル襲来④

「で、瞬間移動テレポーテーション。」


 大司教ソテルは命辛々に屋敷神ウッチーの猛攻撃から逃げると、自身に完全治癒パーフェクトヒールをかける。


「はぁはぁはぁはぁっ! 神様とは、強大で恐ろしいものですね……。ロプト神様のお力をお借りしなければ危ない所でした……。しかし、困りましたね。ルチアを神の御許へと送り届けない限り、ロプト神様からの神託を賜わる事ができません。」


 ソテルは大量の汗を流し四つん這いの姿勢のまま、考えを巡らせる。


「困りました。困りました。困りました。困りました。」


 ふと、気配を感じ視線を上に向けるとそこには先ほどまで対峙していた屋敷神ウッチーが顕れる。


「本当に困った方ですね。こんな所まで逃げているなんて……。」


 ソテルが瞬間移動テレポーテーションしたのは、悠斗邸にある迷宮の地下1階層目の入り口前。

 ルチアに向かって瞬間移動テレポーテーションをしたが、地下第1階層前の扉の前で弾かれてしまった。


「あ、あなたは……。」


 屋敷神ウッチーはニコリと笑うと、手を差し伸べてくる。


「さあお立ち上がり下さい。私は倒れている方に攻撃を仕掛ける程、野蛮ではございません。先ほどの続きを致しましょう。」


「…………。」


「おや、どうされました。さあ、立ち上がって、もしやようやく身の程を知ったのですか? 家畜でも鳴き声くらい上げる事ができますよ? あなたは人間なのですから言葉位喋れるでしょう?」


 ソテルは膝をつき手で顔を覆うと、大声を上げて笑い出す。


「ふふっ、ふふふふふっ。確かに……確かに神様の力がこうも強大だとは思いませんでした。あなた、とってもお強いですね……しかし、ロプト神様の門徒として、他の神様に魂を捧げる事はできません。」


「ではお立ち上がり下さい。」


「ええ、そうさせて頂きます……ね!」


 ソテルは立ち上がって直ぐ、十数本の杭を空中から取り出すと、屋敷神ウッチーに向かって射出する。


「ほう。まだそんな事ができましたか……。」


 そして、屋敷神ウッチーが杭を防いでいる間に数十体の異端審問官たちの遺体を取り出すと、神聖魔法と生ける屍リビングデッドの魔法を掛け合わせ不朽体イモートの魔法を発動させる。


 不朽体イモートとなった異端審問官たちが屋敷神ウッチーへと飛び掛かる。


「ふふふっ、不朽体イモートの魔法は、ロプト神様の御力を生ける屍リビングデッドに注ぐ事で疑似的なロプト神様の御力を再現したものです。神の力を宿した数十体の不朽体イモートを倒す事ができますか? あらっ……。」


 ソテルはその場から後ろに跳躍すると、足元が鋭利な刃へと変化していく。


「ああ、ああっ。危ない所でした……。またザクザクされてしまう所でしたね。」


 屋敷神ウッチーは一体一体、不朽体イモートを箱に閉じ込め、動けない様、刺し止めておく。


「流石はロキ様の御力です。因果律に干渉するその力……とても厄介ですね。」


「ああ、ああ。折角の不朽体イモートが、まるでピン標本の様に……。」


 ソテルの不朽体イモート屋敷神ウッチーによって、次々と身体に刃を突き立てられ、その場から動けなくなっていく。


「仕方がありません。これほどとは思ってもみませんでした。忌々しい事この上ないですが、ここは一時退却と致しましょう。瞬間移動テレポーテーション。」


 ソテルは、ルチアを一時的に諦め、瞬間移動テレポーテーションで悠斗邸から脱出する事にした。


 瞬間移動テレポーテーションで消えゆくソテルを眺めながら屋敷神ウッチーは呟く。


「全く、騒がしい方ですね。暴れるだけ暴れてお帰りになるとは……片付けをするこちらの身にもなってほしいものです。これは、ロキ様に処理して頂きましょう。全く、ロキ様も困ったお方です。」


 屋敷神ウッチーは最後の不朽体イモートを刺し止めると、それを纏めて箱に詰めロキのいる階層へと転移する。


「おや、ロキ様はいらっしゃらないようですね……ようやく、動き出して頂けましたか……。」


 屋敷神ウッチーが目を閉じると、ダイニングで悠斗とルチアが食事を摂っているのが見える。

 邸宅内にロキがいないという事は、重い腰を上げようやくソテルの対処に向かったのだろう。



 時は少し遡り、突然転移してきたソテルから逃れる為、ルチアと共にロキの階層へと影転移トランゼッションした悠斗は悩んでいた。

 ロキの階層は、悠斗邸地下迷宮の中でも特に個性的で、赤い空、下を見れば青い海がどこまでも広がっている不思議空間である。


 カマエルが謹慎中の今、狂信者ソテルからルチアを守る為には、この場所に逃げ込むのが一番手っ取り早い。一番手っ取り早いのだが……。


「悠斗様、ここは……。」


 っといったように、ルチアから質問が飛んでくる。


「ここは、ロキさんの創った階層……。つまり迷宮の中です。ここならあの人も追って来れないだろうから安心して下さい。」


「め、迷宮の中ですか……。初めて入りました。迷宮ってこんなに綺麗な所なんですね。」


「お~♪ 君すっごく見る目があるね! ここはボクの階層。ここならソテルも入ってこれないから安全だよ♪」


 ルチアと話をしていると、どこからともなくロキが顕れた。


「ロキさん、あの人ソテルの対処をしてくれたんじゃなかったの?」


 俺がそう言うとロキが「ううっ!」っといった表情を浮かべる。


「そ、そうなんだけどね。やっぱり、あれを止める為には準備が必要なんだよ。ほら、ボクは今、神託を降さない様に他の神々に煩く言われているからさ♪」


「……でっ? 結局どうするか決まったの?」


 そう質問すると、ロキが「う~ん。」と悩んでいる。

 まだ対応を考えあぐねている様だ。


「あの、悠斗様? 先ほどから……いえ、屋敷神ウッチー様とお会いした時から思っていたのですが、そちらの方も神様……なのですか?」


 突然神様に会って驚いているのだろうか。なんとなく言葉の文脈がおかしい。


「そうだよ~♪ ボクの名前はロキ。君に『悠斗様に手を出したら教会の権威が失墜するほど滅ぼすからね』って神託を降した神様さ♪ 神託を正しく理解してくれて嬉しかったよ。何度となく神託しても全然違う内容で伝わっちゃうから、てっきりボクがおかしいのかなって思っていたからさ♪」


「そ、そうですか……。な、なんで悠斗様は神様と気軽にコミュニケーションを取っているのいるのですか!?」


 ルチアさんの様子がなんだかおかしい。

 驚愕の表情で俺に問いかけてきた。


「え~っと、偶々?」


「偶々、神と気軽にコミュニケーションとる事なんてできませんよ!」


 全くもって正論だ。

 とはいえ、本当に偶々だから仕方がない。


「まあ、いいじゃありませんか。まずはあの人を何とかする方法を考えましょう。後このことは絶対に内緒ですよ。」


「そ~だよ~♪ 他の人に知れたら、ボクが天罰を下すからね♪」


「て、天罰っ! か、畏まりました!」


 いい具合に、ロキがフォローしてくれた。

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