順番に並ぶのは大事だよね
翌日、一台の馬車がユートピア商会の前に止まる。
お客様が大勢並ぶ中、とても不快で迷惑な馬車。それが例え、王城の馬車と分かっていてもそれは同じことだ。
まるで『道を開けろ』とでも言わんばかりの位置に馬車を停止させ、馬車から降りた御者が開店前のユートピア商会に近づいていく。
「おいッ! 順番を抜かすなよ!」
「そうよ、偉そうに! 私が一番に並んでいたのよ!」
「おい! 並べって言っているだろッ!!」
ユートピア商会に並ぶお客さんたちは、どう考えても高貴なお方が入っているであろう馬車から降りてきた御者の肩を掴み、御者が商会に入ろうとするのを止める。
「おい、邪魔だッ! 私はユートピア商会の店主に用があって来たのだ。邪魔をするなら……。」
御者が馬車で待つ主を待たせまいと、肩に置かれた手を掴み後ろを振り向くと、そこには鬼の形相をした冒険者たちがそこにいた。
「邪魔をするならなんだって?」
「おい、なに急にビビッていやがる……アァッ!?」
「テメェ、俺たちに喧嘩を売ろうってェのか?」
「いい度胸しているじゃぁねェかッ!!」
ユートピア商会では、最近になって、火属性魔法や、水属性魔法が付与された魔剣が数量限定で販売されている。その魔剣の値段は、白金貨50枚(約500万円)と決して安くはない値段が付けられているが冒険者の間では争奪戦が起きる程の人気を博していた。
通常、迷宮に潜り低確率で宝箱から出現する魔道具の値段は安くても白金貨100枚(約1,000万円)。しかも期待通りの効果を持つ魔道具が手に入るか分からない。
しかし、ユートピア商会では、1日に3本限定で様々な種類の属性魔法が付与された魔剣を定価の半額で手に入れることができる。それ故に、その魔剣を求め、多くの冒険者が殺気立ちユートピア商会に列を成していた。
そんな彼らにとって、横入りは万死に値する行為。それが誰であろうとも……。
そんな事を知らない御者は酷く困惑していた。
あの馬車から降りてきたのがこいつらには見えていなかったのだろうか?
王城からの遣いであることは馬車を見れば一目瞭然、なぜそれが分からない??
「まあ、御者の兄ちゃん。悪いことは言わねーから、一番後ろに並べよ。列を乱すな、横入りはいけない。子供でも分かる道理だろ? あと十数分で開店なんだからよ。」
冒険者たちは、御者の背中をバシバシ叩くと、御者を列の最後尾へと追いやる。
「ああ、御者の兄ちゃん!
「全く邪魔よね。」
「こんなに列を成して並んでいるのに、列が見えなかったのかしら?」
「全く、常識がなってねぇな!」
冒険者たちも、あの馬車から降りてきた御者を蔑ろにした訳ではない。
ただ、『横入りはいけない』、『列は最後尾から並ぶ』、『並んでいる人の邪魔をしない』といった当たり前のことを言ったに過ぎない。
そもそも、王城の遣いだから、貴族だからといって優遇する方がおかしいのだ。
並び順を譲る道理にはならない。
あまりの物言いに、御者も唖然としてしまう。
御者は仕方がなく、馬車に戻り、中にいた財務大臣から叱責を受けるも、渋々、馬車をユートピア商会から離れた場所に停める。
「おいッ! なぜユートピア商会から離れた場所に馬車を停めるッ!! 佐藤悠斗はどうしたッ! 呼んできたのではないのかッ!!!」
「も、申し訳ございませんッ!」
財務大臣と列に並ぶお客さんとの板挟みとなってしまった御者は恐縮するしかない。
「もうよいッ! 私が直々に会いに行くッ!!」
そう言うと、財務大臣は馬車の扉を開け、冒険者たちの並ぶユートピア商会の入口へと向かう。
そう、並んでいる人など気にせずズカズカと……。
財務大臣がユートピア商会の正面入り口近くまで辿り着いた辺りで、ユートピア商会の扉が開かれた。
午前9時、ユートピア商会オープンの時間である。
「おはようございます! ようこそユートピア商会へ! 只今よりオープンです!」
すると、並んでいた冒険者たちが殺気立ち魔剣の置いてある売り場、雑貨フロアまで脱兎のごとく走り出した。
当然、並び順を無視し、ズカズカ進んでユートピア商会の正面入り口近くに来ている財務大臣のことなど彼らの頭にはない。彼らの頭の中にあるのは、誰よりも早く雑貨フロアに辿りつき、魔剣をこの手にすること……それだけである。
その進行方向のセンターにいる財務大臣はひとたまりもない。
「そこを退けッ!」
「邪魔だッ!!」
「横入り野郎がッ!!」
次々と冒険者たちに肩をぶつけられ、揚句の果てには、邪魔だと、突き飛ばされてしまう。
それだけで終わればまだよかった。
その後も、多くの人々が頭を抱えながらうつ伏せになっている財務大臣を足蹴にユートピア商会の中に入っていく。
――十数分後、並び順を無視し、ズカズカ進んでユートピア商会の正面入り口近くに行った者の末路がそこにはあった。
財務大臣は満身創痍、とてもじゃないが、今日話し合いをすることはできない。
その様子を見ていた御者は、ユートピア商会の従業員に後日また来ることを告げ、財務大臣を馬車に乗せるとその場を後にした。
順番を無視したものの末路に震えながら……。
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