ビートルズ
夢美瑠瑠
ビートルズ
掌編小説・『ビートルズ』
おれは、恋人の文乃(ふみの)と、「山手線ゲーム」で、遊んでいた。
瀟洒で清潔なリビングには六月の日差しが眩惑的に射し込んでいた。
梅雨の晴れ間で、窓からは滴るような緑が覗いていた。
おれは初夏の植物が熱帯のそれのように熱気と湿気をむんむんさせて、
じっとりと生命力を匂いたたせているような感じが好きだ。
植物の香気に噎(む)せる感じ、というのか・・・
人間の生殖能力も六月に最も旺盛になるというが、さもありなん、と思う。
それがきっと地球の生命のサイクルなのだろう。
・・・交際してまだ一か月だが、文乃はおれ好みの美形で鼻が高い。
肌も白くてすべすべである。
そして、鈴を転がすような声で喋る。
その声でコロコロ笑うと、華やかな感じになるのがチャーミングだった。
休日だが予定がキャンセルになったといって、カノジョは今日初めて家に遊びに来たのだ。
おれの部屋が散らかっているので、
リビングでソファに座って二人でタピオカティーを飲んでいた。
「じゃあ、ビートルズの日だっていうからビートルズ縛りでいこうか。
古今東西・・・ビートルズのメンバー」
「リンゴスター」
「ジョージハリソン」
「ポールマッカートニー」
「ジョンレノン」
「オノヨーコ」
「それは奥さんだろ。おれの勝ちだな」
「じゃあ、古今東西・・・ビートルズの曲!」
「イエローサブマリン」
「ノルウェイの森」
「レットイットビー」
「イエスタデイ」
「ラブミードウ」
「ヘイジュード」
「うーん・・・ノーウェアマン」
「ええと・・・わかんないー」
「ブーッ。おれの勝ちだな」
「じゃあねえ、武道館公演でビートルズの前座を務めた人」
「ドリフターズ」
「クレージーキャッツ」
「内田裕也」
「あんまり知らないのよねーダメー」
「またおれの勝ちだな。先攻のほうが有利なんかなー」
「ビートルズのトリビアなんてあんまりないわよね。
80年代までの外人のバンドにしよっか」
「ローリングストーンズ」
「キッス」
「クイーン」
「クリストファークロス」
「カルチャークラブ」
「メンアットワーク」
「ホールアンドオーツ」
「バンドでしょ?うーん、ジャパン」
「カジャグーグー」
「スクリッティポリッティ」
「ペンギンカフェ」
「フランキーゴーズツーハリウッド」
「ビレッジピープル」
「スーパートランプ」
「ストロベリースイッチブレイド」
「ウェザーリポート」
「ディスティニーズチャイルド」
「ポリス」
「トーキングヘッズ」
「トムトムクラブ」
「チープトリック」
「うーん、あれ?わかんないなー」
「また勝ったなーひゃはは」
「あら?これ何?」
文乃はおれの足元をのぞき込んで、置いてあるアイフォンを取り上げた。
おれはさっきから足でそれを操作して答えを検索していたのだ。
「ずるいーそんな器用なことできるのね。
八百長じゃないの。
山手線ゲームなんかするんじゃなかった。
馬鹿馬鹿しいわね」
「ごめんなーだけどこんな小説で稿料とか取ろうとしたら
ぶん殴られるだろうな」
「当たり前でしょ。馬鹿ね」
大笑いしあってから二人で庭に出ると、
紫陽花と合歓の花が綺麗に咲いていた。
梅雨が明けたら二人で海に行って、甲羅干しをして
真っ黒に肌を焼こうな、と約束した。
おれは(夏の終わりまでにはカノジョを陥落させてやるー)と、密かに誓った。
文乃が処女かどうかは知らなくて、てんびん座の女だけあって?、
プー太郎のおれとエリートサラリーマンの某を両てんびんに
かけているらしいということしか知らないのだ。
川端康成の「バッタと鈴虫」という掌編小説に倣うと、
この子は鈴虫だな、とおれは思っている。
おれの方はバッタかもしれないが・・・
<終>
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